湖や海の堆積物の上に半埋没あるいは堆積物中に浅く埋没して存在するマンガンMnと鉄Feの酸化物を主とする黒色の塊をマンガン団塊(マンガンノジュール。以下団塊と略す)といい,大部分は水深4000~6000mの海底にある。イギリスのチャレンジャー6世号の世界周航探検の途上で,1874年に得られたのをはじめとして世界各地の深海底から多くの団塊が発見され,91年に詳細に報告された。団塊に含まれるマンガン,ニッケルNi,銅Cu,コバルトCoは需要の急激に増加している希少金属であり,たとえばコバルトなどはジェットエンジンの製造に必要な戦略物資であるにもかかわらず,主要先進国の大半は,そのほとんどを輸入に頼っていることから,団塊の鉱物資源的重要性が強調され,1973年までに団塊の世界的分布,特徴などがほぼ判明した。
団塊は一般に中心部に岩石,化石などの核があり,そのまわりにMnとFeの酸化物を主とする鉱物(大部分は非晶質)の薄層(厚さ平均2~5μm)が同心円状に集積している。外形は球状,楕円体状,ブドウの房状,板状などで,一般に核の形に似ており,またいくつかの団塊の癒着したものも多い。海水に接した表面は細粒状か滑らかで,堆積物に接した面は粗い。色は褐色ないし青味がかった艶のない黒色,湿比重は約1.95,孔隙率は約60%,含水率は40~50%,大きさは一般に直径20cm以下で,3~7cmが多く,1mm以下のものは微小団塊(マイクロノジュール)と呼ばれる。団塊は大別すると2型あり(図1,2),s型は堆積物上に半埋没しており,扁平で,上面は滑らかで下面は粗く,おもなマンガン鉱物は10Åマンガナイト(トドロキ石に相当)とδ-MnO2を含む。r型は堆積物中に浅く埋没しているもので,ほぼ球状で,表面は上下とも粗く,おもなマンガン鉱物は10Åマンガナイトだけである。r型はs型よりNi,Cu,Znを多く含み,経済的に重要であるが,賦存量はs型より少ない。
団塊はおもに海底で成長する自生鉱物より形成されるので,陸源砕屑物の堆積速度の非常に遅い(1~5cm/1000年),したがって陸地より遠く離れた深海底,とくに石灰質プランクトン(有孔虫など)の殻の堆積しない深海底に多く,それゆえ太平洋に最も多い(図3)。太平洋の北緯6°30′と20°の間,西経110°と180°の間の海域は〈マンガン銀座manganese nodule belt〉と呼ばれ,その褐色粘土とケイ質堆積物(放散虫軟泥と放散虫粘土)中に団塊が多い。とくにケイ質堆積物中の団塊はNiとCuを褐色粘土中の団塊の約2倍含む。現時点で企業的に採掘可能と思われる団塊は平均賦存量が10kg/m2,平均金属含有率はNi+Cuが2.25~2.4%,あるいはNi+Cu+Coが2%以上の団塊であり,それはケイ質堆積物の分布海域にある。深海産団塊の成長速度は1~6mm/100万年である。
なお,団塊と類似の成因で鉄・マンガンを主とする金属層(鉱物はおもにδ-MnO2)が海底に露出する基盤岩石の表面を覆っているものはクラストcrust(encrustationともいう)と呼ばれ,海嶺や海山の頂部に広く分布する。太平洋ではカリフォルニア半島沖とメンドシノ断裂帯中の海山や中部太平洋海山群,天皇海山群でコバルトに富んだ厚い(10cm以下)クラストが分布する。ハワイ火山列に沿ったクラストは形成時代の新しいハワイ沖では厚さはゼロに近く,古い火山であるミッドウェー島沖や天皇海山群に向かって厚くなり7~8cmに達する。ハワイ近海のコバルトに富むクラストは団塊に比して浅海(水深2000~3000m)にあり,採掘費の安い連続バケット法で採掘でき,またアメリカ領海内または付近にあるので,国際連合海洋法条約に加入しないアメリカがクラストの採掘を計画しているようである。太平洋のほかクラストは大西洋中央海嶺とインド洋のカールズバーグ海嶺にも広域にわたり分布している。
採鉱は海底で団塊を集める集鉱作業と,集めた団塊を船上まで揚げる揚鉱作業が最も重要な部分である。種々のものが考案されているが,企業的に可能と思われる方法は揚鉱法によって,(1)流体ドレッジ方式,(2)エアリフト方式,(3)連続バケット方式,に分類される。(1)は電気掃除機にヒントを得たもので,水中に設置した負圧ポンプを用いて,船から海底に下ろした鉄管(揚鉱管と呼ぶ)で海底の団塊を海水とともに船上に吸い上げる方法,(2)は船上の加圧ポンプで空気を揚鉱管の途中に圧入し,空気の上昇によって管内に上昇水流をつくり,空気・海水・団塊・泥の混合物を船上に押し上げる方法,(3)はたくさんの採掘バケットをつるした長い連続した浮きロープを海底にループ状に下ろし,船上のモーターで運転し,バケットに入った団塊と泥を船上に運ぶ方式である。(1)と(2)の実験は1978年に水深5000m以上のマンガン銀座(ハワイ南東)で行われ,大量の採鉱に成功した。(3)は日本の増田善雄の考案したもので,機構的には最も簡単であるが,(1)(2)に比して非能率的で,水深3000m以浅では実用性がありそうだが,水深5000m以上の深海底では不適と考えられている(1982年のハワイの国際会議による)。
