改訂新版 世界大百科事典 「ライムギ」の意味・わかりやすい解説
ライムギ (ライ麦)
rye
Secale cereale L.
子実を食用や飼料とするために栽培されるイネ科の二年草。葉の葉身の長さは10~25cmほどで,青色がかった緑色である。出穂して草丈は1.5~2.5mに達し,冬作のイネ科作物ではもっとも高くなる。穂は長さ10~18cmで,穂軸に節が約30あり,各節に,小穂が1個ずつつく。小穂は3小花からなるが,最上部の小花は不稔となることが多い。小花の外側の穎(えい)の先端は長い芒(のぎ)となる。粒(穎果)はやや細長く,背面に縦溝があり,表面にしわが多い。1000粒の重さは約36gである。原産地はトルコ,イランで,アフガニスタンで品種分化したと考えられている。栽培化されたのは前3000~前2500年ころ。1世紀ころまでにヨーロッパ全域に広まった。一方,東方への伝播(でんぱ)は遅れ,日本には,明治初期にヨーロッパから導入された。主産国は旧ソ連,ポーランド,ドイツなど。ヨーロッパ諸国では,生産は徐々に減少している。日本では,北海道や山形,長野などの山間高冷地でわずかに栽培されているにすぎない。他の麦類より低い温度で発芽でき耐寒性があるが,種をまくのはコムギやオオムギと同じころである。北海道では9月上・中旬,東北では9月下旬から10月まで,西南暖地では11月ごろまで可能である。また,春にまいて1年生の作物として栽培することもできる。収穫は7月から8月上旬,春まきの場合は8月中・下旬となる。
ライムギは製粉して食用とする。ライムギ粉はやや黒みをおび,パンをつくるとき乳酸発酵で酸性になると粘りを生じる性質がある。この性質を利用してつくられたライムギ粉のパンはいわゆる黒パンで,酸味と独特の風味をもつ。最近では,これを主食とする東欧諸国でも,小麦粉を25~50%混ぜることが多い。めん類や菓子の原料にもする。また,ライムギの麦芽から,黒ビールやウィスキーを醸造し,ウォッカの原料にもする。穀実生産量の約3分の1は飼料用で,配合飼料の原料とする。茎葉は青刈飼料や緑肥としての利用もある。穂にバッカクキンが寄生した菌核は,子宮筋の収縮をうながす性質があり,麦角の名で薬用とされる。
執筆者:星川 清親
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報