モロコシ(読み)もろこし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モロコシ」の意味・わかりやすい解説

モロコシ
もろこし / 蜀黍
[学] Sorghum bicolor Moench

イネ科一年草エチオピアを中心とする熱帯アフリカ地域原産。この地域に野生する一年生のいくつかのモロコシ属植物の交雑などによって生じたと考えられ、5000年以前には作物として栽培され始めた。古代エジプトにも伝わって栽培され、紀元前7世紀にはアッシリア帝国に、前4世紀にはインドに伝わり、そしてペルシアを経て前1世紀にはローマにも知られた。しかしそれ以降はヨーロッパではほとんど栽培の記録はなく、現在も生産は少ない。一方、インドから中国へは後4世紀以前に伝わり、中国北部や東北部に普及してコウリャン(高粱)とよばれるようになった。その一部が日本へ伝来したが、年代は不詳で、中世以前とみられている。18世紀には西インド諸島や南アメリカに伝わり、北アメリカへは19世紀にフランスから初めて導入された。

 モロコシは作物学的に四群に大別される。すなわち、穀実用モロコシgrain sorghumは穀実を食用、飼料とし、糖用モロコシ(サトウモロコシ)sorgoは茎に糖含量が多く、汁を搾って甘味料とする。ホウキ(箒)モロコシbroom cornは穂の枝柄が長く、これを束ねて箒とするものである。また飼料モロコシgrass sorghumは茎葉を家畜飼料とするもので、これにはモロコシのほか近縁種のスーダングラスS. sudanense (Piper) Stapf.などを含めることもある。

 草丈は2~5メートルになり、分げつは少なく、葉は長さ1メートルほどにもなり、草姿はトウモロコシに似る。夏、秋に茎頂に大きい穂をつける。穂形や穂首の形はいくつかの型に分類される。穂形には、円錐(えんすい)形の密穂型、長い枝柄の開散穂型、その中間で円筒形をした型、箒型などがあり、さらに両開散型と片穂型とに分けられる。穂首の形には、直立型と、成熟すると穂首が曲がる垂穂型(鴨首)とがある。それらの形態的分類と、前述の用途別分類との組合せによって、品種ごとに差異がみられる。一穂に2000粒前後も穎果(えいか)が実る。穎果は直径3~6ミリメートルの扁球(へんきゅう)形で、赤、褐、黄、白色など品種により異なり、胚乳(はいにゅう)はデンプン質で粳(うるち)性と糯(もち)性がある。

 現在世界全体で約5000万ヘクタールの栽培面積があり、年産約6000万トン、主産地はアメリカ、中国、インド、アルゼンチンナイジェリアスーダンなどである。日本では従前から農村の自家用補助食に少量栽培されていたが、現在では穀実用の生産はなく、青刈り飼料用にわずかに栽培されている。

 初夏に畑に種子を播(ま)き、土寄せして倒伏を防ぐ。病虫害に強く、土質も選ばず、やせ地にもじょうぶに育つ。生育には高温が適する。収穫は10月ころ、穂を切り取って干してからたたいて脱穀する。

[星川清親]

利用

モロコシは穀実は100グラム中にデンプンなど糖質約70グラム、タンパク質約10グラム、脂質4.7グラム、灰分1.8グラムを含む。無機質はリン、鉄などを多く含み、ビタミン類もB群が多い。しかしタンニンを含むため渋味があるので、食用としては価値が低い。製粉して団子、菓子などにするが、濃褐色で食味が悪く、小麦粉を多く混ぜる必要がある。糯モロコシは餅(もち)、飴(あめ)などにするほか、酒をつくる。中国の茅台酒(マオタイチウ)はモロコシの酒として著名である。なお、モロコシは貯蔵性が優れているので、昔は、農村では飢饉(ききん)に備えての備荒用とされた。現在、中国北部、アフリカ、インドなどでは主食とされているが、欧米諸国、日本、南米などではもっぱら飼料として用いている。日本では年に数百万トンを輸入している。

 糖用モロコシは、インドその他では自家用甘味料として栽培されている。現在は糖汁からアルコールをとるバイオマス作物として欧米、日本などで注目されている。ホウキモロコシは、世界各地で座敷箒、ブラシなどのために栽培されている。日本でも昔から座敷箒用に各地で生産されたが、いまは栽培は著しく減少した。

[星川清親]

文化史

中国への渡来は、『説文解字(せつもんかいじ)』に出る秫稷(じゅつしょく)を蜀黍(しょくしょ)(モロコシ)とする『植物名実図考』(1848)に従えば、2000年近くをさかのぼる。蜀黍の名は現存する中国の書物ではわりあい新しく『食物本草』(1620)が最初とされる(『植物名実図考』)。日本では『多識編』(1612)に蜀黍の名がみえ多宇岐比(トウキビ)をあて、『和爾雅(わじが)』(1688)はモロコシキビ、タカキビの和名を使う。その後江戸時代に品種が増え、『重修本草綱目啓蒙(ちょうしゅうほんぞうこうもくけいもう)』(1847)には、糯(もち)と粳(うるち)の区別をはじめとする11品種を載せる。

[湯浅浩史]


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改訂新版 世界大百科事典 「モロコシ」の意味・わかりやすい解説

