夏目漱石(そうせき)の短編小説。1906年(明治39)4月『ホトトギス』に発表。翌年1月、春陽堂刊の『鶉籠(うずらかご)』に収録。親譲りの無鉄砲で損ばかりしている主人公が、四国の中学校に数学教師として赴任し、宿直の夜にイナゴ攻めにあうなど生徒たちのいたずらに悩まされる。果ては教師間の内紛に巻き込まれ、生来の正義感を爆発させた。同僚の「山嵐(やまあらし)」と協力して、奸悪(かんあく)な教頭「赤シヤツ」らに「天誅(てんちゅう)」を加え、辞表を出して四国を去るという筋。
1895年(明治28)から翌年にかけて、松山中学に英語教師として勤めた体験が反映しているが、事実の裏づけはない。小説の成功は主人公「坊つちやん」の素朴明快な性格の創造に負うところが多く、彼のよき理解者である老婢(ろうひ)清(きよ)の点描も印象的である。単純なプロットにふさわしく、文体も畳み込むようなリズムを最後まで失わない。江戸っ子らしい侠気(きょうき)と諧謔(かいぎゃく)にあふれた佳作で、南国の太陽を思わせるさわやかな読後感が、いまなお多くの読者を集めている。
[三好行雄]
『『坊っちゃん』(岩波文庫・旺文社文庫・角川文庫・講談社文庫・新潮文庫)』▽『平岡敏夫著『漱石序説』(1976・塙書房)』
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