デジタル大辞泉
「メニエール病」の意味・読み・例文・類語
メニエール‐びょう〔‐ビヤウ〕【メニエール病】
平衡感覚 をつかさどる内耳 に病変があって、耳鳴り・難聴を伴うめまいの発作が繰り返し起こる病気。1861年にフランス の耳鼻科医メニエール(P.Ménière)が報告。メニエール症候群 。
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メニエール病
難聴や耳鳴りなどの聴覚症状を伴って、めまいの発作を繰り返す病気。内耳の内リンパ 腔と呼ばれる部分の圧力が高まって起きるが、原因は明らかでない。睡眠不足や過労、ストレス が発症のきっかけになるとされている。
更新日:2016年11月24日
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メニエール‐びょう‥ビャウ 【メニエール病】
〘 名詞 〙 ( メニエールは Ménière フランスの耳鼻科医の名から ) 耳鳴り、難聴、めまい、吐き気、平衡障害 が発作的に繰り返し起こる病気。内耳の血管の異常によるといわれる。メニエル病。
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メニエール病
どんな病気でしょうか?
●おもな症状と経過
メニエール病は内耳(ないじ)の異常によって、めまい発作(ほっさ)をくり返す病気で、耳鳴りや難聴(なんちょう)を伴うのが特徴です。軽いふらつき感程度の場合もありますが、発作の多くは、突然、回転性(自分や周囲がぐるぐる回っている感じ)のめまいに襲われることで始まります。1回の発作は数時間から1日でおさまります。
めまいの発作がおきたあと、あるいは少し前から難聴、耳鳴りがおこります。耳鳴りや難聴は片耳の場合も両耳の場合もあり、めまいの発作がおさまると、回復します。しかし、メニエール病では、発作のない時期(間欠期)をはさんで、めまいの発作がくり返されるのが特徴で、発作がくり返されるうちに、耳鳴りや難聴が消えずに進行していくことがあり、注意が必要です。薬によってめまいの発作の回数を減らしたり、軽くしたりはできますが、難聴の進行を完全には食い止めることができないこともあります。
そのほかの症状としては、耳がつまった感じ、吐き気や嘔吐(おうと)、冷や汗、頭が重い、肩がこるなどがあります。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
内耳を満たしているリンパ液 が過剰になると内リンパ水腫 (すいしゅ)になります。これによってめまいが引きおこされます。しかし、なぜリンパ液が過剰になってしまうのか原因はわかっていません。文明社会に生活する人に多く、発展途上国 の人に少ないことから、ストレスや過労が引きがねになっているのではないかと考えられています。そのほか、睡眠不足や塩分のとりすぎ、喫煙や気圧の変化などとの関連が指摘され、女性では月経の時期とも関係しているようです。
●病気の特徴
1861年、フランスの耳鼻科医メニエールが発見した病気です。めまいといえばメニエールといわれるほど有名ですが、メニエール病の頻度(ひんど)はそれほど高くはありません。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]発作がおきたら横になって安静にする [評価]☆☆
[評価のポイント] 信頼性の高い臨床研究 は見あたりませんが、めまいによる転倒予防のためには必要と考えられるでしょう。
[治療とケア]過労、睡眠不足など発作の引きがねとなるような生活習慣を改める [評価]☆☆
[評価のポイント] 過労や睡眠不足が発作の引きがねになるかどうかは臨床研究で明らかにされていません。また、塩分、カフェイン 、たばこを控えるべきとする意見もあり、こちらも信頼性の高い臨床研究は行われていないようですが、いずれも、専門家の意見や経験からは支持されています。(1)(2)
[治療とケア]発作がおこったときには薬で抑える [評価]☆☆☆
[評価のポイント] 信頼性の高い臨床研究で、メニエール病に対して効果が確認されている薬は見あたりません。抗コリン薬 でめまいの頻度が減少したとの報告はあります。嘔吐などを伴うときは制吐薬(せいとやく)が適当でしょう。(3)
[治療とケア]発作を予防するための薬を用いる [評価]☆☆☆
[評価のポイント] 信頼性の高い臨床研究で効果が確認されている薬は見あたりませんが、利尿薬、ベタヒスチンメシル酸塩でめまいに関してやや効果を認めたとの臨床研究があります。(4)~(6)
[治療とケア]内リンパのう開放術を行う [評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 内リンパのう開放術とは、内耳に増えすぎたリンパ液を排出する手術です。いくつかの信頼性の高い臨床研究では、プラセボ (偽薬)効果のみが認められていましたが、1990年代以後の臨床研究では、術後、めまい、吐き気・嘔吐、耳鳴りが改善すると報告されています。手術の方法はいくつかありますが、それぞれの方法に統計学的に意味のある差はないようです。(7)~(14)
よく使われている薬をEBMでチェック
めまいの発作を抑える薬
[薬名]グリセオール(濃グリセリン・果糖配合液) [評価]☆☆
[評価のポイント] 濃グリセリンがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
[薬名]プリンペラン(メトクロプラミド) [評価]☆☆
[評価のポイント] メトクロプラミドがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。しかし、吐き気を伴う場合は用いることもあります。
[薬名]メイロン(炭酸水素ナトリウム ) [評価]☆☆
