ヤママユ(読み)やままゆ(英語表記)Japanese silk moth

改訂新版 世界大百科事典 「ヤママユ」の意味・わかりやすい解説

ヤママユ (山繭)
Antheraea yamamai

鱗翅(りんし)目ヤママユガ科の大型のガで,テンサン天蚕)とも呼ばれる。日本原産で全国各地に分布している。成虫は体長約35mm,前翅の開張130mm前後で,灰黄褐色から暗紫褐色を呈する。前後の翅の中央に眼状紋(目玉模様)をもつ。卵は直径2mm前後の扁平な球状で硬い白色の卵殻をもつが,膠着(こうちやく)物質の色により外観は黒褐色を呈する。幼虫緑色で頭部は2齢までが褐色,3齢以降しだいに緑色となる。体形サクサンに類似し,各体節に3対の毛叢(もうそう)突起を有する。発生は年1回(1化性)で卵態で越冬する。5月ごろから孵化(ふか)し,幼虫は約50日間クヌギナラ,クリなどの水分の少ない葉を好んで食べ,4回脱皮した後,葉の間に緑色の繭を作る。繭から強伸度の高い良質の糸がとれるため,1720年ころから八丈島八丈絹として織られ始め,1872年ころからは長野県の各地で放養育されるようになり,いわゆる山繭が生産されるようになった。ヤママユの糸すなわち天蚕糸は色素に染まりにくい特性をもつため,家蚕糸と混織し繊細な縞模様を出すのに用いられ,各種のちりめん(縮緬)織などに使われた。ヤママユはサクサンときわめて近縁で,両者の間の交雑が可能である。交雑したものは正逆交雑ともにサクサンと同様に,蛹態(ようたい)で越冬するようになる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤママユ」の意味・わかりやすい解説

ヤママユ
やままゆ / 野蚕蛾
Japanese silk moth
[学] Antheraea yamamai

昆虫綱鱗翅(りんし)目ヤママユガ科に属するガ。はねの開張140~150ミリメートルに達する最大級のガで、前翅の先端は鎌(かま)状にとがる。色彩は橙黄(とうこう)色から赤褐色まできわめて変異に富む。前後翅とも、はねの中央、横脈上に大きな眼状紋があり、その周囲は黒環で囲まれ、中央は円形に透明。外横線は黒く、その外側は淡青色で縁どられている。日本全土に産するほか、台湾、朝鮮半島からロシア連邦沿海州に分布する。年1回の発生で、成虫は夏から初秋に出現し、よく灯火に飛来する。幼虫は、クヌギ、コナラ、クリ、カシワなどのブナ科、リンゴ、ナシなどのバラ科に寄生する。卵で冬を越し、翌春幼虫が孵化(ふか)し、6月ごろ老熟する。十分成育した幼虫は体長55ミリメートルくらいの太いイモムシで、体の背面に刺毛が生えている。黄緑色で各環節は中央部で膨れ、節の境界ではくびれている。気門線は太く、紫褐色を帯び、その下縁は黄白色。繭は楕円(だえん)形で黄緑色に白粉を混ぜ、小枝に沿ってつくられることが多い。繭から天蚕糸がとれる。カイコと違って屋内飼育ができないので、長野県の有明(ありあけ)地方では、大きな網室にクヌギやコナラを植えて放飼し、糸をとっている。飼蚕(カイコ)に対して山蚕(ヤマコ)とよばれている。中国原産のサクサンも同じように放飼され、ヤママユとの雑種も利用され、品種改良が行われている。

[井上 寛]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤママユ」の意味・わかりやすい解説

ヤママユ
Antheraea yamamai

鱗翅目ヤママユガ科。前翅長 63~85mm。体翅の色彩は黄,褐,赤褐色など変化に富むが,前後翅とも外縁に平行した褐色帯と中央が半透明な眼状紋がある。前翅端はややとがり,雄では雌よりさらに著しく突出する。後翅はほぼ三角形。成虫は年1回,7~9月に出現する。幼虫はクヌギ,ナラ,クリ,カシワなどの葉を食べる。日本全土,朝鮮,アムール,中国,台湾に分布するが,繭から染まりにくい良質の天蚕糸がとれるため長野県の一部では養殖が行われるようになった。なお北海道,本州,四国,九州に産するものは原亜種で,他の産地のものは別亜種とされる。 (→ヤママユガ )

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百科事典マイペディア 「ヤママユ」の意味・わかりやすい解説

ヤママユ

テンサン(天蚕),ヤマコ(山蚕)とも。鱗翅(りんし)目ヤママユガ科の1種。開張130mm内外,黄,黄褐,暗褐色などの地に眼状紋と黒条がある。日本全土,朝鮮,中国,台湾に分布。幼虫は緑色で,クヌギ,ナラ,カシワ,クリなどの葉を食べ,緑色の大きな繭を作る。成虫は年1回7〜9月に発生,夜行性で灯火にくる。繭からは丈夫で光沢の強い天蚕糸がとれるので飼育されることもある。
→関連項目サクサン(柞蚕)

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世界大百科事典(旧版)内のヤママユの言及

【ガ(蛾)】より

…そして次のような科が日本に分布している。ボクトウガ科(7種),ハマキガ科(556種),ホソハマキガ科(40種),ミノガ科(21種),ヒロズコガ科(33種),チビガ科(2種),ハモグリガ科(19種),ホソガ科(136種),コハモグリガ科(5種),アトヒゲコガ科(12種),ヒカリバコガ科(2種),スガ科(81種),メムシガ科(26種),ナガヒゲガ科(2種),ホソハマキモドキガ科(19種),ササベリガ科(2種),マイコガ科(2種),ホソマイコガ科(1種),ヒロハマキモドキガ科(2種),スカシバガ科(25種),ハマキモドキガ科(32種),ニセハマキガ科(1種),マルハキバガ科(57種),スヒロキバガ科(9種),ニセマイコガ科(10種),ヒロバキバガ科(1種),クサモグリガ科(4種),ツツミノガ科(26種),ネマルハキバガ科(2種),キヌバコガ科(2種),カザリバガ科(24種),ヒゲナガキバガ科(13種),キバガ科(75種),ニセキバガ科(1種),ニジュウシトリバガ科(3種),シンクイガ科(10種),マダラガ科(28種),セミヤドリガ科(2種),イラガ科(26種),セセリモドキガ科(3種),マドガ科(24種),メイガ科(600種),トリバガ科(56種),カギバガ科(30種),オオカギバガ科(2種),トガリバガ科(38種),シャクガ科(790種),ツバメガ科(4種),フタオガ科(18種),アゲハモドキガ科(1種),イカリモンガ科(2種),カレハガ科(20種),オビガ科(1種),カイコガ科(5種),イボタガ科(1種),ヤママユガ科(12種),スズメガ科(70種),シャチホコガ科(120種),ドクガ科(52種),ヒトリガ科(107種),ヒトリモドキガ科(5種),コブガ科(39種),カノコガ科(3種),ヤガ科(1200種),トラガ科(6種)。以上のように,日本産のガは4500種にも達しているが,チョウの種数はその1/20くらいしかない。…

※「ヤママユ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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