国会が、わが国の衆議院と参議院のように二つの合議体によって構成される制度で、両院制ともいう。もっとも長い議会制の歴史をもつイギリスにその起源を有する。11世紀、ウィリアム1世のころから、国王の諮問機関として等族会議(concilumまたはcuria regisとよばれる)が開かれたが、のちに少数の高官、大貴族よりなる常設会議concilum ordinariumとすべての大貴族を構成員とする大会議magnum concilumに分化し、前者は枢密院privy councilから内閣cabinet councilへと発展して行政権を担当し、後者の大会議は二院制へと発展する。すなわち、1213年、国王ジョンが各州4人の騎士の大会議への出席を許し、またシモン・ド・モンフォールが1265年、大貴族のほか各州2名の騎士および各都市2名の市民代表を加えた議会を招集した。さらに1295年、エドワード1世が招集した模範国会model parliamentも、大貴族のほか小貴族および市民代表を加えたものであった。このように国内の各階級の参加を求めたのは、主として課税の承諾を求める必要性からであったが、それはイギリス固有のものではなく、広くヨーロッパ諸国に共通の現象であった。当初大会議に出席しても討議への参加を認められなかった小貴族および市民代表は、庶民commons集会を開き、しだいに二院制への方向をたどることになった。のちに公選による議員からなる庶民院House of Commonsと、世襲制の貴族を中心とする貴族院House of Lordsとに分化し、民主政治の発展とともに、19世紀前半には庶民院の優位が確立した。
二院制議会においては第一院は公選議員によって構成され、第二院は各国の事情によりその選出・任命の方法や地位・機能がそれぞれ異なっているが、通例、貴族院型、連邦代表型、参議院型に分かれる。貴族院型第二院は、イギリスや明治憲法下の日本、19世紀におけるドイツ諸邦などにみられ、一部特権支配層を代表するものであったが、民主政治の発展とともにしだいに第一院にその政治的実権が移行した。連邦代表型第二院は、アメリカ、ドイツ、スイスなどにみられ、各支邦を代表する議員によって構成され、連邦と各支邦との調和を図ることが目的とされる。参議院型第二院は、現行憲法下の日本、アメリカ諸州の上院などがその例で、第一院と選出方法を変えることによって第一院に代表されない国民の意見や利益を議会に反映することを目的とする。
二院制は一院制に比してより広い民意を代表し、慎重な審議を期待しうる点に特色があるとされる。
[山野一美]
議会を二つの議院で構成する制度。両院制とも呼ぶ。一般に二院制がとられるのは,代表制に対する不信を前提にしている。もし議員が国民の代表としての責任を忘れずに,公正かつ慎重な審議をつくすことが保証されているなら,すべての議員が一堂に会して審議する一院制でよいはずである。むしろその場合には,〈第二院は何の役に立つか。もし第一院と一致するならば無用であり,一致しなければ有害である〉といったE.J.シエイエスの言葉が妥当するであろう。しかし,議員は国民全体からみれば,統治を担当する少数者にほかならない。したがって,もし議会の多数派が国民の代表者という役割を忘れて彼らの私的利益を優先的に追求するようになれば,議会政治は急速に専制政治に転化するであろう。二院相互間の抑制作用によって,議会が少数支配の機関に化するのを防止するのが二院制のねらいである。第二院の機能としては,この相互抑制の機能のほかに,審議過程の時間的延長とそれに基づく審議の慎重化があげられる。こうした機能のゆえに第二院が尊重されている典型的な例は,実質的にはきわめて限定された権限しかもたないにもかかわらず,依然として高い威信を保っているイギリスの上院であろう。また連邦制をとっている国では,各邦の代表をもって第二院を構成することが多いが(アメリカ合衆国,旧ソビエト連邦および現在のロシア連邦など),その機能はやはり相互抑制と審議の慎重化に求められるといってよい。
→一院制
執筆者:阿部 斉
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(根本清樹 朝日新聞記者 / 2008年)
(山口二郎 北海道大学教授 / 2007年)
(星浩 朝日新聞記者 / 2007年)
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…また,父王の晩年から,議会は課税承認の役割のみでなく,庶民の請願を聖俗大貴族の承認を経て王により法律として発布する,という立法機関としての機能ももつようになった。さらに王の初期時代には大貴族・高位聖職者からなる貴族院と,州と都市の代表からなる庶民院という二院制の形態が整ってきた。【佐藤 伊久男】。…
…二院制の議会において上院とともに立法機関を構成する合議制の機関をいう。通常,全国民の利益を代表する民選議員によって組織され,上院に比して任期が短く,多くの場合,解散によって民意を問い直す制度を備えている。…
…なお,その名称については,当時,〈第一院〉〈上院〉〈公議院〉〈特議院〉〈審議院〉といった案も検討されたが,結局,〈参議院〉という名称に落ち着いた。 そもそも,両院制(二院制)とは,国民を直接代表する議院とともに,第二院たる議院をもって構成する議会制度であるが,後者は,その設置の目的に従って,(1)特権的少数者の利益保護を目的とする貴族院型,(2)社会の職能的集団を代表させようとする職能代表型,(3)高い知性・専門知識の会議体として構成しようとするブレーン・トラスト型,(4)他院のコントロールを目的とする機関内統制型,(5)連邦を構成する各邦を代表する連邦型に類型化することができる。もとより,こうした類型化は,あくまで理念型にすぎず,実際には,それらの複合的な性格を示すことは,明治憲法時代の貴族院が,(1)のみならず,(3)(4)の役割をも果たすことが期待されたこと,そして,現行の参議院が,(2)のみならず,(3)(4)の役割をも果たすことが期待されていることからも明らかである。…
※「二院制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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