王乳ともいう。ミツバチの孵化(ふか)後3日齢から13日齢ころまでの若い働きバチの下咽頭腺と上顎(じようがく)腺から分泌される乳白色で酸味を呈するホルモン様物質をいい,はちみつとはその成因・成分がまったく異なる。同じ有精卵から孵化した幼虫が,働きバチ乳とみつと花粉を与えられると働きバチに分化し,王乳のみを与えられると女王バチに分化する。女王バチは体重が働きバチに比べて2倍大きく,寿命が40倍も長い。しかも女王バチは生涯王乳のみを餌とし,成熟すると年間をとおして自己の体重(0.2g)と同じくらいの重さの卵を毎日1500~2000個産みつづける。王乳のなかにはこの驚異的産卵能力を支える栄養源や,女王バチへの分化を促す引金の役割を演ずる物質が含まれていることがわかり,おおいに学問的興味をそそった。古くから不老長生の霊薬といわれるゆえんの一つでもあろう。花みつと花粉を原料として若い働きバチの体内で合成され分泌されるものであるが,約65%の水分を除くと主成分はタンパク質であり,乾燥重量の約50%を占める。そのほか炭水化物約20%,脂質約14%,遊離アミノ酸類も豊富で,必須アミノ酸のほとんどが含まれ,有機酸では10-ヒドロキシデセン酸が王乳固有の成分として注目されている。無機質やビタミン類も多く含まれ,機能的・総合的栄養剤として評価されている。固有で未知の成分はR物質と呼ばれている。王乳の医療的効果については,イタリア,フランスおよび東ヨーロッパ諸国で多くの研究報告がある。成長・発育,骨組織の再生,造血,血管組織,皮膚組織,泌乳,アレルギー疾患,抗菌性,抗腫瘍性などに関する臨床試験がその内容であるが,より基本的には,自律神経系の調節作用,細胞の賦活作用や抗体の産生能など,生体の防御機構に,直接的にあるいは間接的に関与しているのではないか,という点で強い関心がもたれている。現在その作用機構についての研究が進められている。
執筆者:田代 一男
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…産卵能力は抜群に高く,春から夏にかけての繁殖期には,1日当り1500個もの卵を産むといわれている。女王バチは,働きバチや雄バチとは違って,王台(おうだい)と呼ばれる特別の巣房で,王乳(ローヤルゼリー)で育てられる。4月から6月にかけて,新しい女王が羽化するころになると,古い女王バチは,その巣のほぼ半分の働きバチをつれて,分封といわれる巣分れをする。…
※「ローヤルゼリー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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