博物学者。オランダのデルフトに生まれ、そこで商業を営み、保安官助手や酒量検査官を務めるかたわら、50年にわたって独学で研究した。ガラスや水晶を研磨してレンズをつくり、倍率約300倍にも達する単式顕微鏡を組み立て、いろいろなものを観察した。スケッチを含む観察結果の記述をロンドンの王立協会へ送った。1674年に淡水産の繊毛虫を発見し、虫に生えている毛の姿はまつげに似ているとしてcilium(繊毛)と名づけた。1676年には細菌を発見した。これは、ガラス管にコショウの粉末の水溶液を入れて密封し、数日間放置したのちの検鏡で観察された。1680年には、肉眼ではみえない世界にまで生物界を拡大した業績が認められ、外国人としては初めて王立協会会員に推された。研究は広範囲に及び、動物の精子を発見し、筋肉の横紋、昆虫の複眼の構成なども観察した。また、サケの赤血球の中央には、小さくて透明なあかりのようなものがあることを観察し、細胞核の存在を示唆した。著書として『顕微鏡で明らかにされた自然の秘密』4巻(1695)などがある。
[片島 亮]
オランダの顕微鏡学者。生れ故郷デルフトで織物商を営み,後には市の下級役人として勤めるかたわら,独特の構造をもった単レンズ顕微鏡を製作。原生動物,細菌,淡水性の藻類などの微生物(1674),魚類の赤血球の核(1682),横紋筋の微細構造(1683)など多数の新発見の含まれる手紙を50年にわたりローヤル・ソサエティなどに書き送りつづけた。なかでも,ヒトの精子の発見(1677)は精原説に物的根拠を与えたほか,水中を泳ぎまわるおびただしい数の微生物の存在は当時の人々に大きな衝撃を与え,ピョートル大帝,ジェームズ2世などオランダ内外の著名人が顕微鏡をのぞきにデルフトに集まったという。
執筆者:月沢 美代子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…また《雌性生殖器研究》(1672)ではグラーフ濾胞Graafien follicleを卵細胞と誤認して紹介,卵原説,精原説論争に物的根拠を提供した。なおA.vanレーウェンフックをローヤル・ソサエティに紹介したのはグラーフであったと伝えられている。【月沢 美代子】。…
…植物体での顕微鏡的研究の最初の成果はむしろイギリスのグルーNehemiah Grewによる《植物の解剖》(1682)にあったといえる。 他方,オランダのA.vanレーウェンフックは小型の単一レンズ装置で血液細胞(赤血球)や原生動物を観察し細菌の発見にまで達していた。また,イタリアのM.マルピギーは毛細血管の末端の連絡を発見し,血液循環説に支持を与えた(1675)。…
…ギリシアのヒッポクラテス以来,肉眼で見えない微小な生物の存在は想像されてはいたものの,その存在を確認する手段がなかったのである。細菌を初めて観察したのはオランダのA.vanレーウェンフックで,17世紀後半のことである。彼は自作の顕微鏡を用いて,細菌,酵母,藻類,原生動物などを見いだしている。…
…解剖学と生理学での実証の気運も高まって,ベサリウスの《人体の構造》(1543)とか,やや遅れてW.ハーベーの《血液循環の原理》(1628)が刊行された。顕微鏡による観察ではR.フックの《ミクログラフィア》(1665)があり,A.vanレーウェンフックの活動も17世紀後半であった。 18世紀になると,後生説をとなえたC.F.ウォルフ,多能の実験家であったL.スパランツァーニ,前生説論者でアリマキの単為生殖を見いだしたC.ボネなど,発生学の研究が目だつようになる。…
…この段階では精子の存在は知られておらず,卵に微小成体が存在すると理解されたので,この型の前成説は卵原説と名づけられている。一方,ハムJ.Hamが精子を発見し(1675),A.vanレーウェンフックが受精におけるその働きを推定(1679)して以来,精子に成体の原型が存在するという意見があらわれた。精原説とよばれるこの主張によれば,卵は精子に栄養を提供する役割をうけもつ。…
… 微小循環という名称が一般に用いられるようになったのは1960年代ころからであるが,その研究の歴史は300年以前にさかのぼる。1661年,イタリアのM.マルピーギはカエルの肺ではじめて毛細血管を発見し,1674年,オランダのA.レーウェンフックは自作の顕微鏡を用いてウナギの尾部で毛細血管内の赤血球の流動を観察した。以後19世紀初頭まではおおむね形態学的な観察の記述にとどまっていたが,そのころ微小循環の重要性に着目し,構造,機能の両面から広範な研究を行って近代微小循環学の基礎を築いたのがデンマークのクローSchack August Steenberg Krogh(1874‐1949。…
※「レーウェンフック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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