人格は,本来,統一性が保たれているものであるが,その統一性に障害をきたし,全く別の人格が交互に出現する状態をいう。さらに,3人以上の人格が出現する場合を含めて多重人格multiple personalityともいう。実例は,多いものではないが,W.ジェームズが報告したボーンの症例が有名である。ボーンは,第2の人格になった2ヵ月間は,他の町で,他の名前で,他の仕事をしており,催眠状態によってのみその体験を想起できたという。このように,相互の記憶は失われているのが普通である。そのメカニズムとしては,ヒステリーにおいて,抑圧された人格が第2の人格として現れるのだと考えられているが,てんかんにおけるもうろう状態としての二重人格を考える人もいる。時間とともに人格が交代する典型的な事例は少ないが,臨床的に多く見られるのは,神,悪魔,狐,犬神といったものがつきものとしてのり移る場合で,この時には主人格が第2の人格をある程度意識していることもある。このような形のものを同時的二重人格と呼ぶ場合もある。近年このような症例が少なくなったのは,願望をそれほどまで抑圧する必要のない文化状況にあるからだと考えられよう。
二重人格はまた,交代意識alternating consciousness,交代人格ともいい,第二人格の時のことを第二状態état secondともいう。なお,《ジキル博士とハイド氏》のような場合は,別の人格というよりも,一人の人物の中の正反対の側面が言動に現れるのだから,厳密には二重人格(交代人格)とは区別すべきである。
執筆者:増野 肇+浅井 昌弘
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二つのまったく異なる人格が同一人物のなかに交代して現れ、長期にわたって一方の人格が持続し、他方の人格のことについてはなにも思い出せないようなヒステリー的人格をいう。解離性同一性障害ともいう。一般に、もともとの人格が良心的で勤勉であるのに反して、交代して現れる人格は享楽的で放埒(ほうらつ)な場合が多い。このような人格の交代はかならずしも二重でなく多重であり、24の人格をもつケースも報告されている。症例としてはそれほど多いものではなかったが、1990年代になると多重人格に関心を寄せる臨床家も増え、日本でもまれな症例ではなくなった。人格の交代の中間段階はなく、眠りから覚めるとまったく違った人格になっていることが多く、それ以前の人格は喪失している。催眠暗示によって実験的に二重人格と類似の状況をつくりだすこともできるが、このことは二重人格の症例を扱うときのむずかしさを端的に示している。治療者が多重人格を誘発している可能性があるからである。
[外林大作・川幡政道]
『ダニエル・キイス著、堀内静子訳『24人のビリー・ミリガン――ある多重人格者の記録』上下(1992・早川書房)』▽『岡野憲一郎著『解離性障害――多重人格の理解と治療』(2007・岩崎学術出版社)』
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…この幻像は私がその時の夢のような状態から逃れるために頭をふると,すぐに消え失せた〉とある。ちなみに,いわゆる二重人格(多重人格)が女性に多いのと対照的に,この二重身は男だけに起こるのが特徴とされる。幻視【宮本 忠雄】。…
※「二重人格」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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