ヤシャブシ(英語表記)Alnus firma Sieb.et Zucc.

改訂新版 世界大百科事典 「ヤシャブシ」の意味・わかりやすい解説

ヤシャブシ
Alnus firma Sieb.et Zucc.

山の崩壊地等に生えるカバノキ科の落葉低木。砂防樹としても利用され,ハゲシバリ,ガケバリなどの別名がある。基部からよく分枝し,灌木状または直立する低木となる。葉は狭卵形で,葉脈は多数がまっすぐに平行して走り,鋭い重鋸歯のある縁に達する。葉柄は長さ約1cmで,多少毛がある。花は3月ころ新芽の開出に先だって開く。雄花序は枝先や上部の葉腋(ようえき)につき,冬の間も裸出している。初めは長楕円形で直立しているが,伸長して下垂し,花粉を散らす。雌花序は冬のあいだ,雄花序よりも下部の芽の中に隠れていて,新しく伸びる枝の先に,1~3個つく。淡緑色の苞が密生し,苞の腋に小苞をともない,紅紫色の2花柱を持つ雌花が2個ずつつく。果時には,苞と小苞が発達した果鱗が卵状長楕円形の球果を形成する。果鱗の腋に,直径約3.5mmで扁平な,両側に小翼を有する果実が2個ずつつき,熟すと宿存する果鱗のすきまからこぼれ落ちる。本州,四国,九州に分布する。ヒメヤシャブシ(別名ハゲシバリ,ミネバリなど)A.pendula Matsum.は葉が細長く,雌花序は3~6個つき,果時には長さ1.5cmとやや小型で,下垂する。北海道,本州,四国に分布する。オオバヤシャブシA.sieboldiana Matsum.はヤシャブシより葉が幅広く,卵形。雌花序は雄花序より上部の芽にあり,通常1個。頂芽が伸びて新しい枝となる。

 ヤシャブシ類は菌根を有し,根粒ができ,空中窒素の固定を行うので,やせ地にも生育する。砂防緑化樹としてよく利用される。ヒメヤシャブシは幼時よりよく萌芽し,急速に裸地をおおうが,浅根性で急傾斜地には不適。ヤシャブシは生長はおそいが,根が深いという。球果はタンニンを含み,染料として利用される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤシャブシ」の意味・わかりやすい解説

ヤシャブシ
やしゃぶし / 夜叉五倍子
[学] Alnus firma Sieb. et Zucc.

カバノキ科(APG分類:カバノキ科)の落葉小高木。高さ7メートルに達する。枝は灰褐色でよく分枝し、毛がある。葉は互生し、狭卵形で長さ4~10センチメートル、先はとがり、側脈は13~17対、縁(へり)に重鋸歯(じゅうきょし)がある。雌雄同株。3月ころ開花する。果穂は短枝の先に1~2個つき、表面の粗い松かさ状で長さ2センチメートル。堅果は楕円(だえん)形、両側に狭い翼がある。福島県以西の本州の太平洋側、四国、九州に分布する。果穂の表面が粗いので「夜叉(やしゃ)」、果穂がヌルデの虫こぶ(五倍子(ふし))と同様にタンニンを含むことから夜叉五倍子の名がついた。果穂から染料をとる。根に根粒がついて荒れ地でもよく生育するため、砂防用に植栽される。

[菊沢喜八郎 2020年2月17日]

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百科事典マイペディア 「ヤシャブシ」の意味・わかりやすい解説

ヤシャブシ

ミネバリとも。カバノキ科の落葉小高木。本州〜九州の山地にはえる。葉は卵状披針形で先はとがり,側脈は10〜17対で平行,縁には低い重鋸歯(きょし)がある。雌雄同株。3〜4月,葉の出る前に開花する。雄花穂は黄褐色で枝先から尾状にたれ下がり,雌花穂は紅色で枝の下方につく。果実は球形で,10〜11月褐色に熟し,多量のタンニンを含む。近縁のヒメヤシャブシは北海道,本州,四国の山地にはえ,葉は側脈20〜26対,卵状長楕円形。伊豆諸島や伊豆半島に多いオオバヤシャブシは葉が卵形で側脈が10〜15対。いずれも火山砂地,崩壊地にもよく育ち,砂防用に植えられる。

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