平衡障害(読み)へいこうしょうがい(その他表記)dysequilibrium

日本大百科全書(ニッポニカ) 「平衡障害」の意味・わかりやすい解説

平衡障害
へいこうしょうがい
dysequilibrium

運動麻痺(まひ)がないのに頭位や姿勢の保持、立位の維持、運動の遂行を安定して行うことができない状態をいう。身体の平衡は、前庭迷路系、視覚系、深部感覚系など末梢(まっしょう)感覚受容器からの姿勢や運動に関する情報を脳幹網様体や小脳で統合・調整し、姿勢反射や運動反射を介して眼球、四肢に伝達する神経回路の働きにより保持されている。したがって、これらの受容器や中枢神経系が障害されると、平衡障害が出現する。

 平衡障害は、頭部躯幹(くかん)(胴体)、四肢の動揺が姿勢を変えない静止状態でみられる静止時平衡障害と、歩行などの際にみられる運動時平衡障害とに分けられる。通常、平衡障害は協調運動障害を伴い、両者をあわせて運動失調とよぶが、この際の平衡障害は静止時運動失調、運動の協調障害は運動時運動失調ともいわれる。また、前庭迷路および小脳虫部の障害による運動失調では平衡障害が目だち、とくに前庭迷路性運動失調では平衡障害のみがみられるので、平衡障害は前庭迷路性運動失調と同義に用いる場合もある。なお、パーキンソン症候群にみられる平衡障害は、高次の平衡機能をつかさどる尾状核の障害によることが示唆され、前庭系や深部感覚系の関与は考えがたいとされている。

 平衡障害の臨床的検査には、次のようなものがある。(1)ロンベルグ試験 両足をそろえて開眼でまず立たせ、ついで閉眼させ身体の動揺を調べる。(2)マン試験 両足を一直線上で前後にそろえて立たせ、開眼と閉眼で検査する。(3)片足立ち検査。(4)斜面台検査 角度計のついた斜面台上に立たせ、前後および左右方向に斜面台を傾け、転倒傾斜角度を測定する。15度未満は異常とされる。(5)重心動揺検査 前後左右への重心の動揺をXY軸レコーダーを用いて記録する。

 また、偏倚(へんい)の検査としては次のようなものがある。(1)足踏み試験 両腕前方に伸ばし、閉眼で足踏みを100回行わせる。回転角度が91度以上は異常とされる。(2)遮眼書字試験 マーキングペンなどを持ち、手や腕が机に触れないようにして、まず開眼で、ついで遮眼の状態で氏名などを縦書きさせる。(3)閉眼歩行検査 閉眼の状態で、8~10歩前進と後退を繰り返させると、一側の前庭障害の患者では、その歩行の軌跡が星状(せいじょう)となる。これを星状歩行、羅針盤歩行という。

 目に現れる平衡障害は、自覚的にはめまい、他覚的には眼振として認められる。眼振とは、眼球の律動的運動で、眼球振盪(しんとう)、ニスタグムスnystagmusともよばれる。このような目に現れる平衡障害の検査としては、眼球運動検査、自発眼振検査、頭位眼振検査などがある。さらに、温度、回転、電気刺激による眼振検査など、迷路刺激眼振検査も行われている。

[海老原進一郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の平衡障害の言及

【平衡機能検査】より

めまいや身体のふらつき(平衡障害),あるいは歩行障害などを訴える患者に行われる検査。めまいや平衡障害を起こす場所としてよく知られているのは,耳,目および足の筋肉,腱などである。…

※「平衡障害」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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