日本大百科全書(ニッポニカ) 「上国石」の意味・わかりやすい解説
上国石
じょうこくいし
jokokuite
硫酸塩鉱物の一つ。1978年(昭和53)南部松夫(なんぶまつお)(1917―2009)らによって、北海道上ノ国(かみのくに)町上国(じょうこく)鉱山(閉山)から発見記載された新鉱物。胆礬(たんばん)の二価マンガン(Mn2+)置換体にあたる。上国鉱山は菱(りょう)マンガン鉱を脈石鉱物とする熱水性金・銀・亜鉛・鉛鉱脈鉱床であるが、その菱マンガン鉱を鉱石鉱物として採掘したマンガン鉱床でもある。硫化鉄鉱物の分解によって生じた硫酸イオン[SO4]2-と、これが菱マンガン鉱に作用して生成されたMn2+が結合するわけであるが、この結合が空気中で行われてもMn2+は酸化されない。これは弱硫酸酸性条件では、Mn2+の周囲にH2Oが配位し、酸化を妨げているからで、同様の現象は同構造のシデロティルsiderotil(Fe[SO4]・5H2O)や高位水化物の緑礬(りょくばん)などについてもみられる。鉱山の坑道中に鍾乳(しょうにゅう)石様の集合をなして産し、脱水するとアイレス石ilesite(Mn[SO4]・4H2O)の帯紅白色粉末となる。ほかに石膏(せっこう)、緑礬など硫酸第一鉄鉱物とも共存する。原産地にちなんで命名された。
[加藤 昭 2017年5月19日]