乳香(読み)ニュウコウ(その他表記)frankincense

翻訳|frankincense

デジタル大辞泉 「乳香」の意味・読み・例文・類語

にゅう‐こう〔‐カウ〕【乳香】

カンラン科の常緑高木。また、その樹脂。葉は羽状複葉白色または淡紅色小花を円錐状につける。北アフリカ原産。樹脂は芳香があり、古代エジプト時代からの薫香料

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精選版 日本国語大辞典 「乳香」の意味・読み・例文・類語

にゅう‐こう‥カウ【乳香】

  1. 〘 名詞 〙
  2. カンラン科の常緑高木。アフリカのソマリア沿岸山地原産。高さは約六メートル。葉は奇数羽状複葉で、小葉は七~九対あり披針形で縁に鋸歯がある。花は白または淡黄色の小さな五弁花。樹幹に傷つけて得られる樹脂も乳香といい、古くから薫香料として珍重した。
    1. [初出の実例]「志与扇一十合乳香一貼」(出典:参天台五台山記(1072‐73)八)
  3. の香料が、中国において別種の植物の化石樹脂である薫陸(くんろく)と同一視されたもの。
    1. [初出の実例]「薫陸則乳香也。本名薫陸」(出典:寂照堂谷響集(1689)三)
    2. [その他の文献]〔開元天宝遺事‐天宝下・四香閣〕

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改訂新版 世界大百科事典 「乳香」の意味・わかりやすい解説

乳香 (にゅうこう)
frankincense

オリバナムolibanumともいい,中国では薫陸香(くんろくこう)という。カンラン科ボスウェリアBoswellia属の木,特にニュウコウジュB.carteiiから採れる芳香ゴム樹脂。また,地中海地方原産のウルシ科Pistacia lentiscusから採れる樹脂をいうこともあり,こちらは英語でマスティックmastic,中国では洋乳香と呼ばれる。ともに幹に切り傷をつけ流れ出た液汁が空気にふれて凝固したもので,黄あるいは緑色,黄褐色のものもある。もともと透明であるが,すれると粉が出て白色半透明となる。樹幹から乳白色の液が滲出するようすが乳のようであるためこの名がある。焚(ふん)香料で,たけば黒煙を出し,はじめは香気が薄いが,やがて白煙をあげ芳薫となる。主産地はソマリランドとアラビア南部ハドラマウト地方。没薬(もつやく)とともに古代オリエント,エジプトの代表的香料で,テオフラストス《植物誌》,大プリニウス《博物誌》にも記載が見える。イエス生誕の際,東方の三博士(マギ)が黄金と乳香と没薬を捧げたという(《マタイによる福音書》2:11)。これらはそれぞれ,現世の王と神と医薬を意味し,苦しみをいやす者,救世主たるイエスへの供物としてふさわしいものであった。乳香はその芳薫により神への捧げものと考えられたのである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「乳香」の意味・わかりやすい解説

乳香
にゅうこう

英語ではオリバナムという。南アラビアの海岸地方や、東アフリカのソマリランドに産するカンラン科のある種の木から滲出(しんしゅつ)する芳香性の樹脂で、ミルクがしたたり固まったような色と形をしているところからこの名があり、燃やすと甘く優雅な香りを発する。没薬(もつやく)とともに古代エジプトで使われ始めた最古の貴重な薫香料(インセンス)で、当時乳香は「神のもの、さらに神そのもの」と考え、天や神を祀(まつ)る際これを薫ずることが最上不可欠とされていた。今日でも乳香の芳香成分は、東洋調香水(香水)や高級線香の香りづくりに欠かせない香料となっている。

[梅田達也]

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百科事典マイペディア 「乳香」の意味・わかりやすい解説

乳香【にゅうこう】

紅海沿岸産のカンラン科の植物から得られるゴム質を含んだ樹脂。黄色透明の堅い塊状物で,炭火上に投入すれば芳香を放つ。没薬とともに古代オリエント,エジプトの代表的香料で,薫香(くんこう)として使用された。→
→関連項目キオス[島]

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化学辞典 第2版 「乳香」の解説

乳香
ニュウコウ
mastic, olibanum

マスチックともいう.ウルシ科Pistacia lenticusから得られる天然樹脂で,樹皮に切付けをして分泌する液を乾固させて採取する.通常,淡黄色の固体で,芳香,苦味がある.融点100~120 ℃.密度1.03~1.08 g cm-3.ワニス原料に用いられ,また,焼くと芳香を放ち,薫香料となる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の乳香の言及

【ボスウェリア】より

…カンラン科ニュウコウ属Boswelliaの樹木で,約25種あり,熱帯アフリカの乾燥地帯に多く,また数種が西アジアからインドに分布する。幹上に芳香性の樹脂を出すものがあり,これは乳香(英名frankincense,olibanum)と呼ばれて,同じ科のコンミフォラ属Commiphoraの樹脂である没薬(もつやく)とともに,古くから宗教的儀式の薫香として用いられ,聖書にも記されている。アラビア半島南部,ソマリランドのB.carteri Birdw.はその代表的樹種で,高さ数mの小高木,羽状複葉をもつ。…

【カンラン(橄欖)】より

…樹脂は香,薬用,油脂原料に用いられる。聖書にも出てくる乳香(にゆうこう),没薬(もつやく)はそれぞれカンラン科ボスウェリアBoswelliaおよびコンミフォラ属Commiphoraの樹木の樹脂で,古くから祭式の香として用いられた。また木材としても広く利用され,なかでも熱帯西アフリカのオクメAucoumea klaineana Pierre(英名okoume)の材は淡色,軽軟で加工しやすい良材である。…

【香料】より

…こうしてヨーロッパ人による大航海時代が展開されたのであるが,すべては南アジアのスパイス獲得と支配から出発したのであった。 と言えば簡単なようであるが,紀元前の古代オリエントとエジプトが,アラビア南部と東アフリカ奥地とつながりがあったのは,乳香没薬(もつやく)と実体不明の肉桂(シナモン,カシア)のためである。紀元前後にローマ人,ギリシア人が,インド洋のモンスーンを利用しインド渡海を敢行したのは,胡椒を中心とするインドの薬物,化粧料,木綿,中国の絹などの獲得のためであった。…

【ボスウェリア】より

…カンラン科ニュウコウ属Boswelliaの樹木で,約25種あり,熱帯アフリカの乾燥地帯に多く,また数種が西アジアからインドに分布する。幹上に芳香性の樹脂を出すものがあり,これは乳香(英名frankincense,olibanum)と呼ばれて,同じ科のコンミフォラ属Commiphoraの樹脂である没薬(もつやく)とともに,古くから宗教的儀式の薫香として用いられ,聖書にも記されている。アラビア半島南部,ソマリランドのB.carteri Birdw.はその代表的樹種で,高さ数mの小高木,羽状複葉をもつ。…

※「乳香」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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