[評価のポイント] 炭酸水素ナトリウムがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
[薬名]イソバイド(イソソルビド)(15) [評価]☆☆☆
[評価のポイント] イソソルビドがメニエール病のめまいに対して効果があるということが臨床研究によって確認されています。選択薬の一つになると思われます。
[薬名]セファドール(ジフェニドール塩酸塩) [評価]☆☆
[評価のポイント] ジフェニドール塩酸塩がメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
[薬名]グランダキシン(トフィソパム) [評価]☆☆
[評価のポイント] トフィソパムがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
[薬名]メリスロン(ベタヒスチンメシル酸塩)(6) [評価]☆☆☆
[評価のポイント] いくつかの臨床研究でベタヒスチンメシル酸塩はメニエール病のめまいを軽減するとの報告があります。耳鳴りや難聴には効果が示されていません。信頼性の高い臨床研究ではありませんが、効果が確認されており、第一選択薬としてよいと思われます。
[薬名]アデホスコーワ/トリノシン(アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)(15) [評価]☆☆☆
[評価のポイント] アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物はメニエール病の症状に対して効果があることが臨床研究によって確認されています。ある臨床研究では、ベタヒスチンメシル酸塩と比較して、より効果があったと報告しています。
[薬名]カルナクリン/サークレチンS/カリクレイン (カリジノゲナーゼ) [評価]☆☆
[評価のポイント] カリジノゲナーゼがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
[薬名]セルシン /ホリゾン(ジアゼパム ) [評価]☆☆
[評価のポイント] 抗不安薬のジアゼパムがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。しかし、強い不安症状が伴う場合は対象となるでしょう。
内耳の血液循環を改善する薬
[薬名]ノイキノン(ユビデカレノン ) [評価]☆☆
[評価のポイント] ユビデカレノンがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
[薬名]アデホスコーワ/トリノシン(アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)(15) [評価]☆☆☆
[評価のポイント] アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物はメニエール病の症状に対して効果があることが臨床研究によって認められています。ある臨床研究では、ベタヒスチンメシル酸塩と比較してより効果があったと報告しています。
[薬名]ビタメジン-S(ビタミンB1 ・B2 ・B12 混合剤) [評価]☆☆
[評価のポイント] ビタミンB1 ・B2 ・B12 混合剤がメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
[薬名]プロスタンディン(アルプロスタジルアルファデクス) [評価]☆☆
[評価のポイント] アルプロスタジルアルファデクスがメニエール病のめまいに対して効果があることを示す臨床研究は見あたりません。選択薬かどうかは検討する必要があるかもしれません。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まずは安静にしたのちに、検査で正確な診断を
めまいの発作は、患者さんに非常に不安を与える症状です。メニエール病であることがわかっていて、以前に経験したことのある発作であれば不安はいくらか軽くなりますが、これまでそういった兆候もないのに、突然、周囲がぐるぐる回っているようなめまいに襲われ、その後、耳鳴りや聞こえが悪くなるなどの聴覚の症状もおこってくると、ますます不安は募(つの)るでしょう。
まずは、めまいがおこっても安静にし、楽な姿勢で、症状がおさまるのを待つことです。数時間~1日も安静にしていれば、症状がおさまってきます。無理しておき上がろうとすると、転倒する可能性もあるので危険です。
めまいには脳の病気によっておこるものもありますから、落ち着いたら、専門医を受診し、検査によってほかの深刻な病気でないかどうかの正確な診断を受けるべきでしょう。
過労や睡眠不足、過剰な塩分、カフェイン、たばこが発作の引きがねになるかどうか明らかな根拠は認められませんが、ストレスやこれらの因子を避けたほうがいいという意見は専門家から支持されています。自分でできる生活習慣の見直しであり、副作用もありませんから、試してみましょう。
治療は薬か手術で
メニエール病との診断がつけば、現在のところ、薬と手術で治療が進められます。
とくに、めまいの発作を抑えるメリスロン(ベタヒスチンメシル酸塩)、内耳の血液循環 をよくする薬アデホスコーワ/トリノシン(アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)の使用と、内リンパのう開放術については、臨床研究によってある程度有効であることが認められています。
したがって、発作中には安静にして、落ち着いたらメリスロン(ベタヒスチンメシル酸塩)、アデホスコーワ/トリノシン(アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物)を用います。
