《古事記》にみえる神の名。〈クエ〉は〈崩(く)ゆ〉の連体形で身体の崩れた男を指すと思われ,また案山子(かかし)のことである。大国主(おおくにぬし)神が出雲の御大(みほ)(美保)の岬にいたとき,海上から羅摩(かがみ)の船(ガガイモの船)に乗り,鵝(ひむし)の皮(蛾の皮)の衣服を着た神が近づいた。だれもその神の名を知らなかったが,谷ぐく(ヒキガエル)は〈クエビコなら知っていよう〉と答えた。クエビコに尋ねてみると〈これは神産巣日(かむむすび)神の御子,少名毘古那(すくなびこな)神(少彦名命)です〉という。そこで神産巣日神にいうと〈まことに私の指の間から漏れ落ちた子だ〉との返事を得た。少名毘古那神は,こののち大国主神と協力して国造りをし,やがて常世国(とこよのくに)へ渡る。少名毘古那神の素性を知らしめたクエビコは,〈山田の曾富騰(そほど)(濡れそぼつ人)〉すなわち歩行不能の案山子であるが,天下の事を知る神とされている。身体の不自由な者が〈異形(いぎよう)の人〉として,知恵者の化身と考えられていたことを示している。
執筆者:西宮 一民
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(1)日本神話の神。『古事記』で、海上を寄り来る神の名がわからなかったとき、大国主命(おおくにぬしのみこと)に、それは少彦名命(すくなひこなのみこと)であると答えた神。山田之曽富騰(やまだのそほど)ともいい、「足は行かねども、尽(ことごと)に天の下の事を知れる神なり」とも語られている。
(2)田に立つ案山子(かかし)のこと。風雨にさらされた姿を崩(く)え彦(びこ)(男)と見立てたものをいう。長野県では旧暦10月10日の刈上(かりあ)げ祭を「案山子ひき」といい、案山子に餅(もち)などを供え田の神を山に送るが、案山子は稲の生育を見守る田の神の依代(よりしろ)である。その一本足も、男根をもって象徴される隻脚(せっきゃく)王シバの坐法(ざほう)であり、地母を身ごもらせる呪法(じゅほう)かといわれる。
[吉井 巖]
…かかしはまた神の依代そのものでもあった。《古事記》ではかかしは〈久延毘古(くえびこ)〉の神であるとされる。かかしを田の神の依代としてまつる民俗例もある。…
※「久延毘古」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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