万宝山事件(読み)マンポウザンジケン

デジタル大辞泉 「万宝山事件」の意味・読み・例文・類語

まんぽうざん‐じけん【万宝山事件】

1931年7月、中国東北部(旧満州)の長春近郊、万宝山で起こった朝鮮人農民と中国人農民の衝突事件。世界恐慌下、同地に移住した朝鮮人が水路工事を強行したことに対し、中国側が日本帝国主義手先行動として反発襲撃が行われた。日本はこれを中国側の不法行為宣伝満州侵略気運の醸成に利用した。

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精選版 日本国語大辞典 「万宝山事件」の意味・読み・例文・類語

まんぽうざん‐じけん【万宝山事件】

  1. 昭和六年(一九三一)七月、中国東北部(満州)長春郊外、万宝山付近で朝鮮人移住民を中国人農民が日本帝国主義の手先とみて襲撃した事件。土地と水に民族感情がからんだ衝突事件であったが、日本は中国の不法行為として大々的に宣伝、満州侵略の気運を高めた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「万宝山事件」の意味・わかりやすい解説

万宝山事件
まんぽうざんじけん

1931年7月、中国吉林(きつりん)省長春付近で起きた朝鮮人農民と中国人農民の武力衝突事件。背後には満州(中国東北)侵略を企図する日本の存在があった。前年間島地方で蜂起(ほうき)を鎮圧された朝鮮人農民300人余りは、万宝山付近に移住、中国人地主から約1000町歩(約10平方キロメートル)の土地を借り、灌漑(かんがい)工事を行って水田を開発しようとした。中国側は、これが日本帝国主義の侵略政策の一環であるとみなして、彼らに退去を要求した。そして7月には中国人農民500人が武装して移住地区を襲い、水利施設を破壊した。これに対し日本は、領事警察を出動させて対抗するとともに、中国に圧力を加え、日本国内においては、同年6月モンゴル人に変装して興安嶺(こうあんれい)地方を調査していた参謀本部員が殺害された「中村大尉事件」とあわせて大々的に宣伝、満州侵略の世論作りに利用した。朝鮮でも日本の宣伝を受けた民衆が中国人居留民を襲う報復事件が頻発した。こうして同年9月満州事変勃発(ぼっぱつ)した。

[古厩忠夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「万宝山事件」の意味・わかりやすい解説

万宝山事件
まんぽうざんじけん

1931年7月中国吉林省万宝山付近で,朝鮮人移住農民と中国農民とが開墾地および水路をめぐって争った流血事件。 1931年4月,間島地方を追われた朝鮮人農民は長春の西北 30kmにある万宝山付近の荒れ地を中国人地主から借りて開墾を開始し,水田に必要な灌漑用水路開削工事に取りかかった。この用水路の開削が無断でなされ,上流が氾濫する危険もあることから,中国農民は工事の中止を要求,中国官憲は朝鮮人 10人を逮捕したが,工事は日本政府の支持のもとに強行された。これに対し7月1日中国農民数百人が押しかけ,用水路の破壊に着手した。また,翌2日も約 500人の中国農民が押寄せ,双方銃を発砲したが,死者は出なかった。仁川では日本の官憲の出した「朝鮮人多数が殺された」というデマを新聞が報道したため,京城,平壌,仁川などをはじめ朝鮮全土に大規模な排華運動が起った。当時の幣原外相は国民政府の中国統一強化に原則的に賛成であったが,日本国内ではこの事件を一つのきっかけにして,積極的外交を望む声が強くなった。

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改訂新版 世界大百科事典 「万宝山事件」の意味・わかりやすい解説

万宝山事件 (まんぽうざんじけん)

1931年7月2日,中国吉林省長春市郊外の万宝山で起きた朝鮮移住民と中国農民の衝突事件。日本の植民地朝鮮では,東洋拓殖株式会社が中心となって没落農民の満州移住が進められ,31年には63万人に達した。移住民は日本の手先と見られ,中国側の反日の矢面にたたされた。日本は朝鮮での反華報復をあおり,両民族の離間策の中に満州侵略の機運を盛り上げた。満州事変は直後に起きた。
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百科事典マイペディア 「万宝山事件」の意味・わかりやすい解説

万宝山事件【まんぽうざんじけん】

1931年に起きた中国東北在住の朝鮮人と中国人との衝突事件。生活苦から長春郊外万宝山に移住した朝鮮人の用水路開設を中国側は日本帝国主義の進出と考え,同年7月中国人数百名が実力で阻止,日本側は警官が出動して工事を強行した。これが扇動的に報道されたため,平壌,仁川などで在朝鮮中国人の虐殺事件をひき起こし,満州事変の前提ともなった。
→関連項目中村大尉事件

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「万宝山事件」の解説

万宝山事件
まんぽうざんじけん

1931年(昭和6)7月,中国東北地方の万宝山(長春の北方)でおこった中国農民と入植朝鮮人との衝突事件。同年4月以降,日本の支援でこの地方に入植した約200人の朝鮮人が用水路開発などをめぐって中国人農民と対立,数百人の中国人農民が用水路を破壊して日中両警察の発砲事件をひきおこした。この衝突事件で朝鮮人殺害という誤報が「朝鮮日報」などで流された結果,京城(現,ソウル)などの都市で大規模な排華暴動を誘発した。

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旺文社日本史事典 三訂版 「万宝山事件」の解説

万宝山事件
まんぽうざんじけん

昭和初期の1931年7月,中国満州(東北地方)の長春西北の万宝山付近でおきた,朝鮮人農民と中国人農民との衝突事件
日本の支援で入植した朝鮮人農民が開墾のため水路造成工事を始めると,水害を恐れる中国人農民が水路を埋め立て朝鮮人農民と衝突,中国や日本の警察が出動した。朝鮮各地で朝鮮人のデモ,中国人襲撃,焼打ちなど暴動がおきた。日本の満州侵略の口実の一つとなった。

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