めっき(英語表記)plating

翻訳|plating

日本大百科全書(ニッポニカ) 「めっき」の意味・わかりやすい解説

めっき
めっき / 鍍金
plating

金属材料の表面を異種の金属または合金の薄膜で被覆すること。防食、装飾、表面硬化などを目的として、あるいは磁性薄膜、導電体薄膜、抵抗体薄膜、超電導薄膜などの特殊な機能を有する薄膜を製作するために行われる。

 めっきの歴史は古く、中国では前漢のころから行われており、日本では5世紀ごろに中国からその技術が渡来している。奈良の東大寺の大仏は、その完成当時(755)、仏像全体と台座の蓮弁(れんべん)および蓮実まで金めっきを施されていたことが記録に残されている。金銅仏というのは青銅製の鋳造仏に金めっきを施したものをいう。古代の金めっきは、ほとんどがアマルガム法によってなされている。その方法は、まず金1に対して水銀2~3の割合で水銀の中に金を溶かしたアマルガムをつくる。このアマルガムのことを昔は滅金といっていた。次に、きれいに磨いた鋳物の表面にアマルガムをこすり付け、その表面を350℃くらいに加熱すると、水銀が蒸発して金の層が残され、金めっきが得られる。

 今日のめっきは、被覆を形成する方法によって電気めっき化学めっき溶融めっき、溶射、物理蒸着、化学蒸着、浸透めっきの7種に分類することができる。

[杉本克久]

電気めっき

溶液中にイオンの形で存在する目的金属を電気エネルギーを用いて品物表面に還元析出させ、被覆層を得る方法。水素よりもイオン化エネルギーの高い金属あるいは水溶液中で水素過電圧の大きな金属が電着可能である。鉄鋼製品に対しては、防食と装飾を兼ねた銅‐ニッケルクロムの多層めっき、防食だけを目的とした亜鉛、カドミウム、スズなどの単層めっき、クロムとクロムオキシ水酸化物との複層めっきであるTFS(tin free steelの略。スズなしめっき鋼板のこと)などが行われている。銅合金製品などに対しては、装飾のために金、銀、パラジウムロジウムなどの貴金属めっきがなされることがある。特殊な機能を付与するためのめっきとしては、コバルト‐リン合金、コバルト‐ニッケル合金などの磁性薄膜、ニオブ‐スズ合金、鉛‐ビスマス合金などの超電導薄膜、金‐チタン炭化物、金‐タングステン炭化物分散合金などの良電導性耐摩耗性薄膜などがある。

[杉本克久]

化学めっき

めっき浴中の金属イオンを化学還元剤の作用によって還元し、品物表面に金属層を析出形成させる方法。めっきのために外部から電流を流さないので無電解めっきともいう。ニッケルの化学めっきがもっともよく行われており、還元剤としては次亜リン酸塩、水素化ホウ素化合物、ヒドラジンなどが使われる。次亜リン酸塩を用いたときにはニッケル‐リン合金が、また水素化ホウ素化合物を用いたときにはニッケル‐ホウ素合金が析出する。化学めっきは非金属物質、とくに合成樹脂の表面の金属化のために行われることが多い。

[杉本克久]

溶融めっき

溶融金属浴中に品物を浸漬(しんし)したのち引き上げ、品物表面に付着した溶融金属を凝固させてめっき層を得る方法。厚いめっきとなるので、長寿命の防食めっきを得たいときなどに行われる。もっとも一般的なのは溶融亜鉛めっきで、亜鉛鉄板(トタン)、ガードレール、鋼管、鋼線など、野外や地中で長期間使用されるものになされている。そのほか、食缶用に溶融スズめっき鋼板(ブリキ)が、また耐熱性耐食性が要求される自動車マフラー用の材料として溶融アルミニウムめっき鋼板も製造されている。

[杉本克久]

溶射

溶融金属を圧搾空気によって粉霧状にして品物表面に吹き付け、品物表面で溶融金属を凝固させてめっき層を得る方法。メタリコンともいう。厚いめっき層が得られるが、粉霧状の金属粒子の表面が空気酸化されるため凝固堆積(たいせき)した粒子間に酸化物が介在し、めっき層はどうしても多孔質となる。橋梁(きょうりょう)、鉄塔などの大型鋼製構造物に対しては亜鉛溶射を行ったのち封孔被覆として有機塗装をしている。溶線式、粉末式、およびプラズマ式の溶射機が使用されている。

[杉本克久]

