古くからインドで,心統一などのために広く用いられてきた修行法。〈ヨーガ〉という語は,もともと馬などを〈つなぐ〉を意味する動詞から派生した名詞であるが,一般には,心統一などを目ざす肉体的・心的な修練を意味し,現代インドでは,学校で教えられる体育のこともヨーガと呼ぶことがある。ヨーガの起源はよくわかっていない。インダス文明のハラッパーの遺跡から出土した印章のなかには,獣主(パシュパティ)としてのシバ神の前身を思わせる人物が,あぐらをかいて座っている姿を刻したものがあるが,これがヨーガにかかわりがあるのか否かについては定説がない。明確にヨーガについて述べた最古の史料は,前6~前5世紀に編纂されたとされるウパニシャッド,とくに《カタ・ウパニシャッド》と《シュベーターシュバタラ・ウパニシャッド》である。後2~4世紀ころには《ヨーガ・スートラ》(伝パタンジャリ作)という経典が編纂され,ヨーガ学派が誕生した。また,仏教でもヨーガが盛んに行われた。ヨーガは決して単一のものではなく,古くから今日まで,さまざまな流派が興亡を繰り返してきたのである。後世の分類によれば,ヨーガはおおよそつぎの6種に分けられる。
(1)ラージャ(王道)・ヨーガ 《ヨーガ・スートラ》に説かれている古典的なヨーガの系統に属するもの。サーンキヤ学派の説を背景にし,心の作用の止滅を目標とする。心理的ヨーガともいわれる。
(2)バクティ(信愛)・ヨーガ 《バガバッドギーター》に起源を発するもので,神への絶対的な信愛,帰依に専心する。
(3)カルマ(行為)・ヨーガ 法典で定められた社会的義務を,結果ないし報酬をまったく考えることなくひたすら実践することによって,解脱にいたるとするもの。これも,《バガバッドギーター》に起源を発する。
(4)ジュニャーナ(知識)・ヨーガ 自己の真実の本体(アートマン)が宇宙の原理(ブラフマン)とまったく同一であることを明らかに知ることによって,解脱にいたるとするもの。ベーダーンタ学派の知的体系を骨格とする。
(5)マントラ(真言)・ヨーガ 神秘的な力に満ちた呪文を唱えることによって究極の真実に参入しようとするもの。他のヨーガの補助として実践されることも多い。
(6)ハタ(強制)・ヨーガ シバ派のタントリズム(タントラ)の流れを汲むもので,13世紀ころの北インドの聖者ゴーラクナート(ゴーラクシャナータ)がその開祖であると伝えられる。体を無理やりねじ曲げたような座法を数多く取り入れているのでこの名がある。このヨーガは,身体を宇宙の縮図とみなし,身体の生理的操作によって宇宙そのものと合体できるとする。今日行われているヨーガのほとんどはこの系統に属している。
→ヨーガ学派
執筆者:宮元 啓一
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音訳は瑜伽(ゆが)。本来「結び付ける」意味のサンスクリット語で、古くは牛馬に道具をつけることを意味した。原始仏教経典では煩悩(ぼんのう)と同じ意味で軛(やく)(くびき)と訳される(欲、有(う)、見、無明(むみょう)を四軛という)。しかしのちには修行とくに心統一の行の意に用いられる。ヨーガの坐法(ざほう)を示す神像がインダス文明の遺品にみられるので、その起源もそこに求められるが、仏教以前の文献には心統一の行法としてのヨーガの語はない。それが初めてみえるのは、仏教以後の『カタ・ウパニシャッド』である。そこにはアートマン(我)に関するヨーガを体得することによって、心底に潜む見がたき神を念ずるといい、確固たる感官の執持(しゅうじ)(集中)をヨーガという。次の『シュベーターシュバタラ・ウパニシャッド』は、ヨーガの方法、坐法などや唯一神との合一を説き、『マイトリ・ウパニシャッド』は、呼吸の抑制、感官の制御、静慮(じょうりょ)(禅)、執持、推考、専心(三昧(さんまい))をヨーガの六支とよぶ。ヨーガ学派はヨーガの実践体系をまとめ、その根本経典『ヨーガ・スートラ』(3~5世紀)には、ヨーガを心の働きの停止とし、その体系を禁戒、勧戒(かんかい)、坐法、呼吸の抑制、感官の制御、執持、静慮、三昧というヨーガの八支にまとめる。