レジオネラ肺炎(在郷軍人病)

EBM 正しい治療がわかる本 の解説

レジオネラ肺炎(在郷軍人病)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 1976年、アメリカのフィラデルフィアのホテルで大勢の宿泊客に肺炎が発生しました。221人の重症肺炎患者さんのうち29名が亡くなりました。このホテルでは在郷軍人会の大会が開催されており、それにちなんでこの肺炎は在郷軍人病と名づけられました。
 調査の結果、肺炎の原因となったのは、ホテル屋上の空調用の冷却塔内で増殖した新種の菌であることがわかりました。そのため、この新種の菌は、在郷軍人会を意味するLegion(レジオン)にちなんでレジオネラ菌と命名されました。
 通常土壤や水たまりなどで増殖するレジオネラ菌は、冷却塔のなかで繁殖し、ビルやホテルの換気装置に入り込んだ結果、多数の患者さんが発生することがあります。最近では、家庭用や業務用の24時間入浴可能な循環式の風呂などでその発生が確認されています。
 症状はせき、痰(たん)、発熱、全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん)、呼吸困難、食欲不振などで、一般的な肺炎と大きくは変わりません。胸膜炎(きょうまくえん)を引きおこすと、肺に水がたまる胸水(きょうすい)を伴うことがあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 レジオネラ菌というグラム陰性桿菌(いんせいかんきん)によって引きおこされる感染症で、肺炎として発病します。通常、レジオネラ菌は土壤や水たまりなどにみられ、感染力はそれほど強くありません。感染後の菌の潜伏期間は2~10日で、治療が適切でなく肺炎が進行し低酸素血症が進行すれば死に至ることもあります。おもにお年寄りや新生児など、抵抗力が低下している人に多く発生し、糖尿病やがんなど抵抗力の低下する病気がある場合も発病しやすくなります。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]マクロライド系抗菌薬による薬物療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 複数の臨床研究効果が確認されており、アメリカ感染症学会のガイドラインで推奨されている治療法です。(1)~(4)

[治療とケア]ニューキノロン系抗菌薬による薬物療法を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 複数の臨床研究で効果が確認されています。アメリカ感染症学会のガイドラインではとくに重症の患者さんに勧められています。(1)(5)~(6)

[治療とケア]去痰薬(きょたんやく)を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 専門家の意見や経験から支持されています。

[治療とケア]低酸素状態を改善するため、必要に応じて酸素吸入を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 血液ガス検査などで低酸素血症を認める場合は勧められるでしょう。


よく使われている薬をEBMでチェック

マクロライド系抗菌薬
[薬名]ジスロマック(アジスロマイシン水和物)(3)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]クラリシッド/クラリスクラリスロマイシン)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]エリスロシン(エリスロマイシン
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] アジスロマイシン水和物、クラリスロマイシンについては、臨床研究によって効果が確認されています。これらの薬はアメリカ感染症学会のガイドラインで推奨されています。また、エリスロマイシンについては、同じ系統の薬なので同様の効果があると思われますが、肺への移行や、消化管での吸収の度合い、さらに副作用などの点からクラリスロマイシンやアジスロマイシン水和物のほうが推奨されています。

ニューキノロン系抗菌薬
[薬名]クラビット(レボフロキサシン水和物)(5)(6)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]シプロキサン(シプロフロキサシン)(8)(9)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] レボフロキサシン水和物については、臨床研究によって効果が確認されています。これらの薬はアメリカ感染症学会のガイドラインで、とくに重症の患者さんに推奨されています。また、シプロフロキサシンについては、同じ系統の薬なので、同様の効果があると思われます。

去痰薬
[薬名]ムコソルバン(アンブロキソール塩酸塩)
[評価]☆☆
[薬名]ムコダイン(カルボシステイン)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 去痰薬については専門家の意見や経験から支持されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
入浴設備のある施設などでの感染に注意
 レジオネラ肺炎を引きおこす原因となるレジオネラ菌は、ビルの冷却塔や24時間入浴可能な循環式のお湯を使っている入浴施設・家庭風呂などで繁殖することがあります。
 とくにわが国ではしばしば入浴施設での感染がみられるため、こうした施設を利用したあとに、せき、痰、発熱、全身倦怠感、呼吸困難、食欲不振など肺炎を疑う症状がでたときは、レジオネラ菌に感染していないか、一度は念頭におく必要があります。

完全治癒が可能
 レジオネラ肺炎との診断がつきさえすれば、有効な抗菌薬がわかっていますので、ほとんどのケースで肺炎は治癒し元の健康状態に戻ります。通常の細菌性肺炎とはやや異なる症状(ウイルス感染様の前兆、痰を伴わないせき、意識状態の軽度低下、下痢、リンパ球減少、低ナトリウム血症など)からこの病気の可能性を思いつきさえすれば、正しく診断することはそれほど難しくはありません。

マクロライド系かニューキノロン系抗菌薬が有効
 マクロライド系抗菌薬とニューキノロン系抗菌薬のどちらかを用います。ほかの肺炎に対して用いられることの多いペニシリン系やセファロスポリン系の抗菌薬は無効です。鎮痛解熱薬、去痰薬、酸素療法など、種々の対症療法の適用は、ほかの肺炎の場合と同じように考えればよいでしょう。

発症前数日の行動を医師に説明する
 レジオネラ肺炎は、効果のある抗菌薬とそうでない抗菌薬がはっきり分かれているため、レジオネラ肺炎を疑わないで治療すると、最悪の場合、生命に危険がおよびます。したがって、立ち寄ったビル、入浴施設の利用の有無など発病前の数日間の行動について、医師にくわしく説明することが治療の助けになります。

(1)Bartlett JG, Dowell SF, Mandell LA, et al. Practice guidelines for the management of community-acquired pneumonia in adults. Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2000;31:347-382.
(2)Miller AC. Erythromycin in legionnaires' disease: a re-appraisal. J Antimicrob Chemother 1981; 7:217.
(3)Vergis EN, Indorf A, File TM Jr, et al. Azithromycin vs cefuroxime plus erythromycin for empirical treatment of community-acquired pneumonia in hospitalized patients: a prospective, randomized, multicenter trial. Arch Intern Med 2000; 160:1294.
(4)Genné D, Siegrist HH, Humair L, et al. Clarithromycin versus amoxicillin-clavulanic acid in the treatment of community-acquired pneumonia. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 1997; 16:783.
(5)Edelstein PH, Edelstein MA, Lehr KH, Ren J. In-vitro activity of levofloxacin against clinical isolates of Legionella spp, its pharmacokinetics in guinea pigs, and use in experimental Legionella pneumophila pneumonia. J Antimicrob Chemother 1996; 37:117.
(6)File TM Jr, Segreti J, Dunbar L, et al. A multicenter, randomized study comparing the efficacy and safety of intravenous and/or oral levofloxacin versus ceftriaxone and/or cefuroxime axetil in treatment of adults with community-acquired pneumonia. Antimicrob Agents Chemother 1997; 41:1965.
(7)Saito A, Gaja M. In vitro and in vivo activities of sparfloxacin in Legionella infections. Drugs. 1995;49(Suppl 2):250-252.
(8)Sabrià M, Pedro-Botet ML, Gómez J, et al. Fluoroquinolones vs macrolides in the treatment of Legionnaires disease. Chest 2005; 128:1401.
(9)Haranaga S, Tateyama M, Higa F, et al. Intravenous ciprofloxacin versus erythromycin in the treatment of Legionella pneumonia. Intern Med 2007; 46:35.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

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