モロコシ (蜀黍)
sorghum
grain sorghum
Sorghum bicolor (L.) Moench

子実や茎葉を飼料とするために,また子実を食用や醸造原料とするために栽培されるイネ科の一年草で,ソルガムともいう。草丈は2~3mとなるが,最近の栽培品種は1~1.5mの短稈(たんかん)品種が多くなってきている。葉は芽生え時は数cmだが,徐々に大きな葉が伸び出て,大きなものでは長さ1mをこし,幅も10cmほどになる。トウモロコシの葉によく似るが,傷つくと濃紅褐色の斑ができる。茎(稈)は中空とならずに充実し,太さ2~4cm。一般には分げつは出ないか,出ても1~2本であるが,品種によっては多く出るものもある。夏に,茎の先に穂を出す。穂は,太い穂軸に10ほどの節があり,それぞれの節から5~6本の枝(一次枝梗)が放射状に出て,各一次枝梗に20本ほどの枝(二次枝梗)が対につき,これらがさらに枝分れして(三次枝梗)小穂をつける。1穂に2000~3000個の小穂がつく。各小穂は2小花よりなるが,下位小花は退化し,上位小花のみが稔実する。穂の形から,密穂型,開散穂型,中間型に分けられ,品種の特性となっている。密穂型は,枝梗が短く穂が円筒形~卵形,開散穂型は枝梗が長く疎で,成熟すると各枝梗の先が開いて垂れ下がる。また成熟すると穂首が曲がって穂全体が下垂する鴨首(かもくび)と呼ばれる型がある。穎果(えいか)は白色,黄色,赤褐色,黒色などの楕円球で,長径4~5mm,短径2~3mmである。1000粒の重さは23~28g。

 原産地はエチオピアを中心とする中央アフリカとされ,作物として5000年以上も前に栽培が始まったと推定されている。古代にエジプトに伝わり,前7世紀にはメソポタミアでも栽培された。前4世紀ころからインドでの栽培が始まり,4世紀以前に中国に伝わっていた。日本には中国または朝鮮半島から,平安時代かそれ以前に渡来したらしい。モロコシは変異が大きく,いくつかの系統群に分けられる。中国北東部で発達したコーリャン(高粱)は,草丈高く,密穂型が多く,品種は300を越え,日本のモロコシもこの系統群のものである。中央アフリカで発達したマイロは,穂が卵形となる密穂型で,粒が大きく,穀実用としてすぐれ,品種改良が進んでアメリカを中心として,世界での栽培量が最も多い系統群である。そのほか南アメリカのカファkafir,北アフリカのドゥラdurraなどの品種群がある。晩春~初夏に種をまき,秋に収穫する。強健な作物で病虫害は少ないが,アワノメイガやアワヨトウなどの虫害を受けることがある。現在,先進国では生産量のほとんどが飼料用で,デントコーンとともに配合飼料の主原料となっている。食用とするには,渋みがあるので強く搗精(とうせい)し,製粉してだんごや菓子などとする。また,茅台酒(マオタイチユウ)などの醸造原料にする。モロコシの変種にはサトウモロコシホウキモロコシなどがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モロコシ」の意味・わかりやすい解説

モロコシ(蜀黍)
モロコシ
Sorghum vulgare; great millet

イネ科の一年草。タカキビともいう。アフリカの熱帯地域の原産といわれるが,アジア,アフリカで有史以前から栽培され,アメリカにも導入された。茎はトウモロコシに似て,2.5mぐらいになる。花序は複穂状で頂生し,小穂は対生してその片方は無柄で稔性,他方は有柄で雄花のみをつける。主として自家受粉し,秋に多数の穎果をつける。多くの栽培種があり,食料や飼料として広く利用されている。サトウモロコシ S. vulgare var. saccharatumは甘汁が出るのでまれに製糖材料として栽培され,ホウキモロコシ S. vulgare var. hokiは穂からほうきをつくる。日本には室町時代に渡来したといわれ,畑地につくられることは少なく,畑の縁,河岸の出水のある地などに植えられる。中国東北地方のコーリャン (高粱) はこの変種 S. vulgare var. nervosumで中国では非常に古くから栽培されてきた。

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百科事典マイペディア 「モロコシ」の意味・わかりやすい解説

モロコシ

ソルガムとも。アフリカ原産といわれるイネ科の一年草。紀元前からエジプトなどで栽培された歴史の古い作物。多くの種類からなるが,一般に高さ1.5〜3.5mで茎は太い。夏〜秋のころ,茎頂に円錐花序を出し,赤褐色の両性小穂を多数つける。種実は楕円形で色は赤褐色,黄褐色,白色など。種実用モロコシは食料,酒原料にするほか,重要な濃厚飼料とする。コーリャンはこの一種で中国東北地区では重要な食料,酒原料(コーリャン酒)。またサトウモロコシは茎に糖分を多く含み,古くは砂糖原料とされたこともあるが現在では重要な青刈飼料作物である。サイレージにすることが多い。またホウキモロコシは長大な穂をもち箒(ほうき)やブラシの材料になる。

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栄養・生化学辞典 「モロコシ」の解説

モロコシ

 [Sorghum bicolor].カヤツリグサ目イネ科モロコシ属の穀物の一つ.飼料に使われるマイロ,食用にするコウリャンなどはモロコシの例.

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世界大百科事典(旧版)内のモロコシの言及

【雑穀】より

… 世界における雑穀の主要な起源地域はアジアとアフリカで,この二つの地域ではそれぞれ独自の雑穀が成立した。アジア起源の代表的な雑穀はアワSetaria italica,キビPanicum miliaceum,ヒエEchinochloa utilis,インドビエE.frumentacea,ハトムギCoix lacrymajobi var.mayuenの5種であり,アフリカ起源のものとしては,モロコシ(ソルガム)Sorghum bicolor,シコクビエEleusine coracana,トウジンビエPennisetum americanumがあげられる。以上の雑穀は広い地域で栽培されているが,現在でも特定の地域にだけ栽培が局限されている雑穀がある。…

※「モロコシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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