歌仙絵のうち,とくに三十六歌仙の肖像を描き,その略歴と詠歌1首を書き添えた絵巻。平安時代末から鎌倉時代には古典文学復興の機運とともに,藤原公任撰の三十六歌仙への尊崇が高まった。ちょうどこのころ,人物の動的な生彩を個性豊かに表現しようとする似絵(にせえ)の手法が肖像画のジャンルに新風をもたらし,藤原隆信,信実父子のような名手が出るに及んで,歌仙の肖像を描いた歌仙絵も盛行した。中でも佐竹家旧蔵の上下2巻が最古最優の遺品であったが,1919年各歌仙ごとに切り離され,諸家に分蔵されるに至った。これを〈佐竹本〉と呼んでいる。男は束帯姿を中心とし,女は正装の女房装束姿で,その装束,姿態の変化に富んだ装飾美,細墨線で的確に描き出した顔貌表現が有機的に結びつき,生動感豊かな画面となっている。制作期は13世紀初めころと考えられ,藤原信実の筆と伝えられるが確証はない。佐竹本と並び称せられ,ほぼ同じ体裁をとる〈上畳(あげたたみ)本〉も本来は2巻の絵巻物であったと考えられるが,早くから断簡として流布し,各歌仙が置畳の上に描かれているのでこの名がある。佐竹本と同系統の一本と考えられるが,表現の謹直さが,佐竹本のゆったりとしたおおらかさに代わるなど,微妙な相違をみせている。
執筆者:田口 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
藤原公任撰(きんとうせん)の36人の歌人の画像に、略歴と歌1首を添えて構成した絵巻。もっとも古い遺品は佐竹家伝来の二巻本(通称「佐竹本」)で、鎌倉初期(13世紀前半)の制作になり、書は後京極良経(ごきょうごくよしつね)、絵は藤原信実(のぶざね)と伝称されるが確証はない。1919年(大正8)に各歌仙ごとに切断され、掛物に改装されて現在諸家に分蔵されている。人物の顔貌(がんぼう)描写には新しくおこった似絵(にせえ)の手法を取り入れた写実的な個性表現がうかがえ、着衣にはときに華麗な彩色が用いられ、歌仙絵の最高傑作とされる。これとほぼ同じころの制作になる上畳(あげだたみ)本三十六歌仙絵巻は、各歌仙が上畳の上に坐る姿で描かれたものであるが、やはり一図ずつの断簡として伝わっており、歌仙絵の流行期を代表する作例である。このほか南北朝時代の白描による『釈教三十六歌仙絵巻』(1347)、さらに室町以後には業兼(なりかね)本、後鳥羽院(ごとばいん)本、為家(ためいえ)本、木筆(もくひつ)本、新三十六歌仙など多種の三十六歌仙絵巻がつくられた。
[村重 寧]
『森暢編『新修日本絵巻物全集19 三十六歌仙絵』(1979・角川書店)』
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