翻訳|King Lear
イギリスの劇作家シェークスピアの五幕悲劇。1605年の作と推定される。
リアはイギリスの伝説的国王で、16世紀の文学にもときどき言及されているが、シェークスピアの扱い方は独自である。リア王にはゴネリル、リーガン、コーデリアの三女があり、老体のため彼女たちに国土を分割しようとするが、二人の姉が心にもない追従(ついしょう)をいうのを聞いて、誠実なコーデリアは腹をたて、わざとすげない応答をするので、父王から追放されてしまう。リアは二人の娘の屋敷に交互に滞留することにしたが、どちらからも耐えがたい冷遇を受けるので、宮廷付きの道化師と忠臣ケントの二人だけを連れて暴風雨の荒野をさまよい、娘の忘恩をののしって狂乱するが、やがて、王もまた一介の人間にすぎず、人間は裸の動物にほかならないことを悟る。
フランス王妃となったコーデリアは父王の窮状を聞き、父を救うため軍をイギリスに進めるが、最後には敗れ、リアとともに捕虜となり、兵士の手にかかって絞め殺される。リアは彼女の死体を抱えながら悲しみのため絶命する。二人の姉娘は不倫の恋のため身を滅ぼす。以上が主筋であるが、グロスター伯父子のこれに似た副筋が絡んでいる。すなわち、妾腹(しょうふく)の次男エドマンドは父と兄に悪心を抱き、そのため父は両眼を失い、兄は追放の身となる。彼は最後に兄との決闘に敗れて死ぬ。
シェークスピアの他の作品やこの時代の多くの悲劇と違って、この劇には神の正義が十分に実現されていない。行為と結果との間にギャップがみられるので、シェークスピア悲劇のなかではもっとも実存的であるとの評、現代の不条理劇に似ているという意見もあるが、世界演劇史を通じてもっとも優れた悲劇の一つといわれている。
[小津次郎]
『福田恆存訳『リア王』(新潮文庫)』▽『『リヤ王』(三神勲訳・角川文庫/斎藤勇訳・岩波文庫)』▽『小田島雄志訳『シェイクスピア全集28 リア王』(1983・白水社)』
イギリスの劇作家シェークスピアの四大悲劇の一つ。1605年ころの作。直接的な種本は少し前に出版された作者不明の劇《実録リア王》であったと思われるが,古いケルト民話をもとにしたいくつかの文学作品から題材を得た可能性もある。ブリテンの老王リアは王国を3人の娘に分配する決意を固め,それぞれの娘にその孝心の告白を求めるが,追従を口にする姉娘たちとは逆に,末娘コーディーリアCordeliaは朴訥(ぼくとつ)な答えで父を怒らせて親子の縁の断絶を言い渡され,彼女に求婚したフランス王とともに去る。その後リア王は忘恩の姉娘たちに冷酷にあしらわれ,狂乱の姿で道化を供にあらしの荒野をさまよう。やがて援軍を率いて上陸したコーディーリアは父を救出してやさしく看護し,正気を取り戻したリアと感激の対面をするが,そのあと姉たちの軍勢との戦いに敗れて捕らえられ,絞殺される。再び狂気に陥ったリアは彼女のなきがらを抱えながら悲痛な絶叫を残して息絶える。これと並行してリアの重臣グロスターが庶子エドマンドによって暴虐な目にあわされる脇筋が展開する。リアの心の内のあらしと自然界のあらしの呼応,凄絶(せいぜつ)なリアののろいと道化のノンセンスの交錯は,世界文学史上まれな壮大で複雑な感動を引き起こすものであり,ロマン主義時代には上演不可能とまでいわれた。リアの苦難とコーディーリアの死に作者の虚無思想を見たり,逆にキリスト教的悲劇性を説いたりする立場が根強いが,劇全体の実存的不条理性を強調しようとする現代的解釈もある。
執筆者:笹山 隆
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…およそ1580年代から1630年代ぐらいまで盛んであった年代記史劇は,散文による年代記を資料として,劇としては中世の道徳劇から発達してきたものであった。 しかし,もう少し広く〈歴史劇〉を解することも可能であり,その場合,シェークスピア作品の中では,《リア王》や《マクベス》も〈歴史劇〉と呼ぶことができるし,また,やはり〈悲劇〉の中に入れられている〈ローマ史劇〉の一連の作品も広義の歴史劇と言うことができる。《タイタス・アンドロニカス》や《ジュリアス・シーザー》《アントニーとクレオパトラ》《コリオレーナス》などがそれで,これらはプルタルコスの《英雄伝》などを資料として書かれたものである。…
…また,悲劇の中に喜劇的な要素を持ち込んで,観客の緊張をほぐしたり,逆にかえって中心的状況の悲劇性を際だたせたりするコミック・リリーフの役割を果たす人物も脇役といえる。登場場面は少ないが,《ハムレット》の墓掘りや《マクベス》の門番がそれであり,登場場面の多い《リア王》の道化も一面ではそういう機能を果たしている。《リア王》は,リア王と3人の娘たちをめぐる主筋と,リアの臣下グロスター伯爵と2人の息子をめぐる脇筋とから成るが,便宜的定義をあえてすれば,脇筋の人物がすなわち脇役だということもできる。…
※「リア王」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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