不同意性交等罪(読み)ふどういせいこうとうざい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「不同意性交等罪」の意味・わかりやすい解説

不同意性交等罪
ふどういせいこうとうざい

相手の同意を得ずに性交等を行う犯罪。本罪は、被害者を「強制類型または誤信類型(後述)」に当てはまる行為または事由により、「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」にさせ、被害者がそのような状態にあれば、それに乗じて性交等を行う犯罪である。法定刑は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑である(刑法177条)。「性交等」とは、性器(陰茎)はもとより、身体の一部(たとえば手指)や物(たとえば性具)を膣(ちつ)または肛門(こうもん)に挿入するような行為であり、したがって男性も本罪の被害者となりうる。本罪は被害者の告訴がなくても起訴できる非親告罪である。公訴時効期間は15年だが、被害者が18歳未満の場合は実質的には18歳になったときから計算される(刑事訴訟法250条3項2号、同条4項)。未遂も処罰され(刑法180条)、死傷の結果が生じた場合には、無期または6年以上の拘禁刑となる(同法181条2項)。

 性犯罪の本質は、被害者の同意がないのに、性的行為を強要する点にある。強姦(ごうかん)罪は、この点を暴行・脅迫という手段の点から問題にしていた。ところが暴行・脅迫は、被害者の抵抗を著しく困難にする程度であることが必要と解釈されていたため、その強度から被害者の有効な同意の有無が問題にされる傾向があった。たとえば軽い暴行で被害者が恐怖で固まってしまうような事案などでは、消極的な同意が議論されたり、「同意があると思った」という行為者の錯誤が認められるような場合もなくはなかった。暴行・脅迫の解釈に連動する「抗拒不能」でも同じであった。

 そこで、暴行・脅迫を本罪の一つの手段とし、全体で八つの一般的な事由を例示的に類型化した「強制類型」と、性行為の意味を誤信させるケースと人違いというケースを限定的に列挙した「誤信類型」とが新たに規定された(同法176条1、2項)。八つの強制類型とは、①暴行・脅迫、②心身の障害、③アルコール・薬物の影響、④睡眠など意識が不明瞭(ふめいりょう)な状態、⑤同意しない意思を形成、表明、全うするいとまがないこと(不意打ちされた状態)、⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖・驚愕(きょうがく)させること(極度に動揺して平静を失った状態。何も考えることのできない思考停止状態、いわゆるフリーズの状態)、⑦虐待に起因する心理的反応(虐待による無力感・恐怖心など)、⑧経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮(断ったら不利益が生じるのではないかという不安の状態)である。

 本罪はかつて「強姦罪」とよばれていたが、2017年(平成29)の刑法改正により「強制性交等罪」に変わり、さらに2023年(令和2)の改正で、強制性交等罪と準強制性交等罪が一本化され、現行の罪名に変更された。また、性的同意年齢(同意する能力をもつとされる年齢)については16歳に引き上げられたため、被害者が16歳未満の場合は、同意の有無にかかわらず不同意性交等罪が成立する。ただし法務省の見解によれば、刑罰の謙抑性の観点から、被害者が13歳以上16歳未満であるときには、絶対に対等な関係はありえないといえるような年長者による性的行為を一律に処罰対象とするため、心理学的・精神医学的知見も踏まえ、5歳以上年長の者による性的行為が罰せられることとなった(同法177条3項)。

[園田 寿 2025年8月19日]

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