改訂新版 世界大百科事典 「中心地理論」の意味・わかりやすい解説
中心地理論 (ちゅうしんちりろん)
W.クリスタラーの名著《南ドイツの中心地》(1933)によって確立された立地論。中心地central placeとは,その周辺地域に財やサービスを供給する,中心(地)機能central functionをもつ場所である。都市の大部分はこのような中心機能をもち,勢力圏service areaを保持するので中心地といえる。都市は通常,その勢力圏住民にとって買物地となり,住民に対して教育,文化,行政,医療などのサービスの供給を基本的機能としており,すべての都市には必要としない鉱工業や観光などの都市機能とは区別して考えられている。ただし,中心地の定義にはその人口規模を問わないので,都市よりも小さい町村の役場集落なども中心地といえる。中心地には町村の役場集落から東京,ニューヨークまで大小さまざまなものが含まれ,それらは規模(中心性)に応じて勢力圏をもつことになる。しかしその後,中心地概念は都市内部商業地区や地域計画の分野にも適用され,今日では幅広く使用されている。
クリスタラーは,かかる大小さまざまな中心地が空間的にいかに立地すべきかを考察し,演繹的モデルを構築した。まず,中心地から供給される財やサービスにはそれぞれ固有の到着範囲の上限と下限があるとする。後者は中心機能をもった施設の経営が成り立つ最小限の地域的範囲であり,前者は周辺地域住民の交通費負担からみてその施設を利用しうる最大限の範囲を指すので,各施設の実際の利用範囲は両限界の中間にあるといえる。このような前提のもとで,人口密度や消費水準の均等な空間においてできるだけ少数の中心地でもって全域に隈なく財やサービスを供給しようとすると,各施設の立地する中心地とその勢力圏は図のような六角形構造をなして立地するのが合理的である。図によると,中心地とその勢力圏には階層性が認められ,高次階層の中心地は少数で,低次階層の中心になるにつれてその数は規則的に増大する。しかし,このように供給の合理性だけを追求した場合(これを供給原理と呼ぶ)には,中心地と交通路や行政区画との関係に不合理が生ずるので,供給原理とは別に交通原理・行政原理に基づく中心地システムのモデルを追加した。
彼はこのようなモデルの現実の地域での適合性をみるために南ドイツの中心地を調査した。その後1950年代には世界各地でクリスタラー理論の実証的研究が行われ,工業化の顕著な地域では中心地システムの規則性は攪乱されているが,自然的・人文的条件の単調な農業地域ではなんらかの規則性が認められるとの一応の結論に到達した。しかし,一国の都市を人口規模に従って並べると都市人口と順位との間に,多くの場合,順位規模法則が認められ,階層性は存在しないので,中心地システムの階層性をめぐる論争が生じたこともあった。また1940年に発表されたA.レッシュの市場理論との関係も論議された。レッシュ理論はクリスタラー理論をより一般化したものといわれるが,均等地域の上にできるだけ多くの中心地の立地を考え,中央の大都市を中心に階層差の不明瞭な中心地が立地するなど,多くの点でクリスタラー理論とは本質的な相違点がある。
今日の中心地研究では中心地システムの階層構造や空間的パターンの特性が論じられるとともに,地域計画の分野でも全国土における同等な生活条件の発展をめざして後進地域の中心地の振興が叫ばれている。また,中心地理論は定期市や卸売中心の立地論,空間的拡散理論,都市システム論など隣接分野の説明に応用されたり,それらの理論との関係が論議され,地域システムregional system分析の基本的な理論として重視されている。しかし一方では,中心地理論は非現実的な仮定を含み,都市機能に関する部分的理論であるなど多くの欠点が指摘されている。
執筆者:森川 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報