団塊の処理は基本的には陸上の鉱石の処理と同じであるが,団塊は大部分が非結晶質鉱物より成るので,選鉱は難しく,直接製錬する方式が考えられている。しかし,団塊は多孔質で水分を40~50%も含むので乾燥に大量のエネルギーを要し,また鉱滓に比して合金が少ない(鉱滓の約1/5)ので乾式製錬は不適当である。したがって湿式製錬(浸出法)に重点が置かれている。団塊中の金属成分のすべてを回収するのが望ましいが,Ni,Cu,Coの回収に重点を置いている。現在ではケネコット・グループのキュープリオンcuprion法がエネルギー消費,試薬消費,設備費の面から最良と考えられているようである。団塊の採掘・製錬には環境汚染の問題があるが,この研究はあまり進んでない。
太平洋の団塊中のこれらの元素の埋蔵量は陸上資源中の埋蔵量と比較して非常に大きい。Mn塊を開発しようとする先進国側とその独占を心配する発展途上国側(Cu,Ni,Coなどの資源を多量にもち,団塊の開発に伴うそれら金属の価格の低下をも恐れている)との間では1973年に始まった第3次国連海洋法会議で激しい議論がかわされ,82年に発展途上国と日本に有利な国連海洋法条約が採択された。その採決にはアメリカは反対し,イギリス,西ドイツ,ソ連は棄権したので,国連海洋法条約のもとに鉱区の割当てができても,条約に参加しない国が独自に決める鉱区と重複して紛争が起きる可能性がある。最も有望なハワイ南東海域の採鉱・開発に関して日本,アメリカ,フランス,西ドイツ,イタリア,イギリス,オランダ,ベルギーの西側8ヵ国の間で開発鉱区協定が84年8月に締結された。日本では深海資源開発株式会社(政府出資70%)が1982年に設立され,開発鉱区の本格探査に入った。
執筆者:内尾 高保
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世界の4000~5000メートルの深海底に普遍的に分布しているマンガンを主成分とする黒褐色の塊。球状ないし楕円(だえん)体状で、直径は数センチメートルから十数センチメートルのものが多い。分布は太平洋に多く、大西洋やインド洋、大陸の近くに少ない。成分は場所などにより一定ではないが、マンガン15~30%、鉄15%、ニッケル0.1~0.5%、コバルト0.3~1.0%、銅0.1~0.4%である。その成因および海洋による分布の相違の原因などについては、まだよくわかっていない。
深海底のマンガン団塊は、19世紀にイギリスのチャレンジャー号の世界周航海洋大探検の際に発見採取されている。しかし、1960年代からは海洋地球物理学という面と、海洋資源開発という実用的見地から、各国が調査・研究と、実用的な採取法の開発にしのぎを削っている。マンガン団塊を含む深海底の鉱物資源開発については先進国と発展途上国の間でも対立があり、長い間国連の海洋法国際会議で議論されてきた。その第三次会議は1973年の第1会期から82年の第11会期までのマラソン交渉で、国連海洋法条約の草案を採決した。日本は83年(昭和58)に同条約に署名し、「深海底鉱業暫定措置法」を定め、施行している。また、85年から五か年計画で、第二白嶺(はくれい)丸を使用し、南太平洋のマンガン団塊、熱水鉱床、コバルトクラストの調査を行っている。
[半澤正男]
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(小林和男 東京大学名誉教授 / 2007年)
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マンガンノジュールともいう.深海に広く分布するマンガンと鉄が主成分の団塊状の沈殿物.組成は質量比で示すと,Mn 1.3~35%,Fe 4.8~42%,Ni 0.02~2.4%,Co 0.02~2.6%,Cu 0.02~2.0% などで,多くの金属元素を濃縮している.一般には3~5 cm の塊で,岩石片,サメの歯やクジラの骨,古い団塊の破片などを核として数100~1000万年の時間をかけて成長したとみられる.赤道域北太平洋深海底にもっとも高密度に分布しており,Cu,Ni,Coなどの資源として注目されている.
