日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヌルデ」の意味・わかりやすい解説
ヌルデ
ぬるで
[学] Rhus javanica L.
ウルシ科(APG分類:ウルシ科)の落葉小高木。名は、樹液(漆(うるし))で物を塗ることに由来する。また、葉に付子(ふし)(虫こぶ)ができることからフシノキともいう。高さ約5メートルに達する。葉は互生し、7~13対の小葉からなる奇数羽状複葉。葉軸に沿って、小葉間に翼がある。小葉は長楕円(ちょうだえん)形または卵形で長さ5~10センチメートル、先はとがり、縁(へり)に粗い鋸歯(きょし)があり、裏面は軟毛が密生する。雌雄異株。夏、枝先に円錐(えんすい)花序をつくり、小形の白色花を開く。雌・雄花ともに、萼片(がくへん)、花弁とも5枚。雄花は5本の雄しべ、雌花は仮雄蕊(かゆうずい)5本と雌しべが1本ある。果実は扁球(へんきゅう)形で径約4ミリメートル、白色または紫赤色を帯び、短毛を密生する。山野の二次林に普通に生え、北海道から沖縄、および朝鮮半島、中国、東南アジアに広く分布する。
[古澤潔夫 2020年9月17日]
薬用
羽状複葉の中軸の翼の部分にアブラムシ科のヌルデシロアブラムシの無翅(むし)雌虫が吻(ふん)を差し込み、液汁を吸い続けると、その刺激によってアブラムシ周辺の組織が突出して、やがてアブラムシを包んで虫こぶ(虫(ちゅう)えい)ができる。この中で雌虫は単為生殖を繰り返して増殖し、内側から液汁を吸うため、虫こぶはしだいに大きくなり、10月上旬には長さ8センチメートル、幅6センチメートルの袋状となる。中には約1万匹の有翅雌虫がうごめいている。この動きに刺激されて、虫こぶの細胞中にはタンニンが多量に蓄積される。これらの雌虫が孔(あな)をあけて飛び出す前に、虫こぶを集めて熱湯に浸(つ)けて殺し、乾燥したものが五倍子(ごばいし)である。五倍子は、タンニン資源として重要なものである。薬用としては収斂(しゅうれん)、止血剤として下痢、脱肛(だっこう)、痔(じ)、盗汗、出血などの治療に用いる。
[長沢元夫 2020年9月17日]
文化史
ヌルデの果実はカリウム塩を含み、かつては塩の代用にされた。台湾のツオウ族などでは戦前まで利用していた。真言(しんごん)宗では護摩木(ごまぎ)に使う。これは、本来インドで護摩木に用いられたインドボダイジュが傷つけられると白い乳液が出ることと、ヌルデの白っぽい樹液の結び付きによる。かつて小正月(こしょうがつ)に関東地方を中心に立てられたおっかど棒にはしばしばヌルデが使われ、小正月の若木や削掛(けずりかけ)にも用いた。それは、中国で正月にモモの枝を門に挿す風習があり、古く日本に伝わり、まだモモが一般的でなかったため、ヌルデの小枝で代用したものと、前川文夫は説明している。
[湯浅浩史 2020年9月17日]