リスボン条約(読み)リスボンじょうやく(英語表記)Lisbon Treaty

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

リスボン条約
リスボンじょうやく
Lisbon Treaty

ヨーロッパ連合 EUの統治制度の簡素化,合理化を目指す国際条約。マーストリヒト条約ローマ条約およびそのほかの文書を修正し,2007年に草案を策定。2008年に大半の加盟国が批准したが,アイルランド,ポーランド,チェコでは批准が遅れた。2009年12月1日,27の加盟国すべての批准を得て発効した。本条約では,2005年にフランスとオランダの国民投票で否決され未発効に終わったヨーロッパ憲法制定条約の柱となっていた数々の事項を扱っている。まず,EU大統領とも呼ばれるヨーロッパ理事会の常任議長(任期 2年半)の役職を設置した。常任議長は,各加盟国の調整役を果たし,政策分野において「EUの顔」となる。さらに対外関係を担当する 2役職を統合して,外務・安全保障政策上級代表を新たに設置。ヨーロッパ議会の権限も強化し,議席数も変更した。リスボン条約の発効により,EU域内の市民の政治的・経済的・社会的権利を保障するヨーロッパ基本権憲章も法的拘束力をもつものとなった。EUの政策を決定する表決の仕組みも変更され,理事会で従来用いられてきた特定多数決制による採決の対象が拡大し,意思決定手続きが容易になった。加えて大半の表決について,加盟国の 55%以上が賛成し,かつ賛成国の人口合計が EU総人口の 65%以上であれば可決できる二重多数決制も導入された。

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知恵蔵の解説

リスボン条約

2005年にフランスとオランダで行われた国民投票において欧州憲法条約の批准を拒否して以来、ヨーロッパ統合は停滞してしまったが、07年6月の欧州理事会(EU首脳会議)では困難の末に新たな改革条約を採択することで合意に達した。12月のリスボン欧州理事会で調印が行われ、EU統合は再活性化した。この条約は文面から「憲法」という表現を削って単なる「改革条約」という呼称に変え、理念的な欧州統合の将来像を掲げることを回避した実質的で、簡明な内容にその特徴がある。新たな統合の前進のきっかけとなったのはフランスで憲法条約の簡素化を主張してきたサルコジ大統領の誕生だった。議長国ドイツとポーランドが理事会の決定方式をめぐって対立するなか、サルコジ大統領が粘り強く交渉に当たり妥協を導いた。リスボン条約(改革条約)の主要な点は、(1)EUの代表(大統領ともいうべき)を勤める欧州理事会の常任議長の創設(任期2年半〈1回再選可〉)、(2)欧州委員会の副委員長を兼任するEU外交・安全保障上級代表(外相理事会の常任議長)の新設、(3)EU議長国は外相理事会を除く閣僚理事会の議長を務める、(4)理事会での決定方式は、各国に加重配分された「持ち票」による現行の多数決方式を廃止し「加盟国数の55%以上」と「EU総人口の65%以上」の賛成を得て成立する、「二重多数決方式」に変更(完全実施は17年3月末)、(5)外交・安全保障、税制、社会保障政策などの分野は全会一致の決定方式を維持(拒否権を認める。司法内務協力分野の決定には多数決制を導入)、(6)少数派を尊重して一定数以上の国が反対する場合は議論の継続が可能、(7)欧州委員会委員数を現行の27人から18人に削減(14年から実施)、(8)欧州議会の議席数を現行の785議席から削減(750議席以下)、(9)欧州委員会提出の法案に3分の1以上の加盟国議会が反対した場合、法案の見直しが可能、(10)人権保障規定などを定めた「欧州基本権憲章」の順守義務。ただし、各国法の優位性を認める、(11)旗、歌などEUの象徴に言及しない、などである。

(渡邊啓貴 駐仏日本大使館公使 / 2008年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

リスボン条約

加盟国が現行の基本条約(ニース条約)成立時から12増えて27カ国になったことに伴って、政治統合の深化や意思決定の迅速化を目的に07年末に調印された。発効には全加盟国の批准が必要。アイルランドのみ同国憲法の規定で批准の際に国民投票を実施しなければならなかった。

(2009-10-04 朝日新聞 朝刊 1外報)

