日本大百科全書(ニッポニカ) 「中村大尉事件」の意味・わかりやすい解説
中村大尉事件
なかむらたいいじけん
1931年(昭和6)6月27日、満州(中国東北地区)奥地の興安嶺(こうあんれい)方面を調査中の中村震太郎(しんたろう)大尉が同行者とともに中国人に殺害された事件。同年9月の満州事変の準備の一環として、中国敵視、排外熱をあおるために、軍部によって巧みに利用された。参謀本部員であった中村大尉は、農業技師と身分を偽り、同地区において対ソ作戦のための軍事スパイ活動を行ったが、関玉衡指揮下の中国兵に逮捕され、軍事スパイとして処刑された。陸軍省は、7月中旬にこの事件を察知、調査ののち、8月17日にスパイ活動の事実は隠蔽(いんぺい)し、中国軍に殺害されたことのみを発表した。そのためにこの事件は、国民の排外主義をあおるための宣伝材料として、軍部などに大いに利用されることになった。
[風間秀人]