薬だけでは発作がおさまらないときには、内リンパのう開放術を行うことを検討するのが適切と思われます。なお、手術は両耳に異常がおこっている場合や、お年寄りの場合などは適応にならないことがあります。(1)Boles R, Rice DH, Hybels R, et al. Conservative management of Meniere's disease : Furstenberg regimen revisited. Ann OtolRhinolLaryngol. 1975;84:513-517.
(2)Coelho DH, Lalwani AK. Medical management of Ménière's disease. Laryngoscope. 2008; 118:1099.
(3)Storper IS, Spitzer JB, Scanlan M. Use of glycopyrrolate in the treatment of Meniere's disease. Laryngoscope. 1998;108:1442-1445.
(4)Claes J, Van de Heyning PH. A review of medical treatment for Ménière's disease. Acta Otolaryngol Suppl. 2000; 544:34.
(5)Thirlwall AS, Kundu S. Diuretics for Ménière's disease or syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2006; :CD003599.
(6)James AL, Burton MJ. Betahistine for Menière's disease or syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2001; :CD001873.
(7)Kim HH, Wiet RJ, Battista RA. Trends in the diagnosis and the management of Meniere's disease: results of a survey. Otolaryngol Head Neck Surg. 2005; 132:722.
(8)Friberg U, Jansson B, Rask-Andersen H, Bagger-Sjöbäck D. Variations in surgicalanatomy of the endolymphatic sac. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 1988; 114:389.
(9)Moffat DA. Endolymphatic sac surgery : analysis of 100 operations. Clin Otolaryngol Allied Sci. 1994; 19:261.
(10)Telischi FF, Luxford WM. Long-term efficacy of endolymphatic sac surgery for vertigo in Menière's disease. Otolaryngol Head Neck Surg. 1993; 109:83.
(11)Brinson GM, Chen DA, Arriaga MA. Endolymphatic mastoid shunt versus endolymphatic sac decompression for Ménière's disease. Otolaryngol Head Neck Surg. 2007; 136:415.
(12)Kitahara T, Kubo T, Okumura S, Kitahara M. Effects of endolymphatic sac drainage with steroids for intractable Meniere's disease: a long-term follow-up and randomized controlled study. Laryngoscope. 2008; 118:854.
(13)Wetmore SJ. Endolymphatic sac surgery for Ménière's disease: long-term results after primary and revision surgery. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2008; 134:1144.
(14)Ostrowski VB, Kartush JM. Endolymphatic sac-vein decompression for intractable Meniere's disease: long term treatment results. Otolaryngol Head Neck Surg. 2003; 128:550.
(15)Kanda K, Watanabe Y, Shojaku H, et al. Effects of isosorbide in patients with Meniere's disease. ActaOtolaryngol Suppl. 1993;504:79-81.
(16)Mizukoshi K, Watanabe I, Matsunaga T, et al. Clinical evaluation of medical treatment for Meniere's disease, using a double-blind controlled study. Am J Otol. 1988;9:418-422.
