中世ヨーロッパの美術(読み)ちゅうせいヨーロッパのびじゅつ

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

中世ヨーロッパの美術
ちゅうせいヨーロッパのびじゅつ

中世の定義は各国の歴史の特質や史家の史観によって異なる。ヨーロッパで「中世美術」というときは,5世紀にヨーロッパ諸地域に定着したゲルマン民族の美術,およびこれと時期的に対応するイタリアとアイルランド,ブリティシュ諸島の美術に始まり,1420年頃,イタリアにルネサンス美術の興った時期をもって終わりとする。広義の中世美術はおよそ次の 5時期を含む。(1) 初期キリスト教美術。(2) ビザンチン美術。(3) 初期中世美術。これは次の 3時期を含む。(a) カルル1世(大帝)のアーヘン宮廷における文芸復興の開始(800頃)以前の時期の美術。地域的にフランク民族,ゴート族(→ゴート人)を中心とするゲルマン人のヨーロッパ大陸における美術活動と,ケルト人,サクソン人(ザクセン人)を中心とするアイルランド,ブリティシュ諸島における活動に大別される。(b) カロリング朝美術。(c) オットー朝美術。(4) ロマネスク美術。(5) ゴシック美術。ヨーロッパにおける古典古代およびルネサンス以後の美術は,日常的視覚体験を再現する自然主義的描写に基本的によっている。これに対し中世美術は象徴,あるいは記号としてのイメージの機能を重視し,言語に代わるものとみなす傾向が強い。こうしてイメージによって,読み書きのできない民衆にも複雑なキリスト教教義や各種の宗教説話を伝え,さらにイメージを超越的観念的存在に対応するものとして特別視する態度が生まれた。このため,しばしばイメージは自然主義的描写を離れ,図式的となる傾向がある。この点で中世美術は古代オリエント美術,あるいは 19世紀末以後の反自然主義的美術に似通ったものがある。他方中世を通じて古典古代は決して忘れられたわけではなく,何度か古代復帰の試みも行なわれ,近年ではこれらに複数のルネサンスという呼称も与えられている。中世美術の底流として,超越的存在の表現不可能性を強調する伝統があり,これが繰り返し,画像の拒否,破壊,あるいは著しい警戒的な態度となって中世美術史に現れている。

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