〘名〙
① かおり。よいにおい。か。仏語では、六境の一つ。
※落窪(10C後)一「御心ざしをおぼさん人は、麝香(ざかう)のかうにも嗅ぎなし奉り給ひてん」
② 薫物
(たきもの)として用いる香料、香木。沈香
(じんこう)、麝香
(じゃこう)、
丁子香(ちょうじこう)、伽羅、白檀など種類が多く、いろいろの香料を練り合わせて調合したものもある。こり。
(イ) (一般に) 香料。香木。古くから邪気を払うものとして用いられたが、中古からその芳香を好み、くゆらせたり衣類にたきしめたりして珍重した。〔十巻本和名抄(934頃)〕
※宇津保(970‐999頃)楼上上「この楼の錦綾の、〈略〉さまざまのかうどもの香(か)にしみたる」
※
日葡辞書(1603‐04)「Cǒuo
(カウヲ) タク」 〔陳書‐文学伝・岑之敬伝〕
(ロ) 茶道で、茶席を清めるために、炭点前の時に用いる薫物。炉では練香、風炉では沈香、白檀の切り割りしたものを用いる。
(ハ) 仏前にくゆらす香。
※更級日記(1059頃)「中堂より御かう給はりぬ」
※黄表紙・文武二道万石通(1788)下「茶、香、生花、鞠、俳諧は文道へ引こまれる」
④ 染物、織物、重ねの色などの名。
※宇津保(970‐999頃)吹上上「薬・かうなどを、飯などのさまにて入れて」
※栄花(1028‐92頃)初花「かうにうすものの青きかさねたる襖(あを)に」
(ロ) 織物の名。経(たていと)、緯(よこいと)ともに濃い香色の糸で織ったもの、または、縦は赤、横は黄の織物。老人は、縦糸は香色、横糸は白色。
※宝物集(1179頃)「香の狩衣に白衣をぞき給たりける」
(ハ) 襲(かさね)の色目の名。表裏ともに香色のもの。一説に表は濃い香色、裏は紅とも。老人は表が香色、裏は白。
※宇治拾遺(1221頃)三「かうなる薄物の、三重がさねなるにつつみたり」
⑤ 味噌をいう女房詞。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑥ 薬味(やくみ)をいう。〔随筆・貞丈雑記(1784頃)〕
[補注]②は、仏教とともに輸入されたと思われる。仏典には、香水や香油など
身体などにつける
塗香(ずこう)、火にくべて香気を立てる焼香用の香木、抹香、練香、線香等があるが、日本の
古典文学では、香は主としてたくものである。