改訂新版 世界大百科事典 「人喰いザメ」の意味・わかりやすい解説
人喰いザメ(鮫) (ひとくいざめ)
人に危害を加え,ときには死に至らしめるサメ類の総称。英語ではサメによる攻撃をshark attackといい,人を襲うサメをattacker sharkという。ときにはman eater(人喰い),man eating shark(人喰いザメ)というが,この名称はホオジロザメの別名ともなっている。日本ではとくにホオジロザメには限定しない。全世界に350種ほどいるサメのうち人に危害を加えるサメは約30種であり,そのほとんどが2m以上の大きさである。攻撃件数は1940年から74年までの調べではいちばん多い年で年間56件,平均28件であった。ただし開発途上国で生ずるサメの攻撃は記録に残らぬことが多いため,実際はもっと多く年間100件と推測する説もある。このうち致命傷となった例は平均29%であるが,年々この割合は減少傾向にあり,1973年には16%という数字がある。被害を与える件数はホオジロザメとイタチザメがもっとも多く,次いでシロワニ,コモリザメ,オオセ類が続くが,この3種による攻撃はむしろ人の挑発に対する反撃の結果とも考えられる。このほか,アオザメ,メジロザメ種,ブルシャーク,シュモクザメなどによる被害が多い。しかし,悪名高いホオジロザメは現在絶滅の危機にあるともいわれ,〈ホオジロザメを救え〉の運動が起きている。
サメの攻撃をかりたてる要因についてはまだはっきり解明されていない。空腹が攻撃の引金となることも多いが,傷口の状態から判断して食うために襲ったとは考えられないこともある。一説には人の存在がサメの闘争心をかりたてるとか,水温の上昇など環境の悪化がサメの不快感を増幅するためとかの説もある。また,サメは敵を威嚇しようとする動作を示すこともある。いずれにしても,聴覚,嗅覚(きゆうかく),視覚などの感覚器への何らかの刺激が攻撃への引金となるのであろう。
攻撃パターンを図式的に説明すれば,まず数百mの遠方にある獲物が発する振動を側線などの聴覚でききわけ,数十mに近づくと獲物の出すにおいを鋭敏な嗅覚でとらえ,数mの近さでは視覚を用いて獲物の周囲を旋回してから襲うということになる。これらの攻撃から身を守る策として,第2次世界大戦中からさまざまな方法が試されてきたが,まだ決定的な防御方法は存在しない。最近シタビラメの仲間が分泌する毒素がサメを撃退するのに有効であることがわかり,その構造式も解明されてサメ退治薬として開発が進められている。
→サメ
執筆者:谷内 透
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報