マロリー・ワイス症候群(読み)マロリー・ワイスしょうこうぐん(英語表記)Mallory-Weiss syndrome

六訂版 家庭医学大全科 「マロリー・ワイス症候群」の解説

マロリー・ワイス症候群
マロリー・ワイスしょうこうぐん
Mallory-Weiss syndrome
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 1929年、マロリーワイスという医師が飲酒後、嘔吐を繰り返すうちに吐血した患者さんを調べたところ、胃の噴門部(ふんもんぶ)に縦走する裂創(れっそう)からの出血であったことがわかり、これを報告しました。それ以来、飲酒後、繰り返して嘔吐・出血し、検査で胃に縦走潰瘍を認める場合を、マロリー・ワイス症候群と呼んでいます。

原因は何か

 繰り返して嘔吐することで腹圧が上がり、食道の出口から胃の入口付近(食道胃接合部付近)に、胃軸に沿って左右に強い伸展力を受け、粘膜が縦方向に亀裂を起こし、その裂傷(潰瘍)から出血するためです。

 嘔吐の原因に飲酒が関与する割合は30~50%と報告され、必ずしも飲酒が原因ではありません。飲酒以外の原因には、食中毒、乗り物酔い妊娠悪阻(にんしんおそ)つわり)などがあります。

 一方、マロリー・ワイス症候群による吐血は、上部消化管出血の10%前後にあたります。11~8対1で男性に多く、年齢は平均45~50歳とされていますが、小児の報告もあります。

症状の現れ方

 繰り返す嘔吐後の吐血、下血、心窩部痛(しんかぶつう)(みぞおちあたりの痛み)、立ちくらみなどがあります。痛みを伴う場合は、特発性食道破裂(とくはつせいしょくどうはれつ)(食道壁全層が破れたもの)の可能性があります。

 出血量が多い場合は、ショック状態になります。出血量は平均1000ml前後から2000mlとされ、輸血が必要な場合は10~50%と報告されています。

検査と診断

 一般の血液検査貧血の状態をみます。潰瘍部分の判定には、以前は胃X線検査を行っていたのですが、潰瘍部が浅い場合はわからないため、現在は吐血で受診した患者さんには、上部内視鏡検査(胃カメラ)を行っています。

 内視鏡検査では、どこから出血しているか、潰瘍の深さ、大きさ、出血がどのような形態か、すなわち動脈性か、じわじわとした出血か、すでに止まっているかなどを観察します。

 マロリー・ワイス症候群の潰瘍を統計的に検討すると、潰瘍の部位は胃にあることが多く、潰瘍の数はひとつで、大きさは1㎝くらいまでのものが多くみられました(図10)。

治療の方法

 内視鏡検査で潰瘍から動脈性の出血が確認された場合は、ただちに内視鏡下に止血処置を行います。出血が止まっていても、潰瘍に凝血塊が付着しているもの、露出血管のあるものは再出血する可能性が高いため、同様に内視鏡下で止血処置を行います。止血処置には、潰瘍の露出している血管にクリップをかける方法、血管を電気焼灼(しょうしゃく)する方法などがあります。

 処置後は、潰瘍の深さ、全身状態などによりますが、一般に潰瘍の深いものは入院し、絶食輸液療法などの治療を行います。潰瘍の治療として、H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬を服用します。

