改訂新版 世界大百科事典 「ローヤルソサエティ」の意味・わかりやすい解説
ローヤル・ソサエティ
Royal Society
王立協会ともいわれる。正式の名称は〈自然についての知識を改善するためのロンドン王立協会The Royal Society of London for Improving Natural Knowledge〉。1660年に設立され,イギリスで最も古く,かつ最も権威のある学術団体。17世紀における近代科学の成立,いわゆる科学革命のさなか,伝統的な自然観や学問体系にあきたりないものを感じていた知識人や哲学者たちは,実験と観察に重きをおく〈新哲学〉ないしは〈実験哲学〉に強くひかれた。かくて,彼らはみずからの知見を発表する場,さらには情報交換と討論の場の必要に迫られて,1640年代からロンドンやオックスフォードで非公式な会合の場をもつようになった。この種の会合・グループのうち最も有力な〈見えざる大学Invisible College〉グループが,1660年に組織化されてローヤル・ソサエティが誕生した。62年に,時の国王チャールズ2世から,ソサエティの活動に関する勅許状Royal Charterを交付されたため〈ローヤル〉という語を冠することになったが,この組織は元来,科学者の自発的な団体であり,初期のソサエティの活動は会員からの会費でまかなわれた。現在は,ソサエティの予算の大半はイギリス議会からの補助金に支えられているが,会費制度は今も維持されている。
初期の会員には,J.ウィルキンズ,R.ボイル,C.レンなど17世紀イギリスを代表する科学者が名を連ねていた。なかでも,ソサエティの実験器具管理者となったR.フックは,定期的に開かれた会合で,数多くの興味深い実験を行って,ソサエティに活力を与えるなど,ソサエティの発展に大きく貢献した。また書記のH.オルデンブルクは,65年にソサエティの機関誌《フィロソフィカル・トランザクションズPhilosophical Transactions》(《哲学紀要》と訳されることもある)を創刊し,会員の研究成果や最新の情報を掲載した。定期的に刊行される雑誌による知識の公開と迅速な情報の流通というシステムは《フィロソフィカル・トランザクションズ》以来,学界一般に広く定着した。ローヤル・ソサエティが近代的学会の嚆矢(こうし)とみなされるゆえんである。
72年,ソサエティはI.ニュートンを会員に選出して彼の記念碑的な著作《プリンキピア》(1689)の執筆を促し,出版の助成もした。ローヤル・ソサエティは,科学革命の総仕上げの場となったわけである。ニュートンは1703-27年の間,ソサエティ会長の座にあってイギリス科学界に君臨した。ニュートン没後も,ソサエティは各種の探検・調査旅行を実施して,イギリスを代表する科学機関としての名声を高めた。その一方,会員選出方法の不備から,科学的業績をもたない名誉会員的な人々の比重が大きくなり,ソサエティはしだいに活気を失って,科学機関としての役割を果たしていないとの批判にさらされた時代もあった。
ソサエティの会員(Fellow of the Royal Society。FRSと略記)となることは,イギリスの科学者にとって最も名誉なことであるが,95年現在FRSの称号をもつ者は約1100名,外国人会員は日本の江橋節郎,西塚泰美(やすとみ)を含め約100名である。最高議決機関としてカウンシルがあり,そのもとに多数の委員会がおかれて,ソサエティの活動を支えている。ソサエティの活動の中で,会員の選出,コプリー・メダルなど計11にものぼる賞の選定,研究教授職の任命などは,栄誉・褒賞機関としてのソサエティの役割を示している。ソサエティは各種学術講演会やシンポジウムの開催,探検旅行の実施に力を注ぎ,また前記《フィロソフィカル・トランザクションズ》のほか《会報Proceedings of the Royal Society》(1800創刊),《記録Notes and Records of the Royal Society》(1938創刊)などを刊行し出版活動にも熱心である。
→学会
執筆者:成定 薫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報