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デジタル大辞泉の解説

リスボン‐じょうやく〔‐デウヤク〕【リスボン条約】

《「欧州連合条約および欧州共同体設立条約を修正するリスボン条約」の通称》ニース条約に代わるEU(欧州連合)の基本条約。EUを民主的・効率的に運営するために、欧州議会・各加盟国議会の権限強化、欧州理事会常任議長(EU大統領)・外務・安全保障上級代表(EU外相)および対外活動庁の設置などが盛り込まれている。EU新基本条約
[補説]2007年12月にEU加盟27か国(当時)首脳が調印し、当初は2009年1月の発効を目指していたが、2008年6月にアイルランドで実施された国民投票で批准が否決されると、チェコ・ポーランドが批准書への署名を保留。発効は延期された。2009年10月にアイルランドで2度目の国民投票が実施され批准が可決すると、同月にポーランド大統領、翌11月にチェコ大統領が批准書に署名。2009年12月1日に同条約は発効の運びとなった。

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百科事典マイペディアの解説

リスボン条約【リスボンじょうやく】

EU(ヨーロッパ連合)を構成するための現行基本条約。それまでの基本条約は2001年締結のニース条約。EUの憲法にあたる。EUは超国家機関であるため条約の締結によって,域内の基本法を定めているともいえる。2007年12月,加盟27ヵ国が署名した。各国の批准をへて2009年12月に発効。EUを代表する欧州理事会常任議長(EUの大統領にあたる),外務安全保障上級代表(外相にあたる,欧州委員会副議長)の2ポストを新設,後者については〈欧州対外活動庁〉を設置して外交機能を強化する。より効率的,統合的,民主的な活動が可能となるようにした。気候変動,テロ対策,警察・司法分野の段階的統合,移民・難民政策の共通化,EU拡大など,EUが直面する新たな課題への対応能力を強化する内容となった。また,理事会での議決方式は,各国に加重配分された〈持ち票〉による現行の多数決方式を廃止し,加盟国数の55%以上とEU総人口の65%の賛成多数によつて成立する,とした。ただし,外交・安全保障,税制,社会保障などの分野では全会一致を維持する(拒否権を認める。司法内務協力分野での決定は多数決)。
→関連項目欧州司法裁判所

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

リスボン条約
りすぼんじょうやく

EU(ヨーロッパ連合)の基本条約であるEU条約とEU運営条約の内容を改訂した条約(2007年にリスボンで締結、2009年発効)。リスボン条約以前のEUは、おもにEU条約とEC条約(旧EEC条約)に基づいていた。リスボン条約は、両条約の改正を通じて、廃案となったEU憲法条約の内容の大部分を復活させた(ただし、条約を「憲法」と称する点やEUの旗・歌・記念日・モットーを定める点などは、復活されなかった)。
 本条約は、EUの諸活動が、EUの価値(「人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配、人権の尊重」)に即して、付与された権限内で(権限付与の原則)、目的達成に必要な範囲でのみ行われ(比例性の原則)、加盟各国や国内地域だけでは十分または効率的に達成できない事柄のみEUが扱う(補完性の原則)といった一連の運営原則を示した。そして人権を保障するEU基本権憲章に基本条約と同等の地位と法的拘束力を与えた。
 EU運営の効率化と可視化も追求した。そこで、ECとEUの法的な区別を解消してEUに一本化し、ECの活動内容はEUが継承しつつ、ECを廃止した。対応してEC条約はEU運営条約と改称された。さらに、対外的にEUを代表する顔として、首脳級では欧州理事会(ヨーロッパ理事会)の理事長が、外務大臣級ではEU上級代表が置かれた(上級代表のもとにはEU外務省に相当するEU対外活動庁が置かれた)。実務慣行では、上級代表は外交面の代表を務め、経済面の代表は欧州委員会(ヨーロッパ委員会)の委員長が務めている。
 EU運営の民主化も進めた。とくに欧州議会(ヨーロッパ議会)の立法への関与を高め、加盟国議会の関与も初めて認めた。欧州議会については、EUの大部分の立法について、閣僚理事会と対等に欧州委員会の法案に修正を加えて採否を決定できる手続にした(通常立法手続。あわせて立法にかかわる場面での閣僚理事会の議事は公開とした)。加盟国議会については、EU法案の立法手続が始まる前に、EU次元の立法に値するかどうかを検証し異議申立てができるものとした(補完性審査手続)。このほか、新たに市民発案の制度を設け、EUの複数諸国の100万人以上の人民による欧州委員会に対する立法発案ができる道を開いた。
 リスボン条約でEUの統治原則の整理が進んだが、いまだに外交・安全保障分野とそれ以外の分野では、制度運営の大きな違いが残っている。前者では、加盟国の意向が強く反映できる全会一致方式(1か国の反対で否決できる)が閣僚理事会での決定方式の原則であり、またEU裁判所の管轄権も原則として及ばない。後者では、閣僚理事会も特定多数決が原則であり、EU裁判所の管轄権は全面的に及ぶ。[中村民雄]

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