病気に気づいたらどうする

 99%に保存的治療が可能です。したがって、嘔吐した時に出血した場合は、なるべく早く内視鏡検査が行える診療所、病院を受診してください。

村田 洋子


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マロリー・ワイス症候群」の意味・わかりやすい解説

マロリー‐ワイス症候群
まろりーわいすしょうこうぐん
Mallory-Weiss syndrome

嘔吐(おうと)を繰り返す結果、食道と胃の接合部付近の粘膜に裂傷が生じて出血を起こす病態。アルコールの大量摂取が原因となることが多く、アメリカの病理学者マロリーGeorge Kenneth Mallory(1900―1986)と医師ワイスSoma Weiss(1898―1942)が、死亡したアルコール依存症患者の解剖結果をもとに1929年に初めて報告した。腹腔(ふくくう)内圧の急激な上昇により食道に圧がかかることが原因となる。乗り物酔いや食中毒、妊娠悪阻(おそ)(つわり)などによって嘔吐が誘発される場合や、激しい咳(せき)やくしゃみ、排便なども腹腔内圧の上昇をきたすため病因となりうる。食道と胃の接合部付近の噴門部を縦走する粘膜裂傷からの出血を認めることが多い。新鮮血の混じる吐血がほとんどであるが、まれに下血することもある。出血は少量であることが多いが、大量出血するとショック状態に陥る。マロリー‐ワイス症候群は、消化管出血全体のおよそ10%前後を占め、40~50歳の男性に多い。食道にかかる圧が元に戻れば自然に止血することが多く、一般的に予後は良好である。出血が持続する場合には、止血クリップや焼灼(しょうしゃく)術など内視鏡的止血術が有効である。

[編集部]

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改訂新版 世界大百科事典 「マロリー・ワイス症候群」の意味・わかりやすい解説

マロリー=ワイス症候群 (マロリーワイスしょうこうぐん)
Mallory-Weiss syndrome

激しい嘔吐などにより腹腔内圧が急激に上昇したために,食道胃接合部付近(主として胃側)に裂創が生じ,吐血を起こす疾患をいう。1929年アメリカの病理学者マロリーG.K.Malloryと内科医ワイスS.Weissが,飲酒後嘔吐を繰り返したのちに大量の吐血をして死亡した患者4人の病理解剖によって,初めて病態を明らかにした。発症の誘因は飲酒による反復性の嘔吐が最も多いが,食中毒,車酔いなど他の原因による激しい嘔吐でも起こる。また嘔吐でなくても激しい咳やくしゃみで起こることもある。かつては出血源不明のまま手術されたり死亡したりしたが,内視鏡検査とくに出血後早期(24~48時間以内)に行う緊急内視鏡検査により容易に診断されるようになった(X線検査による診断は困難である)。たいていは安静および輸血・輸液・止血剤投与などの内科的治療によって治癒する。出血が持続して大量の輸血によっても全身状態が改善しない場合は手術が行われる。
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家庭医学館 「マロリー・ワイス症候群」の解説

まろりーわいすしょうこうぐん【マロリー・ワイス症候群 Mallory-Weiss Syndrome】

[どんな病気か]
 食道内や胃内の圧が上昇し、食道の粘膜(ねんまく)が裂けて出血をきたす病気です。
 裂けるのは粘膜だけで、特発性食道破裂(とくはつせいしょくどうはれつ)(「特発性食道破裂(ブールハーフェ症候群)」)のように、内容物が胸腔(きょうくう)や腹腔(ふくくう)にもれ出ることはありませんが、大量の吐血(とけつ)や下血(げけつ)がおこり、出血性ショックにおちいって生命が危険になることがあります。
 飲酒、暴飲暴食などの後の嘔吐(おうと)の際におこることが多いものです。
[治療]
 食道の内視鏡検査で診断しますが、その場で内視鏡を介して止血剤を塗布したり、電気で傷口をふさいだり(電気凝固)、止血クリップをかけたりします。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内のマロリー・ワイス症候群の言及

【傷】より

…肛門にみられる裂肛は硬くて大きい便が排出されるときに,肛門の過度の伸展により生じた裂創である。吐血,下血を主訴とするマロリー=ワイス症候群Mallory‐Weiss syndromeは,頻回の嘔吐を繰り返すことによる胃内圧亢進のために食道下端部から胃の噴門部の粘膜に生じた裂創である。
[咬傷bite wound]
 人または動物の歯でかまれてできた創傷。…

【消化管出血】より

…しかし,胃癌での出血は,慢性持続性出血の型をとるものが多いため,下血の形をとることが多い。また,飲酒後嘔吐した際に食道胃接合部近傍粘膜に裂傷を生じ出血するマロリー=ワイス症候群も大量出血を起こす。そのほか,遺伝性出血性末梢血管拡張症では,家族内に吐血が頻発することから診断される。…

※「マロリー・ワイス症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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