フランス中世末期の物語作者。14世紀末にイタリアなどで活躍した有名な傭兵隊長の子としてアルル近くに生まれる。早くからアンジュー伯家に小姓として仕え,生涯の大半をその宮廷で過ごす。その間ヨーロッパ各地を旅し,戦争や騎馬試合に参加,その時の体験から《昔日の騎馬試合と兵法要綱》(1459)その他の著作が生まれる。それよりさきアンジュー伯家の子弟教育のために道徳書《兜》(1437),《広間》(1451)などを著す。しかし彼の最も重要な作品は《小姓ジャン・ド・サントレ》(1456)である。ここで作者は聖職者と騎士の恋の鞘当てという13世紀以来の主題に一つ新しい展開を与え,若い騎士に軍配を挙げて中世騎士道の最後を飾る。これは封建的中世末期の最も生彩に富む文学的記録であり,その即物的レアリスムによって近代的散文を準備した。
執筆者:神沢 栄三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランス中世末期の物語作者。父はガスコーニュ出身の傭兵(ようへい)隊長。アルル近くに生まれ、14、5歳ころから小姓としてアンジュー伯家に仕える。生涯の大半をこの宮廷で過ごし、1448年リュクサンブール公の宮廷の傅育(ふいく)官となる。多年の近習(きんじゅ)生活の経験をもとに王族の子弟教育の書『かぶと』(1442)、『広間』(1451)を著したが、彼の文名を不朽のものとしたのは散文物語『プチ・ジャン・ド・サントレ』L'Histoire du Petit Jehan de Saintré(1456)である。騎士道恋愛に新しい解釈を与えたこの作品は、騎士道物語の体裁を保ちつつも、円卓物語の伝統には決別を告げ、写実的手法により近代的散文文学を準備した。
[目黒士門]
『大高順雄著『アントワーヌ=ド・ラ・サル研究』(1970・風間書房)』
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