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」 EBM 正しい治療がわかる本について 情報
家庭医学館
「メニエール病」の解説
めにえーるびょう【メニエール病 M[1-09-63-1] ni[1-09-62-1] re's Disease】
◎文明病の1つ
[どんな病気か]
[症状]
[原因]
[検査と診断]
[治療]
◎ストレスを減らし、蓄えない
[予防]
[どんな病気か]
自発性で、突発的な、反復しておこる激しいめまい発作(ほっさ)に、蝸牛(かぎゅう)症状(耳閉塞感(じへいそくかん)、耳鳴(みみな)り、難聴(なんちょう)など)をともなう内耳性(ないじせい)のめまい疾患です。
脳神経(のうしんけい )の病気でも似た症状がおこりますが、メニエール病では、意識消失、手足のしびれなどの脳神経症状はなく、直接生命にかかわることはありません。
病気になりやすい人 メニエール病は、文明の発達した地域で高率に発症し未開発地域では発症が少ないことから、文明病の1つと考えられています。
日本でも、第二次世界大戦以前はほとんど発症がありませんでしたが、戦後、急激に増加してきました。
現在の日本の有病率は、人口10万人に対して16~17人くらいです。
男女差も時代によってちがい、昭和30年代には男性に多く発症していましたが、徐々に発生率に男女差がなくなって欧米並みとなり、最近では、女性のほうがやや多くなっています。
はたらき盛りの40~50歳代での発症が多く、男性は40歳代、女性は30歳代に発症のピークがあります。しかし、近年、60~70歳の高齢者の発症も増えてきています。
[症状]
必ずおこるのはめまい発作で、これに蝸牛症状をともなうことがほとんどです。
●めまい
めまいは、内耳の機能障害によっておこります。突然、回転性のめまい(自分自身または周囲がグルグル回る)が自発的におこります。
めまいの性質は、発作の時期によって異なり、回転性だったり、浮動感(ふどうかん)、動揺感(どうようかん)、からだの沈む感じや傾く感じなど多彩です。
めまいの持続時間は、1時間から6時間以内のことが多く、最初の数分から数時間は、非常に強い回転性のめまいが続きます。
発作は、1回だけのこともありますが、多くは、再発をくり返します。
発作の反復は、時間単位、週単位、月単位、年単位といろいろですが、発症初期は、週1回(23%)から月1回(22%)の高頻度でおこります。
また、回転性めまいをおこす大きな発作の間にも浮動感、動揺感などの小さな発作が反復します。
●蝸牛症状(かぎゅうしょうじょう)
蝸牛症状は、耳鳴り74%、難聴61%、耳閉(塞)感31%、音響感(おんきょうかん)(音が異常に強く響く感じ)11%という頻度で、めまい発作にともないます。
難聴は、片側におこることが多く、低音部(125~250ヘルツ)から中音部(500~2000ヘルツ)にかけて障害が強い内耳性感音難聴(ないじせいかんおんなんちょう)です。耳鳴りや難聴は、めまいが治まると発作前に近い状態にまで回復しますが、頻回に発作をくり返すうちに、難聴は回復しなくなります。また、発作のおこっていない時期でも、聴覚の程度が変動します。
●その他の症状
発作時には吐(は)き気(け)・嘔吐(おうと)(67%)、頭痛、頭重感(ずじゅうかん)、肩こり、くびのこりなどの自律神経 症状(じりつしんけいしょうじょう)をともないます。
[原因]
内耳は、側頭骨(そくとうこつ )というかたい骨に囲まれ、入り組んだ骨の管の中にあって、迷路(めいろ)とも呼ばれます。
内耳には、音をつかさどる感覚細胞(かんかくさいぼう)を入れた蝸牛と、平衡(へいこう)感覚をつかさどる感覚細胞を入れた前庭(ぜんてい)とがあります。これらの感覚細胞は、薄い膜(まく)によって迷路の骨の管と隔てられています。骨と膜との間は外(がい)リンパ、膜の内部は内(ない)リンパという液で満たされていて、感覚細胞は内リンパの中に存在します。
メニエール病は、内(ない)リンパ水腫(すいしゅ)(内耳の水ぶくれ の状態)によっておこります。
内リンパ水腫がおこると急激に内リンパ圧が上昇し、その変動が蝸牛から前庭へと波及して難聴やめまいがおこると考えられています。
内リンパ水腫は、内リンパの産生過剰や循環障害、または吸収障害でおこると考えられていますが、確かなことはまだ不明です。
