シャン(読み)しゃん(英語表記)Shan

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャン」の意味・わかりやすい解説

シャン(民族)
しゃん
Shan

ミャンマービルマ)のシャン州を中心に居住する民族。タイ諸族の一部。その言語シャン語はタイ語と密接な関係にある。ビルマの歴史を語るときには、ビルマ人だけでなく、シャン人の動向にも注目する必要がある。この民族の古代の歴史や、民族名の起源などについてははっきりわからないことが多いが、8世紀以前からすでに、東南アジアの河谷沿いに居住地をつくって住み着いていた。やがて13世紀になって、元(げん)の侵攻を受けたビルマ人のパガン朝が衰えると、シャンは北部地方において勢力を伸ばし、16世紀までの間、この地方を支配した。シャンは小土侯国に分かれ、サオパーとよばれる首長のもと、絶えず戦闘を行っており、統一国家としてのまとまりはなかった。16世紀なかばになるとシャン諸国はビルマ人のタウングー(トゥングー)朝の支配に服し、以後は政治的にも文化的にもビルマ化されるようになった。その後、19世紀のイギリスによるビルマ併合、20世紀に入ってからのビルマ独立と社会主義政府の樹立を経て、シャンはビルマ連邦に参加することになり、サオパーも代々継承してきた権力を放棄するようになった。シャンのおもな居住地は、東部高原のシャン州であるが、ほかの地域や、かつての首都ヤンゴン(ラングーン)などの大都市にもシャンの共同体がある。シャンは農耕民で、水稲陸稲をはじめ、ジャガイモ、茶、コーヒー、藍(あい)、小麦、綿花、タバコ、オレンジ、モモ、アンズ、ナシなどを栽培する。また、山の斜面ケシを栽培し、生産されたアヘンの多くはタイへ密輸されている。シャンの人々は銀細工や絹織物に優れているほか、ターバンの上にかぶる竹の葉鞘(はざや)で編んだ帽子やシャン紙などでも有名である。彼らの大多数は上座部(小乗)仏教徒であるが、ビルマ仏教の影響を強く受けている地域では、僧侶(そうりょ)たちの戒律はより厳しく守られ、パゴダ仏塔)もビルマ人のものと類似している。

[清水 純]


シャン(ミャンマーの地名)
しゃん
Shan

ミャンマー(ビルマ)東部、シャン高原を占める州。面積15万8222平方キロメートル、人口546万1500(2003推計)。州都タウンジー。シャン高原は構造的には中国雲貴(うんき/ユンコイ)高原に連続し、その基盤はおもに結晶岩と石灰岩からなり、標高は900~1200メートルである。その上を南北の走向をもつ標高1800~2400メートルの山脈群が走り、一方、サルウィン川とその多くの支流およびイラワディ川水系ミツゲー川などの河谷に帯状の低地が刻まれている。住民は、言語、宗教、生活様式が異なる10に近い民族に分かれる。州人口のなかばを占める仏教徒のシャン人は、高原上に点在する大小の盆地で水稲耕作を行う。彼らは12世紀以来、世襲制首長が統治する多数の小国に分かれていた。山の斜面や稜線(りょうせん)付近には、パラウン人、ワ人、ラフ人、アカ人など狩猟採集と移動農耕に従事する山岳民族が閉鎖的な生活を送っている。産業は、イラワディ川沿岸低地にはみられない温帯気候を利用して茶、コーヒー、タバコ、柑橘(かんきつ)類の栽培、家畜の飼養が行われるほか、サルウィン川流域にはチーク材の伐採、管流(くだなが)しがみられる。北部のボードウィン、南部のマウチで鉛、亜鉛を産し、金や銀も採掘される。鉄道は北部にマンダレー―ラシオ線、中部にタージー―シュエニャウン線があり、道路は州都タウンジーを経てタイ国境に達するものと、ラシオからムセに至るビルマ公路があるが、一般に交通は未発達である。

[酒井敏明]

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