令制の宮内省所属の官司。職員は頭(長官),助(次官),允(判官),大属・少属(主典)各1人,殿部(とのもり)(伴部)40人等。天皇の行幸の際の乗物(輿(こし))や蓋(きぬがさ)等の管理と供奉(ぐぶ),殿上の帷帳(とばり)の設営,天皇の湯殿への供奉,殿庭(内裏などの庭)の掃除,宮内の灯(油火)・燭(蠟火)・燎(庭火)の管理・設営,薪炭の調達をつかさどる。令制前から天皇の居所や行幸に供奉していた畿内の中小豪族を殿部として,唐の殿中省尚舎局,尚輦局などに模して組織化した官司で,掃部司(かにもりのつかさ),内掃部司,主水司(もいとりのつかさ)や後宮の殿司,掃司や春宮坊の主殿署と近接した職掌をもつ。殿部の負名氏(なおいのうじ)は日置(ひおき)/(へき),子部(こべ),車持(くるまもち),笠取(かさとり),鴨(かも)の5氏で,負名氏出身の主殿寮官人もいた。9世紀後半には負名氏以外からも殿部に任用されるようになった。令制前には,上毛野(かみつけぬ)氏の一族の車持氏は,天皇の乗物の挙行(くるまもち)に奉仕し,笠取氏は行幸の際の蓋の挙持に奉仕し,日置氏は灯燭等に奉仕した。鴨氏は山城の葛野(かどの)の県主(鴨県主)で,《下鴨系図》には舒明・皇極朝に久治良が〈殿寮〉に出仕したこと,主水司水部に多数出仕したことが記されている。鴨県主は,葛野の山地から薪炭や氷室の氷を貢納し,一族の者を殿部や水部の前身の伴(とも)として天皇に近侍させたのである。また,鴨氏と関係の深い葛野郡の秦(はた)氏は火炬(ひたき)の小子を貢進している。子部の伴造としての職掌は不明であるが,宮廷の雑務に従った小児の管掌かとも考えられる。
官司の統廃合に際しては,808年(大同3)に官奴司と896年(寛平8)に主油司が併合されたが,燃料油を扱ったり,宮内の雑務に従う職掌の類似による。《延喜式》によれば官奴司から引き継いだ今良(ごんろう)男女が367人配されている。同式によれば寮神の中には松山神3座,炭山神13座があるが,これらは松明や薪を採る松山,炭焼山を領有していたことを示している。主殿領寮の薪炭山は葛野郡の北部山地の北山(岩倉),大原山,小野,貴布禰などにあった。一方,888年(仁和4)には官田として山城国内に21町余が与えられた。官司の所在地は,平安宮では北面東門の達智門を入って東側の地であった。鎌倉初期以降,官務家小槻(おづき)氏が主殿頭を世襲した。同氏が知行した主殿寮領には,主殿寮敷地,薪炭山の小野山,小野荘,官田の山城国散在田畠,諸国例進の油・大粮米の便補保(びんぽのほ)の近江国押立保,安芸国入江保などがある。なお官司名和訓は《和名抄》に〈とのもりのつかさ〉とあり,これは殿守の官の意である。
執筆者:石上 英一
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「とのもんりょう・しゅでんりょう」とも。令制の宮内省所管の官司。職員令では頭(従五位下相当)・助・允・大属・少属各1人と殿部(とのもりべ)40人・使部(しぶ)20人・直丁(じきちょう)2人・駆使丁(くしちょう)80人。輿・雨具などの管理や御湯舎の湯の調達,殿舎の庭の清掃,灯燭・松柴・炭燎(たんりょう)などをつかさどった。伴部の殿部は日置(へき)・子部(こべ)・車持(くるまもち)・笠取・鴨の負名氏(なおいのうじ)から採用。9世紀末以降に形成された主殿寮領は,鎌倉初頭以降は主殿頭を世襲した壬生官務(みぶかんむ)家の相伝となった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…令制前から天皇の居所や行幸に供奉していた畿内の中小豪族を殿部として,唐の殿中省尚舎局,尚輦局などに模して組織化した官司で,掃部司(かにもりのつかさ),内掃部司,主水司(もいとりのつかさ)や後宮の殿司,掃司や春宮坊の主殿署と近接した職掌をもつ。殿部の負名氏(なおいのうじ)は日置(ひおき∥へき),子部(こべ),車持(くるまもち),笠取(かさとり),鴨(かも)の5氏で,負名氏出身の主殿寮官人もいた。9世紀後半には負名氏以外からも殿部に任用されるようになった。…
※「主殿寮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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