[検査と診断]
耳鳴り、難聴、耳閉(塞)感をともなうめまい発作がくり返しおこる典型的なケースであれば、診断は容易です。
しかし、発作が初めての場合や典型的な症状を示さない場合は、聴力検査 と平衡機能検査 がたいせつになります。
●聴力検査
メニエール病の場合は、中音部より低い音域に障害がおこる低音障害型の感音難聴(「伝音難聴と感音難聴 」)が特徴です。
低音障害型感音難聴がおこっても聞こえの悪さに気づかないことが多く、耳閉(塞)感や耳鳴りがおもな訴えになりますが、聴力検査を行なうと低音障害型の感音難聴が認められます。
発作直後から聴力検査を続けていくと、時間の経過とともに聴力は徐々に回復していき、発作前の聴力に戻るほか、耳閉(塞)感、耳鳴りも消失するか軽減します。しかし、発作をくり返すうちに聴力は進行性に低下していき、難聴が全音域におよびます。
メニエール病の診断を確定するには、内リンパ水腫の存在を調べるグリセロール 試験という検査が行なわれます。
これは、グリセロールという浸透圧利尿薬(しんとうあつりにょうやく)を内服し、内服前と内服後1時間・2時間・3時間の聴力を調べて比較する検査です。
内リンパ水腫が存在する場合は、利尿薬の作用で内リンパ水腫が消退し、内服後の聞こえがよくなります。
●平衡機能検査
この検査を行なうと、内耳障害が原因の平衡機能障害は見つかりますが、メニエール病特有の所見は現われません。平衡障害は発作がおこっているときにもっとも強く、発作が治まるにつれて消失していきます。
[治療]
発作をおこしたときの治療と発作をおこしていないときの治療とがあります。
●発作をおこしたときの治療
発作をおこしたときは、激しい回転性のめまいと吐き気・嘔吐などの自律神経症状が強いので、安静を保つことがもっともたいせつです。
そして、自律神経を安定させるために鎮静薬(ちんせいやく)、鎮吐薬(ちんとやく)(吐き気止め )、鎮暈剤(ちんうんざい)(めまい止め)などを服用します。
●発作のおこっていないときの治療
内リンパ水腫が発生しないように浸透圧利尿薬を服用します。薬物療法 によって多く(80%)は発作の予防などのコントロールが可能です。
発作をたびたびくり返したり、急速に聴力が悪化する場合は、手術(内リンパ嚢減荷術(のうげんかじゅつ))が必要になります。
[予防]
メニエール病は、文明病、ストレス病の代表格と考えられています。肉体的・精神的なストレスが引き金となって発作がおこります。ストレスを減らし、ため込まないことが必要です。適度な運動と十分な睡眠が発作を予防します。
また、内リンパ水腫を誘発させないために、必要以上の水分を飲まないようにし、塩分の摂取(せっしゅ)もなるべく減らすことが必要です。酒類、たばこ、コーヒー などは発作を誘発しやすいといわれているので、避けるべきです。
出典 小学館 家庭医学館について 情報
メニエール病 メニエールびょう Meniere's disease (耳の病気)
めまい といえばメニエール病といわれるほど有名ですが、実際にはそれほど多い病気ではありません。メニエール病は内耳の病気で、繰り返すめまいに難聴 や耳鳴り を伴うものです。一般に、片側の内耳の障害ですが、時には両側とも障害されることもあります。
内耳を満たしている内リンパ液が過剰になると内 ( ない ) リンパ水腫 ( すいしゅ ) になりますが、この状態によってメニエール病が起こると考えられています。しかし、この内リンパ水腫がなぜ起こるのかについては不明です。
先進国に生活する人に多く、発展途上国の人には少ないことから、ストレスがこの病気の発症に関係しているといわれています。
何の誘引もなく突然、回転性(ぐるぐる回る)めまい が起こり、めまいと同時に、あるいはめまいの少し前から、片耳に耳鳴り や耳の閉塞感、難聴 が起こります。
めまいを繰り返す間隔は人によって違い、数日、数週間、数カ月、あるいは1年に1回などさまざまです。
激しいめまいは、普通30分くらいから数時間続き、めまいの軽快とともに耳鳴り、耳の閉塞感、難聴は軽くなったり消失したりします。しかし、めまいを何回も繰り返しているうちに、めまいがおさまっても耳鳴りや難聴は軽快しないようになります。
