小説家、グラフィック・デザイナー。北海道小樽(おたる)市生まれ。桑沢デザイン研究所を経て、広告代理店に勤務の後、制作プロダクションを設立。現在もアートディレクターとしてデザイン、装丁を手がける。世界妖怪協会・世界妖怪会議評議員、国際日本文化研究センター客員研究員。作家としてのデビューは1994年(平成6)の『姑獲鳥(うぶめ)の夏』。20か月も妊娠したままの妊婦と、密室から忽然と姿を消したその夫の謎をめぐり、神主にして陰陽師(おんみょうじ)であり、古本屋京極堂の店主でもある中禅寺秋彦とうつ病気味の作家関口巽(たつみ)のコンビを中心に、他人に見えないものが見える私立探偵榎木津(えのきづ)礼二郎、刑事の木場修太郎といった面々が真相を探る本格ミステリーは、緻密な構成力と幻想的な雰囲気で熱狂的なファンを獲得する。京極夏彦の登場は、ある意味で日本のミステリー界にとっては衝撃的な事件でもあった。驚きの理由の一つ目は他を圧倒する分量と難解な蘊蓄(うんちく)の内容を、物語の文脈で読ませてしまう作者の筆力だ。しかもこの作品は初めて書いた小説であり、既成の新人賞(江戸川乱歩賞や横溝正史賞など)に応募するにも規定枚数がオーバーしており、そこでやむなく出版社に持ち込んだものであった。この二つの事実にしてからが、すでにそれまでの常識を破っていた。つまり、どれほど長いものであれ、面白ければ売れるというきわめて単純明解な事実を改めて浮き彫りにしたのである。そしてもう一つ。彼の作品は本格ミステリー・ファン以外の幅広い読者層、それもとくに若い女性に受け入れられ、その人気は凄まじいものがあった。このような売れ方をした作家は、京極夏彦が初めてであった。彼の小説の特徴は、文章力はいうまでもないが、民俗学、宗教学、そしてもちろん得意の分野である妖怪について、さまざまな角度から考察を加えている部分にある。また必ずページの最終行で文章を終わらせ、次のページへ文章が跨(また)がらないという版面へのこだわりも個性的だ。
彼の評価を決定的にしたのは京極堂シリーズ第二作の『魍魎(もうりょう)の匣(はこ)』(1995。日本推理作家協会賞受賞)からだが、その後も『狂骨の夢』(1995)、『鉄鼠(てっそ)の檻』(1996)、『絡新婦(じょろうぐも)の理(ことわり)』(1996)、『塗仏(ぬりぼとけ)の宴(うたげ) 宴の支度』『塗仏の宴 宴の仕末』(1998)と矢継ぎ早に刊行し、いずれもベストセラーとなっている。また時代小説『嗤(わら)う伊右衛門』(1997)は泉鏡花賞を受賞。2004年『後巷説百物語(のちのこうせつひゃくものがたり)』(2003)で第130回直木賞を受賞した。
[関口苑生]
『『後巷説百物語』(2003・角川書店)』▽『『姑獲女の夏』『魍魎の匣』『狂骨の夢』『鉄鼠の檻』『絡新婦の理』(講談社文庫)』▽『『嗤う伊右衛門』(角川文庫)』▽『『塗仏の宴 宴の支度/宴の仕末』(講談社ノベルス)』
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
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