サンスクリット語のicchantikaを音写した言葉。通俗語源解釈では〈欲求しつつある人〉の意で,快楽主義者や現世主義者をさすといわれるが,仏教では〈仏教の正しい法を信ずることなく,悟りを求めないために成仏の素質や縁を欠く者〉〈仏教の正法を毀謗(きぼう)し,救われる望みのない人〉を意味する。《大乗涅槃経》では〈一切衆生悉有仏性〉を説き,いかなる人も成仏する可能性をもつことを強調する。法相宗はこれを否定し,天台宗・華厳宗その他大乗の諸宗はこれを肯定する。このことは中国・日本を通じて論争され,日本仏教においても,信ずることによって成仏できるとの観点から一闡提成仏の問題が継承され展開している。
執筆者:渡辺 宝陽
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏教用語。サンスクリット語のイッチャンティカicchantikaの音写。詳しくは一闡底迦(いっせんていか)と音写され、闡提と略称される。「名聞利養を欲求しつつある人」を原意とするが、極欲(ごくよく)、信不具足(しんふぐそく)(信をもたない者)、断善根(だんぜんこん)(善行を断じた者)などと訳され、成仏(じょうぶつ)(仏になること)の因をもたない者をいう。もとより解脱(げだつ)の因を欠く断善闡提と、菩薩(ぼさつ)が衆生(しゅじょう)(生きとし生けるもの)を救済する大悲(だいひ)を行って故意に悟りに入らない状態にある大悲闡提(または菩薩闡提)との2種がある。また、しばらくは成仏できないが仏の威力(いりき)によって成仏するに至る有性(うしょう)闡提と、けっして成仏することのできない無性(むしょう)闡提とに分ける場合もある。
[伊藤瑞叡]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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