めまいが激しい時は、これらの症状以外にも吐き気、嘔吐、冷や汗、動悸などが起こり、かえってこれらのほうが苦しいこともしばしばです。
聴力検査で、メニエール病に特徴的な難聴 が認められます。特徴は、低音障害型(低い音が聞こえにくい)あるいは水平型で補充現象陽性(音が響いて聞こえる)などです。平衡機能検査では内耳障害の所見が認められます。
薬による治療が主に行われ、めまい を軽くする抗めまい薬や、内リンパ水腫を軽減する薬が使用されます。
しかし、メニエール病は難病に指定されている病気で、完全に治すことが困難な場合も少なくありません。薬でめまい発作の回数を減らしたり、軽くしたりすることはできますが、難聴 の進行は薬では防げないことがあります。めまいがあまりにも頻繁に起こって仕事ができないような時や、難聴の進行が早い時には手術が行われることもあります。
メニエール病とはっきりわかっていればあわてることはないのですが、専門医でないと診断が正確に行われないことがあります。
初めてめまいに襲われると、パニックに陥 ( おちい ) ってしまうものですが、メニエール病で何回かめまい発作を経験した人は、めまいが起こってもあわてずに最も楽な体位で休んでいます。普通、めまいは長くても数時間でおさまることを知っているためで、非常によい対応といえます。
しかし、めまい発作はメニエール病とは限らず、他の生命に関わる病気かもしれないので、至急専門医の診察を受けてください。
工田 昌矢
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」 六訂版 家庭医学大全科について 情報
メニエール病 めにえーるびょう
原因不明の内リンパ水腫(すいしゅ)に起因する、めまい、耳鳴り、難聴の三症状をもつ疾患をいう。フランスの耳鼻科医メニエールProsper Ménière(1799―1862)が1861年に発作性めまいに耳鳴りと難聴を伴っている内耳の疾患を発表して以来、めまい、耳鳴り、難聴の三症状をもつ疾患をメニエール症候群とよんできた。しかし、これには種々の疾患があることが明らかになり、メニエール症候群という名称はしだいに使用されなくなってきた。そのなかで、内耳の中に存在する内リンパ液の圧が高くなること(内リンパ水腫)に起因する疾患のみを、メニエール病という。内リンパ液の圧が高くなる原因については、体内の電解質調節障害説、水分代謝障害説、塩分貯留説、アレルギー説、交感神経過敏による血管収縮説など多くの原因要素が提起されてきたが、まだ確定されていない。
男性にやや多く、35歳から55歳までに発症することが多い。女性は男性よりもやや若い年齢でおこる。特別の誘因もなく突然、耳閉塞(じへいそく)感あるいは難聴と耳鳴りを伴った非常に激しいめまいがおこる。吐き気、ときには嘔吐(おうと)を伴うこともある。めまいは外界や自分の体が回転しているような感じのものが多いが、意識障害はなく、数分から数時間持続して激しいめまいはなくなるが、頭や体を動かすと短時間の軽いめまい感は数日残り、やがてすっかりなくなる。しかし、耳鳴りや難聴は回復することもあるが、残存あるいは進行することが多い。このようなめまい発作が反復しておこるのが特徴である。そのため、難聴はめまい発作のたびに増悪していく。難聴は内耳性の感音難聴である。その他の随伴症状としては、顔面蒼白(そうはく)、冷汗、心悸亢進(しんきこうしん)、頭重感、頭痛、肩こりのほか、精神の不安状態が著明なこともある。めまい発作などがない時期を間欠期あるいは休止期というが、患者はめまい発作がまたおこるのではないかと精神的に不安な状態であることが多い。
診断は詳しい前庭(ぜんてい)機能検査と聴力検査によるが、他のめまいをおこす疾患との鑑別診断が必須(ひっす)である。
治療は保存的療法が主であるが、症状がひどくて日常生活に影響が強いときや、疾患が両側の内耳におこって難聴の進行が強いときには手術療法が行われる。めまいの発作があるときには、部屋をすこし暗くして安静に横臥(おうが)させる。患者は意識が明瞭(めいりょう)なため、逆に非常に不安で興奮しているのが常である。しかし、メニエール病は生命の危険や難聴以外の後遺症はない疾患であり、そのことをよく納得させて不安焦燥を除くことがたいせつである。このためには精神安定剤や鎮静剤を使用しなければならないこともある。吐き気や嘔吐にはアトロピンなどの制吐剤を用いる。血管拡張剤が奏効することもある。発作が治まってからの間欠期には、精神的なストレスを避け、減塩などの食事療法、利尿剤や血管拡張剤などの投与が行われる。手術療法としては、過剰となった内リンパ液を除去する内リンパ減荷術、超音波や冷凍による内耳の部分的破壊術、機械的な内耳破壊術あるいは前庭神経切断術などがある。
