代名詞や動詞に現れる文法範疇(はんちゅう)の一種。次の三つの人称が区別される。(1)一人称。話し手「私」または話し手を含む人たち「私たち」。(2)二人称。聞き手「あなた」または聞き手を含む人たち(話し手を除いて)「あなた方」。(3)三人称。一人称、二人称以外の人や物。「彼」「彼女」「彼ら」「彼女ら」など。この三つの人称の区別は、世界のほとんどすべての言語にあるらしい。個々の言語への反映は以下のような形である。
[角田太作]
日本語の例はすでにあげた。英語の例、一人称I, we、二人称you、三人称he, she, it, they。ラテン語の例、一人称egō「私」など、二人称tū「あなた」など、三人称なし(指示代名詞で代用する)。オーストラリア北西部のジャロ語の例、一人称ngatyu「私」など、二人称nyuntu「あなた」など、三人称nyantu「彼または彼女またはそれ」など。
[角田太作]
いわば人称代名詞の一種であるが、上述の人称代名詞が独立の単語であるのに対し、接辞人称代名詞は単語としての独立性がなく、他の単語に付着する。ジャロ語の例、一人称-rna「私」など、二人称-n「あなた」など、三人称-0/(ゼロ)「彼または彼女またはそれ」など。ジャロ語では、接辞人称代名詞が付着できる相手は名詞、形容詞、副詞、接続詞、動詞などである。
[角田太作]
ラテン語の例、一人称cantō「私は歌う」など、二人称cantās「あなたは歌う」など、三人称cantat「彼または彼女(またはそれ)は歌う」など。ラテン語のこれらの動詞活用語尾は人称(と数など)を示す。
[角田太作]
たとえば日本語の「こそあど」指示語の体系では、一説によると、「こ」の系列の語が話し手(一人称)の近くの事物を、「そ」の系列の語が聞き手(二人称)の近くの事物を、「あ」の系列の語がそれ以外(三人称)の事物をさす。
[角田太作]
たとえば日本語の「……したがる」や「欲しがる」など、「がる」を含む表現は、「一郎は久美子に会いたがっています」のように、普通、三人称について用いる。一方、「……したい」や「欲しい」など、「がる」を含まない表現は一人称、二人称について用いられるが、普通、一人称では肯定文で、二人称では疑問文で、「私は久美子に会いたいです」、「あなたは久美子に会いたいですか」のように用いる。
[角田太作]
文法的カテゴリーの一つ。話し手を一人称,聞き手を二人称,話される話題となっている人やものを三人称と分けるのが普通である。ただ〈話題になる〉という点では,話し手自身や聞き手が話題になる場合もあるので,三人称は〈話し手でも聞き手でもないその他〉とするのが妥当である。単数に関してはこれで問題はないが,複数では事情が異なり,単純に単数の複数個の集合とはならない。すなわち,一人称複数は〈複数の話し手〉ということにはならない。多くの人が一斉に声をあげるのはコーラスなどのようにむしろ例外的であって,通常は一人称複数の場合でも話し手は一人であり,それに話し手ではないその他が加わっているのである。また二人称複数も必ずしも聞き手が複数である必要はなく,〈聞き手1人+その他〉の場合も含まれるのである。
こういった一・二・三人称の区別に加えて,とくに一人称複数において包括形inclusiveと除外形exclusiveを区別する言語も多く見られる。この相違は〈聞き手を含む(包括形)か,含まない(除外形)か〉の違いであり,たとえばアイヌ語では一人称複数代名詞包括形はaokai,除外形はchiokaiのように区別される。
人称の違いは人称代名詞によってあらわされるだけでなく,しばしば動詞の形態上の交替(活用形の違い)によってもあらわされる。英語ではこの点については現在形で三人称単数形だけが他の人称形と違う形をもつだけである。(ただしbe動詞は除く)が,たとえばイタリア語では,amare〈愛する〉という動詞を例にとると,amo(一人称単数),ami(二人称単数),ama(三人称単数),amiamo(一人称複数),amate(二人称複数),amano(三人称複数)のように人称(および,さらに数)の違いに従って語形が変化する。また先にあげたアイヌ語の場合でいえば,動詞活用において一人称複数でさらに包括形と除外形が区別される。たとえば〈われわれは持つ〉は包括形はakor,除外形はchikorである。
日本語では,人称の違いは動詞の形態には反映せず,もっぱら一群の人称代名詞によって示される。ただこれらの人称代名詞は単に人称の違いだけでなく,男女性差,待遇表現上の差といった違いとも結びついたものである。
執筆者:柘植 洋一
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