ワイタンギ条約(読み)ワイタンギじょうやく

改訂新版 世界大百科事典 「ワイタンギ条約」の意味・わかりやすい解説

ワイタンギ条約 (ワイタンギじょうやく)

1840年2月6日,ニュージーランド北島のワイタンギWaitangiでイギリスの代表ホブソン大佐William Hobson(1793-1842)と50余名のマオリ族首長が調印した条約。これによりニュージーランドはイギリスの植民地となった。これまで先住民のポリネシア系マオリ族とイギリス系入植者との間には,マオリ所有の土地や漁場をめぐる争いがたえず,植民地建設派の強い要求により条約が締結された。条約の目的はイギリス女王主権をニュージーランド全島に認めさせることであり,その意図は異なる文明をもつ二つの民族が平和に暮らす公正な社会の建設にあった。マオリは女王の主権を認め,土地の購入権を女王のみに与え,代りに自分たちの資産の所有権およびイギリス国民としての権利と保護を得た。しかしこの条約によって両者の争いが消滅したわけではなく,署名を拒否した部族と植民地政府との間にマオリ戦争(1860-72)が起きた。現在ではニュージーランドは〈二つの文化,一つの国〉の実験場として歴史家の注目を集めている。2月6日はニュージーランド・デーとして祝日である。
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百科事典マイペディア 「ワイタンギ条約」の意味・わかりやすい解説

ワイタンギ条約【ワイタンギじょうやく】

1840年,ニュージーランド北島のワイタンギWaitangiで英国政府とニュージーランド先住民マオリの首長達の間で締結された条約。これによりニュージーランドは英国の植民地となった。条約は主に以下の内容を明記している。(1)ニュージーランドの全主権を英国国王に譲渡する。(2)英国国王は先住民の文化,および森林,漁業場を含む土地における権利を保障する。マオリの所有地の売買は英国国王の許可を必要とする。(3)マオリに英国国民としての保護と特権を与える。この条約締結の背景には,ニュージーランドが比較的後の時代に植民地化されたことがある。しかし,(2)は当時の植民地政府と入植者によって無視されたため先住民の不満は高まり,1860年からのマオリ戦争の原因となった。 1970年代以降,マオリの文化復興運動,権利回復運動が盛んになると,その根拠としてこの条約が挙げられるようになり,条約に沿った土地権,漁業権,歴史の見直しが行われるようになった。1975年,政府はこの条約の理念に基づいた(土地権などの)請求を審理する機関としてワイタンギ審判所を設立した。ワイタンギ条約は今日マオリとパケハ(白人)の平等な関係原点として大きな意味を持ち続けている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワイタンギ条約」の意味・わかりやすい解説

ワイタンギ条約
ワイタンギじょうやく
Treaty of Waitangi

1840年2月6日,ニュージーランド北島のマオリ族とイギリス政府の間に結ばれた歴史的条約。この条約によりニュージーランドはイギリスの植民地となった。条約には,(1) マオリ族はイギリス国王に主権を譲渡する,(2) イギリス国王はマオリ族の権利を保護し,土地の売買は国王との間でのみ認められる,(3) マオリ族はイギリス国民のもつすべての権利を享受する,の3項目が定められた。しかし実際には政府は資金に乏しく,安く買上げた土地を高く入植者に売りつけたため,マオリ族と入植者の不満が高まり,さらに急増する土地需要に対しマオリ族が売惜しみするようになると,両者の対立は一層深まり,44~47年のアイランズ湾戦争,1860年代のマオリ戦争となった。 62年先住民土地法が成立し,土地の個人売買が認められると,ワイタンギ条約は消滅した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ワイタンギ条約」の解説

ワイタンギ条約
ワイタンギじょうやく

マオリ人

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世界大百科事典(旧版)内のワイタンギ条約の言及

【ニュージーランド】より

…イギリスではニュージーランドをオーストラリア植民地の一部にするか,新しい移住先にするか両論あったが,38年にニュージーランド会社が設立され,40年1月に最初の移民が現在の首都ウェリントン付近に着いた。
[イギリス植民地時代]
 1840年2月6日,アイランズ湾岸ワイタンギでイギリス駐在官ホブソンWilliam Hobson(1790‐1842)と,マオリの首長約50人との間でワイタンギ条約が結ばれた。この条約によってマオリは主権をビクトリア女王に譲り,女王にのみ土地の購入権を与えた。…

※「ワイタンギ条約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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