か‐せん【歌仙】
[1] 〘名〙
① (中国、唐の詩人李白を「
詩仙」と称するところから)
和歌にすぐれた人。のちにはある時代の傑出した
歌人をいう。また単に、歌人の意でも用いる。「
古今集‐序」で
紀貫之の選んだ六人の歌人、一条天皇の
御代に藤原公任の選んだ三十六人の歌人を後にそれぞれ
六歌仙、
三十六歌仙といったものが知られている。
※
明衡往来(11C中か)上末「彼左金吾藤少将等。歌仙也伶人也」
② (和歌の三十六歌仙に由来する)
連歌、
連句の
形式の一つ。二枚の
懐紙を用い、初表
(しょおもて)六句、初裏一二句、名残表
(なごりのおもて)一二句、名残裏六句と、以上三六句続ける。蕉門
俳諧確立後、
百韻形式に代わって
主流となった。また、一八句で終わるものは半歌仙という。歌仙俳諧。
※俳諧・笈の小文(1687)「すきものとぶらひ来りて、歌仙あるは一折(ひとをり)など度々に及(およぶ)」
③ 仕舞などで三六番演ずること。
[2]
狂言。和泉流・鷺流。奉納した
絵馬から抜け出した、六歌仙の
月見の宴で、
遍昭(へんじょう)と、
小町との仲をうらやむ他の人々とが争うが、
夜明けとともに元の絵馬に収まる。
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デジタル大辞泉
「歌仙」の意味・読み・例文・類語
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歌仙
かせん
李白(りはく)を「詩仙」というのに倣い、『古今集』真名序(まなじょ)で柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)、山部赤人(やまべのあかひと)を「和歌仙」としたのに始まる。同仮名序(かなじょ)で人麻呂を「歌の聖(ひじり)」、赤人を「歌にあやしく妙(たへ)なり」とするように、傑出した歌人のことである。『古今集』序文で「近き世にその名聞えたる人」として評された6人の歌人を、のちに「六歌仙」と称した。これに倣い「新六歌仙」「続六歌仙」などが生まれた。また、藤原公任(きんとう)撰(せん)の『三十六人撰』所収歌人を「三十六歌仙」と称したのを嚆矢(こうし)として、「新三十六人」「後六六撰(のちのろくろくせん)」「中古三十六歌仙」「女房三十六歌仙」「釈教三十六歌仙」などがつくられた。一方、『三百六十番歌合(うたあわせ)』『時代不同歌合』は歌仙形式と歌合様式が結び付いたもの。『歌仙落書(らくしょ)』『続歌仙落書』は優秀歌人評である。また、これらに選ばれた歌人の肖像にその歌1首を添えた「歌仙絵」も描かれた。なお、「三十六歌仙」が歌仙一般の形式として定着したので、連歌や俳諧(はいかい)において、長句・短句を36句連ねた形式を「歌仙」というようにもなった。
[杉谷寿郎]
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歌仙【かせん】
(1)すぐれた歌人のこと。《古今和歌集》真名序に,柿本人麻呂,山部赤人を歌仙としたことに始まる。六歌仙,三十六歌仙などがある。(2)百韻,世吉(よよし)などとともに,連歌,俳諧(はいかい)の一体。長句,短句を交互に36韻(句)連ねたもので,三十六歌仙にちなむ呼称。蕉風俳諧において大いに流行した。最初の3句を発句,脇,第三,最後の句を挙句とよぶ。
→関連項目歌仙絵|芭蕉|百韻|連歌|連句
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歌仙
かせん
(1) すぐれた歌人を選び,その名や歌をあげたもの。またすぐれた歌人。『古今集』序に柿本人麻呂と山部赤人を「和歌の仙 (ひじり) 」と記しているのが最初の用例である。代表的なものは,遍昭,在原業平ら6人の六歌仙と,人麻呂,紀貫之ら 36人の三十六歌仙で,これにならって,六歌仙は和歌六人党,新歌仙など,三十六歌仙は後六々撰,中古三十六歌仙など,近世にいたるまで多くの歌仙が選ばれた。『百人一首』などもこれに準じるものであろう。 (→歌仙絵 )
(2) 連歌,俳諧で,36句続けて詠む形式。俳諧では松尾芭蕉以後,代表的な形式となった。
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かせん【歌仙】
すぐれた歌人の意。六歌仙,三十六歌仙の類。また,それにちなんで,連歌・俳諧の一体をいう。これは連句の一形式で,5・7・5の長句と7・7の短句を交互に36句連ねたもの。最初の3句を発句(ほつく)・脇・第三,最後の1句を挙句(あげく)とよび,以上が起承転結の役を果たす。その他の句は平句(ひらく)とよばれ,連句の諸形式は平句の数の多少によって生じる。歌仙の形式と名称は,和歌の三十六歌仙名を各句によみこんだ物名連句に由来するか。
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