せん妄と並ぶ意識変容の代表的な状態である。幻視,幻聴などの陽性症状はなく,意識混濁も軽いが,意識野の著しい狭窄がある。このため,外界の認知はある程度可能であるが,誤認や錯覚がある。とくに外界を広く適切に把握することができないため,状況にそぐわない行動となる。不安や恐怖,興奮があり,被害感や怒りから,衝動的な暴行を示すことがある。意識の流れが突然断たれて別の意識となり,また急にもとの意識へと非連続的に回復するので,もうろう状態では別の人格になっており,回復するとその間の健忘を残す。持続は数十秒から数週間にわたる。意識混濁が目だたず,まとまった行動を示すのを分別もうろう状態besonnener Dämmerzustandといい,突然遠方に行ってしまい行方不明になるのを失踪fugueという。もうろう状態はてんかん,ヒステリー,アルコールの病的酩酊(めいてい),脳の器質的疾患などでみられる。
てんかんでは複雑部分発作(精神運動発作自動症)のほか,てんかん挿間症としての小発作重積状態ictal stupor(spike wave stuporともいう),発作後もうろう状態,生産性精神病的もうろう状態や不機嫌症にみられる。後2者には強制正常化forcierte Normalisierungの機序が関与する。
ヒステリー性もうろう状態は心因によって誘発され,抑圧された願望や欲求があらわれる。症状には大げさで,演技的な色彩がある。ガンザー症候群Gansersches Syndromは拘禁反応の一型で,当惑したあるいはぼんやりした表情と力のない態度と失見当を示し,的はずれ応答や当意即答Vorbeiredenを特徴的にみる。精神病者として刑罰から逃れたいという願望から生ずるものとされる。もうろう状態の間,まったく別の人格になるのを交代人格alternative personality(二重人格,多重人格)という。
病的酩酊は飲酒で突然,もうろうないしせん妄状態となって疎通性を失い,周囲への領識を欠いたままはなはだしい興奮と暴行を示し,あとに健忘を残すものである。少量の飲酒でも起きる場合がある。
執筆者:石黒 健夫
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…そのようなもののうち,目覚めていて手足を自由に動かすことができるが,思考が混乱して,外界の事象を錯覚したり幻覚が現れたりする状態は,譫妄(せんもう)deliriumと呼ばれる。これより軽度ではあるが思考や行動にまとまりの欠ける状態は,朦朧(もうろう)状態twilight stateと呼ばれる。また長期間経過した広範な大脳皮質病変の場合には,目を開いて覚醒してはいるが外界からの刺激に対しまったく反応せず,手足も動かさずにじっとしたままの状態が生ずるが,これらは失外套症候群apallic syndromeとか慢性植物状態vegetative stateなどと呼ばれている。…
…そのようなもののうち,目覚めていて手足を自由に動かすことができるが,思考が混乱して,外界の事象を錯覚したり幻覚が現れたりする状態は,譫妄(せんもう)deliriumと呼ばれる。これより軽度ではあるが思考や行動にまとまりの欠ける状態は,朦朧(もうろう)状態twilight stateと呼ばれる。また長期間経過した広範な大脳皮質病変の場合には,目を開いて覚醒してはいるが外界からの刺激に対しまったく反応せず,手足も動かさずにじっとしたままの状態が生ずるが,これらは失外套症候群apallic syndromeとか慢性植物状態vegetative stateなどと呼ばれている。…
…突然意識を失って転倒し,約20秒間の強直性全身痙攣(上肢屈曲位,下肢伸展位を示す強直期)と約40秒間の間代性全身痙攣(間代期)をきたす。その後,数十秒から数分で意識を回復するが,入眠したり(終末睡眠),朦朧(もうろう)状態を呈することがある(発作後朦朧状態)。発作時,眼球が上転して白目となり,まぶたが開いていることが特徴的で,本発作の頓挫型(不全型)と欠神発作とは眼症状の違いで鑑別される。…
※「朦朧状態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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