事実たる慣習(読み)じじつたるかんしゅう

改訂新版 世界大百科事典 「事実たる慣習」の意味・わかりやすい解説

事実たる慣習 (じじつたるかんしゅう)

法例2条は,公序良俗に反しないことを条件に,法令規定によってとくに慣習によるべしと定められている場合および法令になんの規定もない事項に限り,〈法律と同一の効力〉を慣習に認めている。これを〈慣習法〉と呼ぶのに対し,民法92条の規定する慣習を〈事実たる慣習〉と呼ぶ。前者が人々の法的確信を伴う慣習であるのに対し,後者はそれを伴わなくともある狭い範囲で事実上行われる慣習であればよいとされる。(1)公の秩序に関せざる規定(任意規定)と異なる慣習(事実たる慣習)がある場合,法律行為の当事者がこれに従うという意思を有するものと認められるとき(ただし,これを文字どおり解すると,任意規定と異なる意思を表示したときはその意思に従うと規定する民法91条と重複するので,この点は〈当事者がとくに慣習を排斥しない限り〉と解釈されている),その慣習は法律行為解釈の基準として適用される(民法92条)。(2)法例2条が〈慣習法〉を任意規定に劣後させるのに対し,民法92条は〈事実たる慣習〉が法律行為の解釈の基準となることによって任意規定に優先することを認める。ここに,法的確信を伴う規範性の強い慣習法が任意規定に劣後し,それを伴わない規範性の弱い〈事実たる慣習〉が任意規定に優先するという矛盾が生ずる。この矛盾の解決のため,今日では,両条の慣習は内容を異にするものではなく,法例2条が制定法一般に対する慣習の補充的効力を認めるのに対し,民法92条は,とくに私的自治の認められる分野において,慣習に任意規定に優先して法律行為の解釈の基準となる効力を認めたものであると解する説が有力である。民法92条は,法例2条の特別法地位に立つと解するのである。
慣習法
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「事実たる慣習」の意味・わかりやすい解説

事実たる慣習
じじつたるかんしゅう

一般社会に存在する慣習であるが,まだ法的拘束力までは認められていない程度の慣習をいう。慣習法とは異なるので法律と同一の効力は有しないが (法例2) ,公序良俗に反しない事実たる慣習は任意法規に優先して解釈の基準となる (民法 92) 。すなわち,当事者間で特別の定めをしていない場合には,公序良俗に反しない限りにおいて,慣習に従って法律行為の内容が解釈され決定されることになる。

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