物理蒸着

物理蒸着に属するものには真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどがある。真空蒸着は、高真空中で金属を加熱して蒸発させ、その蒸発分子を品物表面で凝固させてめっき層を形成する方法である。スパッタリングは、真空に近い低圧力のアルゴンガス中でのグロー放電によって生成したアルゴンイオンを原料物質の標的に加速衝突させて標的の物質を飛散させ、この飛散粒子を品物表面上に堆積させてめっき層を得る方法である。イオンプレーティングでは、真空に近い低圧力のアルゴンガス雰囲気中で蒸発させた原料物質の分子または原子を、品物表面近傍につくったグロー放電領域を通過させることによって一部をイオン化および励起し、他の中性状態のままの粒子とともに負の高電圧がかけてある品物表面上に析出させる。真空蒸着やスパッタリングによって半導体素子や集積回路がつくられている。イオンプレーティングによっては、鉄鋼上へのアルミニウムめっきやガスタービン翼への耐熱合金めっきが行われている。

[杉本克久]

化学蒸着

原料物質を加熱して気化させ、このガスと別の反応性ガスとを品物の表面近傍で反応させるか、あるいは原料物質のガスを直接品物表面と反応させることによって、品物表面上に反応生成物のめっき層を形成する方法。気相めっきともいう。タングステン線のボロンめっき、セラミック粉末のモリブデンめっき、鋼管内面のタンタルめっき、工具鋼表面のチタン炭化物被覆などがこの方法でなされている。

[杉本克久]

浸透めっき

鉄鋼を他の金属の粉末中あるいは気体中で加熱し、その金属を鉄鋼中に拡散、浸透させ、表面に耐熱性、耐食性、あるいは耐摩耗性に優れた合金層を形成する方法。メタリックセメンテーションmetallic cementationともいう。耐熱性を目的としてアルミニウム、クロムが、耐食性を目的としてクロム、亜鉛、ケイ素などが、耐摩耗性を目的としてホウ素、硫黄(いおう)などが拡散浸透されている。

[杉本克久]


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百科事典マイペディア 「めっき」の意味・わかりやすい解説

めっき(鍍金)【めっき】

〈ときん〉とも。金属製品の表面を他の金属の被膜でおおうこと。耐食性・耐摩耗性の向上,装飾などが目的で,プラスチックなど非金属へのめっきも行われる。最も代表的なのは電気分解を応用した電気めっきで,ふつう単にめっきといえばこれをさすことが多い。ほかに溶融めっき真空蒸着などの方法もある。奈良の大仏に行われた,金アマルガム(これを滅金(めっき)と呼んだ)塗布後,加熱して水銀を蒸発させる方法もめっきの一手法である。めっき金属の種類は多く,金・銀めっきは装飾用,電子機器部品に,銅めっきはクロムめっきなどの下地めっきに,クロムめっきは装飾用,耐摩耗用などに,ニッケルめっきは装飾用,防食用に,カドミウムめっきは船・航空機部品の防食用などに用いられる。また亜鉛・スズめっきは鉄鋼の防食用で,鋼板に亜鉛めっきしたトタン,スズめっきしたブリキが広く使われている。
→関連項目産業公害

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化学辞典 第2版 「めっき」の解説

めっき
メッキ
galvanizing

基材の表面に金属の薄膜を被覆することをいう.めっきには,物体の装飾(金めっき,銀めっきなど)や防食(鉄鋼基板上の亜鉛,スズめっきなど),その両者を兼ねる,鉄鋼および亜鉛ダイカスト上の銅-ニッケル-クロムの多層めっきや銅上のニッケル,ニッケル-クロムめっきなどがある.また,皮膜の特性に応じて,耐摩耗性や潤滑性などを得るための機能性めっきもある.めっきの方法は種々あるが,電気めっきが代表的なもので,一般にめっきといえば電気めっきのことをいう.電気めっきでは,めっきの対象となる金属製の物体を,金属塩を含む溶液に浸し,物体を陰極として電解することにより物体表面に金属皮膜を析出させる.電極を使わないめっきを無電解めっきという.無電解めっきでは,異なった金属間のガルバニ電位差を利用して,より還元されやすい金属を析出させる方法と,アルデヒドヒドラジンなどの強い還元剤を用いて金属を析出させる方法とがある.溶融亜鉛めっき法は,溶融亜鉛浴中に鋼板を浸して表面を亜鉛皮膜で被覆する方法で,トタンなどの厚いめっき皮膜を得る目的に用いられている.そのほか,物理的真空蒸着法や化学蒸着法もめっきの一種とみなされる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「めっき」の意味・わかりやすい解説

メッキ
plating

美観,耐食性,表面硬度など,基材に欠けている特性を表面に付与し,材料の総合的な価値を高めるために,他の金属などを被覆することをいう。鍍金とも書く。広義では表面被覆処理と同義語で,溶融メッキ電気メッキ,無電解メッキ,湿式メッキ,乾式メッキなどの用語として使われる。狭義では電気メッキをさす。

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世界大百科事典(旧版)内のめっきの言及

【カイワリ】より

…カイワリには第2背びれとしりびれにやや幅の広い黒褐色の縦帯が幼魚から成魚まで存在する。体が銀白色に輝くので,関西でメッキ,メキなどとも呼ぶ。暖海系の魚で,太平洋側は金華山沖,日本海側は能登付近以南に分布。…

※「めっき」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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