人工飼料(読み)じんこうしりょう(英語表記)synthetic feed

改訂新版 世界大百科事典 「人工飼料」の意味・わかりやすい解説

人工飼料 (じんこうしりょう)
synthetic feed

特定の目的をもって天然の飼料のかわりに与える飼料。養蚕においてはカイコクワを唯一の飼料としていたが,近年クワをまったく含まない人工飼料で飼育することが可能となり,養蚕はクワの生産の季節的変動から解放されることになった。これはカイコの飼料摂取の機構の研究によって,クワに含まれる異なったさまざまの摂取誘起物質が明らかにされ,それを応用してカイコを人工飼料に誘引し,かみつかせ,さらにのみこませ消化させることができるようになったからである。人工飼料はトウモロコシ脱脂ダイズを主成分として,それに無機塩混合物,ビタミンC,プロピオン酸クエン酸などを配合し,一定量の水を加えたものとして,カイコの発育の齢期に合わせてさまざまなものが実用化している。

 水産においても人工飼料の使用は近年盛んになっている。自然界で水産動物が捕食する天然の飼料は,動物であれ植物であれ,そのほとんどが生きた餌である。しかし養殖が盛んになるにつれて,生き餌である天然餌料から,生鮮餌料,乾燥餌料をへて,やがて人工的に加工された配合餌料(配合飼料)が多く使用されるようになった。これが人工飼料と呼ばれているものである。その原料はホワイトフィッシュミールが主体で,それに小麦粉,ダイズかす,ぬかをはじめ,粘結剤としてアルファ化デンプンを用い,ビタミン混合物,ミネラル混合物および特定のアミノ酸が添加されている。そのほかエネルギー源としてフィードオイルおよび必須脂肪酸源としてタラ肝油などが混和される。これらは対象魚種の嗜好性,摂餌生態,体内生理諸条件の相違によってその組成を異にするのみでなく,成長段階に応じて固形として,あるいは粉末として給与される。一般に魚類炭水化物を消化し利用する能力が著しく低いので,配合餌料はタンパク質を40~50%程度含む必要があり価格が高くなりがちである。また,水中への逸散による損失が多いため,その効率よい利用に関しての研究なども進められている。

 畜産においても次の例がある。経済性を重んじる子ウシや子ブタは,母畜が何らかの理由で子畜を育てられない場合でも,それを育成しなければならない。また長期間にわたって母乳を飲んで成長する子ウシや子ブタのうち乳用牛では牛乳の生産量を多くするため,また繁殖豚では次回の繁殖成績を高めるため,あるいは母乳不足時に子畜を十分に発育をさせるために早期離乳を行うことが多い。そのとき,母乳のかわりに消化吸収のよい飼料を与える。これを代用乳または人工乳と呼ぶ。畜産業が高度に発達した国々では以前からこうした飼料が開発され普及していたが,日本でも酪農,養豚経営でその利用が一般化しつつある。

 人工飼料といえるものにはこれらとは別に,栄養学実験において動物に給与する半精製飼料または精製飼料がある。これは精製された物質を用いて,動物が必要とする既知の栄養素をすべて含有するように配合した飼料である。したがってそれを給与すれば生体の維持,成長,生産あるいは繁殖が全うできるものであるが,栄養学の進展に伴って,そこに加えられる物質が加減されて,しだいに完全なものになる。精製飼料を用いると,その配合原料が既知の物質であるので,試験しようとする物質だけを任意に増減,除去でき,その影響,必要量,栄養価を知ることができる。配合に用いられる物質は,カゼイン,精製ダイズタンパク質,ブドウ糖,ショ糖,デンプン,セルロース,あるいは油脂が主体であり,多くのビタミンや無機物がそれに加えられる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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