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[海底資源]
紅海中央部では1960年代に重金属を大量に含む泥が発見され,亜鉛,銅,銀に富んだ熱水鉱床として注目されている。マンガン団塊はインド洋全体に広く分布し,その中央部や西オーストラリア海盆中央部にかなり濃集しているが,本格的採鉱はまだ予定されていない。リン鉱床はアフリカ南端沖以外は望みが薄い。…
…このIOCに対する科学分野の諮問機関としてSCOR(Scientific Committee on Oceanic Research)がIOC設立当初から協力しているが,工学分野の諮問機関として72年にECOR(Engineering Committee on Oceanic Resources)が組織された。 1967年,マルタの国連大使パルドArvid Pardoが当時注目されはじめていた海底のマンガン団塊を指して,一部の先進国によってこの種の資源開発が独占されることを憂い,〈深海底とその資源はすべての人類にとって共有の遺産と考えるべきである〉旨の演説を国連で行い,70年にはこの主旨が国連の決議として採択されるに至った。これらを受けて海洋をめぐる国際法を見直す気運が生じ,73年には領海,大陸棚,経済水域,深海底資源などについて新しい海洋の秩序の樹立を目指して第3次の国連海洋法会議(UNCLOS,United Nations Conference on the Law of the Sea)が開かれ,長期にわたる討議が始まった。…
…沿岸国の管轄権の下にある大陸棚より外側の海底区域(海底とその地下)。この深海底区域には,マンガン,ニッケル,コバルトなどの非鉄金属を多量に含むマンガン団塊が豊富に存在しており,最近の採取技術の進歩により,その開発が可能な段階に到達している。これまでの公海自由の原則によれば,公海である深海底の鉱物資源の開発・管理はどの国でも自由に行うことができた。…
…海底堆積物
[海底資源]
石油・ガス田は,生物遺骸を多く含む厚い堆積層の発達を必要とするため,現在は北海,メキシコ湾北岸沖,南アメリカ北岸沖(特にオリノコ川沖),コンゴ川沖よりニジェール川沖にかけてのアフリカ西岸沖などで,開発・採取されている。海底マンガン鉱床は,マンガン団塊が海底面上で海水に長期間さらされて生成されるため,全般的に堆積速度の速い大西洋では,太平洋ほど豊富ではない。バルト海,ブレーク海台からフロリダ半島沖にかけての北アメリカ東岸沖,南大西洋ではリオ・グランデ海台からウォルビス海嶺にかけて,またスコシア海周辺に,まとまった分布が認められている。…
…こうした現世堆積物の分布パターンの詳細は,堆積物柱状サンプルでも認められ,地質時代をさかのぼって,海底拡大に伴い古海洋学環境がいかに変わってきたかを知るのに役立っている。海底堆積物
[海底資源]
海底に長くさらされ平均10万年に厚さ1mmの速度で被覆成長するマンガン団塊は,ニッケル,コバルトを含む有用な金属資源であるが,太平洋,特に北太平洋の海嶺上に広く分布する。海底表面のみで,大西洋,インド洋における合計に匹敵する1000億tの団塊があるとの試算され,世界各国によって積極的に調査されている。…
※「マンガン団塊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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