[河村正三]
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食の医学館
「メニエール病」の解説
めにえーるびょう【メニエール病】
《どんな病気か?》
〈内リンパ水腫が原因で突然のめまい発作が起こる〉
メニエール病は、突然起こるはげしいめまい発作(ほっさ) に(「めまい 」参照)、耳閉塞感(じへいそくかん) 、耳鳴(みみな) り、難聴(なんちょう) といった症状をともなう内耳性(ないじせい) のめまい疾患です。
発作が起こったときには、吐(は) き気(け) 、嘔吐(おうと) 、頭痛、頭重感(ずじゅうかん) 、肩こり、首のこりなどの自律神経症状をともないます。
文明病の1つといわれ、日本でも戦後、急激に発症が増加しました。現在の有病率は、10万人に15~18人の割合です。
原因は、内耳の中が水ぶくれの状態になる「内(ない) リンパ水腫(すいしゅ) 」です。内リンパ水腫が起こると、急激に内耳内の圧力が高まり、その影響で難聴やめまいが起こるのです。
文明病、ストレス病の代表格と考えられているこの病気は、肉体的・精神的なストレスが引き金となります。発作の予防には、ストレスを減らし、ためこまないことがたいせつです。
《関連する食品》
〈ビタミンC、E、B1 、カルシウムなどが有効〉
○栄養成分としての働きから
メニエール病に有効に働く成分としてはビタミンC、E、B1 、カルシウム、マグネシウム、ギンコライドなどがあります。
ビタミンCは抗ストレスホルモンの生成をうながし、ビタミンEはストレスへの抵抗力を高めるとともに血行をよくする効果があります。ビタミンB1 はエネルギー代謝に欠かせない成分です。カルシウムやマグネシウムは神経細胞の働きを支えている成分で、ギンコライドは血行を促進する効果があります。
カボチャやホウレンソウ、ブロッコリーはビタミンCとEの両方を、ウナギ、ピーナッツはビタミンB1 とEをそれぞれ含んでいます。
カルシウムやマグネシウムを含むゴマや、ビタミンEとカルシウムを含むイワシ、カルシウムと各種ビタミンを含む牛乳も有効です。
カモミールなど、血行促進・鎮静作用のあるハーブを使ったハーブティーを飲むのもいいでしょう。
○注意すべきこと
ただし、内リンパ水腫を誘発させないためには、水分のとりすぎに注意する必要があることもあります。また、水分代謝が悪くならないためには、塩分の摂取もなるべく減らしましょう。
酒類、タバコ、コーヒーなどは発作を誘発しやすいといわれているので、避けたほうが無難です。
出典 小学館 食の医学館について 情報
メニエール病 (メニエールびょう) Ménière's disease
くりかえすめまい発作に,耳鳴り,耳閉感,難聴を伴う内耳の病気をいう。メニエール病の名は,1861年フランスの医師メニエールProsper Ménière(1799-1862)が,くりかえすめまいに耳鳴り,難聴を伴った患者を解剖した結果,これが脳の病気ではなくて,内耳 の病的変化が原因であることを発表したことに由来する。それ以来,めまいを訴える患者に対して,メニエール症候群とかメニエール病という診断がつけられるようになった。しかし,めまいを起こす病気をすべてメニエール症候群というと,いろいろな病気が含まれてしまう。たとえば,1回だけの発作で,かなり高度な難聴となり,激しいめまいを起こす突発性難聴,耳鳴り,難聴などは伴わないが激しいめまい発作を1回だけ起こす前庭神経炎,さらには,めまいとともに,物が二重に見える(複視),うまくしゃべれない(言語障害),意識を失うなどの脳の神経の症状を伴う脳幹や小脳の病気まで,メニエール症候群となってしまう。したがって今日では,典型的なメニエール病は厳密に区別され,くりかえすめまい発作に必ず耳鳴り,難聴を伴い,脳の病気から生ずる神経の症状はまったくない内耳の病気に対してのみ,メニエール病の診断がつけられている。