すぐれた歌人の意。六歌仙,三十六歌仙の類。また,それにちなんで,連歌・俳諧の一体をいう。これは連句の一形式で,5・7・5の長句と7・7の短句を交互に36句連ねたもの。最初の3句を発句(ほつく)・脇・第三,最後の1句を挙句(あげく)と呼び,以上が起承転結の役を果たす。その他の句は平句(ひらく)と呼ばれ,連句の諸形式は平句の数の多少によって生じる。歌仙の形式と名称は,和歌の三十六歌仙名を各句によみこんだ物名連句に由来するか。100句連ねる正式の百韻に対して,略式の一つであるが,元禄期の俳諧革新以後,この形式が主流となった。それは,一巻の長さが余暇を楽しむのに適当で,芸術的な配慮がゆきとどきやすく,しかも略式のゆえに比較的自由な裁量ができたからであろう。記録には懐紙2枚を用い,初折(1枚目)の表に6句,裏に12句,名残(なごり)の折(2枚目)の表に12句,裏に6句の句割りで記す。一巻の運びは序破急の要領で,初表は穏やかに始め,初裏に入ると一転して華やかに曲折をつくし,名残の表後半からはすみやかに終息に向かう。また,一巻の中に自然と人生の諸相をよみこみ,それが反復することなく変化にとんだ展開をしながら,全体として均衡のとれていることが大切である。そのための諸規定があるが,歌仙の場合は百韻のそれを簡略化したもので,あまり細部には拘泥しない。春秋の句は3~5句,夏冬の句は1~3句続けてよみ,同季の再出には少なくとも5句隔てるが,なかでも月花は不可欠の景物として,よむ数(二花三月)と位置(定座(じようざ))が指定されている。月は初表5句目,初裏8句目あたり,名残の表11句目。花は初裏11句目,名残の裏5句目。恋の句は2~5句続け,再出には少なくとも3句隔てるが,これも一巻に不可欠のものとして,通例2度ほど出す。このような構成を念頭に置き,前に出た句を記憶しながら変化をはかり,芸術的緊張を最後まで持続させるには,ほぼ36句くらいが手ごろで,芭蕉もこの形式をもっぱら採用した。
→連句
執筆者:白石 悌三
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李白(りはく)を「詩仙」というのに倣い、『古今集』真名序(まなじょ)で柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)、山部赤人(やまべのあかひと)を「和歌仙」としたのに始まる。同仮名序(かなじょ)で人麻呂を「歌の聖(ひじり)」、赤人を「歌にあやしく妙(たへ)なり」とするように、傑出した歌人のことである。『古今集』序文で「近き世にその名聞えたる人」として評された6人の歌人を、のちに「六歌仙」と称した。これに倣い「新六歌仙」「続六歌仙」などが生まれた。また、藤原公任(きんとう)撰(せん)の『三十六人撰』所収歌人を「三十六歌仙」と称したのを嚆矢(こうし)として、「新三十六人」「後六六撰(のちのろくろくせん)」「中古三十六歌仙」「女房三十六歌仙」「釈教三十六歌仙」などがつくられた。一方、『三百六十番歌合(うたあわせ)』『時代不同歌合』は歌仙形式と歌合様式が結び付いたもの。『歌仙落書(らくしょ)』『続歌仙落書』は優秀歌人評である。また、これらに選ばれた歌人の肖像にその歌1首を添えた「歌仙絵」も描かれた。なお、「三十六歌仙」が歌仙一般の形式として定着したので、連歌や俳諧(はいかい)において、長句・短句を36句連ねた形式を「歌仙」というようにもなった。
[杉谷寿郎]
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