このような修行を通して最後に心の集中・統一によって、心の働きとは別な霊魂(霊我)の存在を知り、霊我の本性に安立することを解脱(げだつ)とする。この派の哲学はサーンキヤ学派の体系に依存するところが多い。ヨーガは心統一のみならず、広く修行、行道をも意味する。『バガバッド・ギーター』(前2世紀ころ)では知と行為と神への信愛とをそれぞれヨーガとよぶ。後の新ウパニシャッドのうち、ヨーガ・ウパニシャッドの類は、ヨーガをマントラ(真言(しんごん))、ハタ(身体的努力)、ラヤ(無心)、ラージャ(王、最高)の四つに分類する。ハタ・ヨーガは流行し、スワートマーラーマ(16、17世紀)は『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』を著し、体位(体操)、呼吸法など肉体的・生理的操作を説いている。
禅定(ぜんじょう)を重んじた仏教は初めヨーガの語をそれに限らなかった。しかし、弥勒(みろく)、無著(むじゃく)、世親(せしん)によって確立された唯識(ゆいしき)学派は、ヨーガ・アーチャーラ(瑜伽行(ゆがぎょう))派とよばれる。このヨーガは禅定の意である。その後に盛んになる密教においては、瑜伽(ヨーガ)とは仏との合一を意味し、密教経典は通常、所作、行、瑜伽、無上瑜伽の四つに分類される。
[村上真完]
『金倉圓照著『インド哲学仏教学研究Ⅱ』(1974・春秋社)』▽『佐保田鶴治著『ヨーガ根本聖典』(1973・平河出版社)』
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インドで古くから行われてきた心を統一する修行法。後期『ウパニシャッド』で初めて言及される。六派(ろっぱ)哲学に属する古典的ヨーガ学派は,2~4世紀頃パタンジャリが根本経典『ヨーガスートラ』をつくることにより体系化された。アヒンサーなどの生活規則を守り(制戒),心身を鍛錬し(内制),不動の姿勢ですわり(坐法),呼吸を調え(調息),感覚器官の働きを抑え(制感),意識を一つのものに集中し(総持),持続させ(禅定(ぜんじょう)),心を無にする(三昧(さんまい))。同様な修行法は仏教,ジャイナ教においても行われた。13世紀頃,さまざまな坐法を取り入れたハタ・ヨーガが登場し,現代まで続いている。解脱(げだつ)を得る方法一般をも意味し,バクティ・ヨーガなどの表現もある。
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…その基礎には,東洋の宗教の修行法や東洋医学の考え方がある。たとえば,禅やヨーガや道教などの瞑想(めいそう)法や修行法は,心の働きと身体の働きが一体になった〈心身一如〉の境地を理想として追求している。また東洋医学の考え方は宗教と関係が深い。…
…そして,身体を安静に保つ姿勢として座法が一般に用いられるので座禅(ざぜん)ともいわれる。しかし禅定は座禅のみでなく,仏教以外では,いわゆるヨーガとしてさまざまな姿勢が用いられている。また,禅宗は座禅宗ともいわれ,座禅をとくに重要視するが,禅宗のみが禅定を用いているのでもない。…
…ヒンドゥー教の一宗派ナート派が伝えてきたヨーガで,13世紀ころの北インドの聖者ゴーラクナート(ゴーラクシャナータ)が開祖であると伝えられる。シバ派のタントリズム(タントラ)の教義にのっとり,気息という一種の生命エネルギーを利用し,クンダリニーという蛇の形をとって脊椎の最下部に潜んでいる性力(シャクティ)を覚醒させ,エネルギーの溜り場であるいくつかのチャクラを経由させながら脊椎沿いに上昇させることを目ざす。…
…東洋では,ヒンドゥー教,仏教,道教などの修行法としてひろく用いられている。ヒンドゥー教の伝統ではヨーガの一つの流れとして,ラジャ・ヨーガとかクンダリニー・ヨーガなどとよばれている。ヨーガの考え方では,瞑想には次の三つの段階がある。…
※「ヨーガ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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