メニエール病の原因はまだよくわかっていないが,ストレス,自律神経失調,水分や塩分の代謝障害,アレルギー,ホルモンの異常などが考えられている。メニエール病患者の解剖結果の多くは,内リンパ水腫である。すなわち,内耳の中にある内リンパ液が過剰となり,内耳がむくんでいるといわれる。典型的メニエール病の症状は,耳鳴りや難聴が起こったり強くなったりすると,激しいめまい発作が起こり,めまいは通常1~2時間続く。めまい発作中は気持ちが悪く,冷や汗をかいたり吐いたりする。しかし脳の神経の症状は伴わない。このような発作をくりかえしているうちに難聴はしだいに高度になる。治療は薬を服用することによりしだいに治ってくることが多いが,治りにくい場合は手術も行われる。また最近,漢方薬の内服,はり(鍼)治療も試みられ,よい結果が得られることも多くなっている。 執筆者:野末 道彦
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百科事典マイペディア
「メニエール病」の意味・わかりやすい解説
メニエール病【メニエールびょう】
発作的なめまい が,耳鳴り ,難聴 などの耳症状と合併して起こる病気。1861年フランスの耳鼻科医P.メニエール〔1799-1862〕が内耳出血による病気として発見したのでこの名がある。その後,出血以外の各種内耳障害,中枢神経の炎症,腫瘍(しゅよう)などでも同様の症状が起こることが知られ,メニエール症候群と名づけられた。めまいは数分から数時間続き,冷汗,嘔吐(おうと)などを伴う。耳鳴り,難聴は後遺することが多く,発作が反復し高度の難聴をきたすこともある。発作には安静を第一とし,専門医の治療を要する。
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メニエール病
内耳疾患の一つ。厚生労働省指定の特定疾患で、内耳が水ぶくれ状態になること(内リンパ水腫)により、難聴、耳鳴りなどの聴覚症状を伴うめまい発作を反復して起こすもの。めまいは、前ぶれなく突然周囲が激しく回るように感じる回転性のものであり、数十分から数時間持続して、吐き気や嘔吐(おうと)などの症状を伴う。生命の危険はないが、何度も発作を繰り返すと症状が進行し、難聴も進むことが多い。罹患(りかん)率は人口10万人当たり15人~46人とされており、30代後半から40代前半の女性に多い。急性期の治療には抗めまい・鎮吐・鎮静のための薬物投与などが行われ、発作が治まった後の間欠期には、予防策として、生活指導や内耳循環薬・ビタミン剤などの投与が行われる。場合により、内リンパ嚢開放術などの手術が行われることもある。
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世界大百科事典(旧版)内の メニエール病の言及
【三半規管】より
… このように三半規管は身体の平衡に深く関係しているため,ここが障害されると激しいめまいが起こってくる。その代表的な例が[メニエール病]である。内耳炎とか突発性難聴のような内耳が障害される病気の多くは,三半規管も同時に障害されて,激しいめまいを起こしてくる。…
【内耳】より
…中耳炎から内耳に炎症が及ぶと(内耳炎),難聴のほかにめまいが起こるが,これは平衡装置が影響されるためである。[メニエール病]も難聴のほか内耳性めまいを起こす代表的な病気である。[耳]【星野 知之】。…
【耳】より
…これによって急に高度難聴を起こし,また,めまいや平衡障害を伴うことがある。内耳梅毒ではメニエール病とほぼ同様の病状を示すことがある。 めまいを起こすものとしては,[メニエール病]がよく知られている。…
【めまい】より
…[内耳の障害とめまい] これらのなかでも,とくに内耳は身体の平衡に深く関係しており,内耳に病気が起こると激しいめまいを感ずる。[メニエール病]は,内耳がむくむ(内リンパ水腫と呼ばれている)ために起こる病気と考えられているが,前庭三半規管と,音を感ずる蝸牛を含む内耳全体に異常が起こるため,めまいとともに耳鳴りとか難聴が起こる。健康な人では,両方の耳にある内耳が同じように働いて身体の平衡がうまく保たれている。…
※「メニエール病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」