一般的には一族・集団のおもだった者をさすが、歴史的には室町・戦国期の村落指導者をさす名称である。大人、年老、宿老、長などと書かれる場合もある。本来は宮座において最高の年齢や地位の者をさしたが、中世村落では宮座の有力者が村落の指導者となることが多く、室町時代になって惣(そう)的結合が発展すると、広くその指導者の呼称とされるようになった。宮座において乙名になるのには一定の家格と年齢、財産が必要とされ、「おとな成(なり)」の儀式を経なければならなかった。乙名の人数は各村落で異なっていたが、1461年(寛正2)の近江(おうみ)国菅浦荘(すがうらのしょう)(滋賀県長浜(ながはま)市西浅井町菅浦(にしあざいちょうすがうら))では、上(うえの)20人乙名、次中(つぎのちゅう)乙名、末(すえ)の若衆という組織があったことが知られ、また山城(やましろ)国山科(やましな)七郷(京都市山科区)では各郷に年老、中﨟(ちゅうろう)、若衆がいた。乙名層は、村落の指導者として農民の抵抗や闘争を組織したが、一方では最下層の荘官として、年貢、公事(くじ)の徴収実務にあたることもあった。
[黒川直則]
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大人・長・老・年寄衆とも。中世農民の自治的共同組織である惣村や,同じく都市民の共同組織である町(ちょう)を中心となって運営した者。村や町の成員のなかで,年齢階梯制の最上位にいる階層。「日葡辞書」には「百姓の頭,または,ある町とか在所とかの長」とある。神事祭礼では頭役(とうやく)を勤め,惣掟(そうおきて)の制定にかかわり,惣有地の売買に際しては村を代表して署判を加えた。若衆・中老をへて,乙名成(なり)の儀式ののち乙名となる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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