二クロム酸(読み)ニクロムサン(英語表記)dichromic acid

デジタル大辞泉 「二クロム酸」の意味・読み・例文・類語

にクロム‐さん【二クロム酸】

クロムオキソ酸の一。化学式H2Cr2O7 重クロム酸

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「二クロム酸」の意味・わかりやすい解説

二クロム酸 (にクロムさん)
dichromic acid

化学式H2Cr2O7。重クロム酸bichromic acidともいうが,これは誤称である。遊離の状態では得られず,酸化クロム(Ⅵ)CrO3の水溶液中でクロム酸H2CrO4平衡を保っていることが知られている。このときCrO3濃度が低ければH2CrO4のほうが多く,濃度が高くなるとH2Cr2O7のほうが多くなる。さらに濃度が高くなると,三クロム酸H2Cr3O10,四クロム酸H2Cr4O13などが存在することになる。橙赤色水溶液。強酸で,強い酸化剤である。

 クロム酸アルカリ塩の水溶液に酸を加えて濃縮すると二クロム酸塩が得られる。多くは橙赤色の結晶で,強力な酸化剤としての働きがあり,染料,医薬用,火薬などに広い用途をもつ。次におもな二クロム酸塩をあげる。

化学式(NH42Cr2O7。俗称重クロム酸アンモニウム。酸化クロム(Ⅵ) CrO3水溶液を計算量の濃アンモニア水で中和し,濃縮して冷却すると得られる。二クロム酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの複分解によってもつくられる。橙赤色の単斜晶系柱状ないし板状晶。比重2.15。空気中で安定である。水100gに対する溶解度47.17g(30℃)。エチルアルコールにも溶ける。空気中で熱すると185℃以上では炎を発して分解し,酸化クロム(Ⅲ) Cr2O3を残す。陶磁器うわぐすり,染色などに用いられる。有機物と混合すると,加熱,衝撃,摩擦などで爆発しやすいので取扱いに注意する。

化学式K2Cr2O7。俗称重クロム酸カリウム。クロム酸カリウムに硫酸を加えるか,二クロム酸ナトリウムと塩化カリウムとの複分解によってもつくられる。赤色三斜晶系柱状ないし板状晶であるが,融解液から単斜晶系の結晶を析出する。三斜晶系との転移温度は242℃。比重2.69。水100gに対する溶解度4.6g(0℃),12.4g(20℃),94.1g(100℃)。エチルアルコールには溶けない。熱すると398℃で分解せずに融解して暗褐色液体となるが,冷却すると元へ戻る。500℃以上に熱すると分解して,酸素を発生し,酸化クロム(Ⅲ) Cr2O3とクロム酸カリウムK2CrO4になる。酸化剤として広く用いられるほか,分析試薬,クロムめっき媒染剤,写真印刷,爆発物などにも利用される。

化学式Na2Cr2O7。俗称重クロム酸ナトリウム。工業的にはクロム鉄鉱(主成分FeO・Cr2O3)を消石灰Ca(OH2,ソーダ灰Na2CO3とともに焙焼(ばいしよう)し,水で浸出した液を硫酸で酸性にして2水和物結晶として取り出している。実験室では,二クロム酸カリウムと硫酸ナトリウムの複分解,あるいは酸化クロム(Ⅵ) CrO3水溶液と水酸化ナトリウムを反応させて得られる。無水和物は橙赤色粉末で,吸湿性がある。320℃で融解し,400℃で分解する。水100gに対する溶解度163g(0℃),180g(20℃),433.4g(100℃)。2水和物Na2Cr2O7・2H2Oは淡赤色単斜晶系針状ないしは板状晶。比重2.52(13℃)。潮解性がある。30℃で脱水が始まり,100℃で無水物になる。水100gに対する溶解度236g(0℃),506g(80℃)。皮なめし,媒染,漂白,金属表面処理などに用いられる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「二クロム酸」の意味・わかりやすい解説

二クロム酸
にクロムさん
dichromic acid

重クロム酸ともいう。化学式 H2Cr2O7 。アルカリ塩類は安定であるが,遊離の酸は水溶液中にだけ存在する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「二クロム酸」の意味・わかりやすい解説

二クロム酸
にくろむさん

重クロム酸

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例