改訂新版 世界大百科事典 「企業診断」の意味・わかりやすい解説
企業診断 (きぎょうしんだん)
企業または企業の集団がもつ経営上の問題点を,経営に関する学識と経験の深い外部の専門家(経営コンサルタント)が,企業等の要請に応じて実証的に調査分析し,企業もしくは企業の集団の堅実な発展を促進するために必要な勧告をし,さらに勧告を実践するうえでの諸問題を指導助言する経営改善の技法。現在,診断の種類には,工場,商店等の個別企業の事業経営を診断する〈個別診断〉と,商店街,産地など一定の地域で事業を営む者の集団に対して行う〈集団診断〉の二つがある。診断は一般的には予備調査,本診断,改善勧告案の提示という手順で進められ,必要に応じて事後指導のアフターケアも行われる。ところで,企業診断の生成発展過程を考えるとき,経営の改善手法は原理から手法が生まれたものではなく,現実の問題と取り組んで改善の方法を考え,これが原理を生んだものである。企業診断の原理・原則となっている科学的管理法の原理も,このような経営実務のうえでさまざまな試みをくり返しており,その成果をまとめて一つの理論を生み出したのが1910年代のアメリカのF.W.テーラーで,企業診断の原点はここにある。テーラー以降,多くの学者,実務家によって診断手法など科学的技法が研究・紹介され,日本をはじめイギリス,フランスなど,今日では全世界的に科学的診断手法が普及した。その意味で企業診断は経験を通じた実践学といえる。
日本での企業診断は当初,生産工場の現場指導という形で始められた。20年上野陽一(産業能率短期大学の創設者)による東京ライオン歯磨工場における流れ作業方式の実施が最初といわれている。診断は当初,生産部門における作業改善指導というように,経営の個別問題を対象とした部門診断が中心であった。このような診断の傾向は60年代前半まで日本の診断の主流をなしていた。その後,経済の発展と経営管理技法の進歩によって,企業診断も,総合性をもった診断,いわゆる経営活動全体をとらえ,かつ戦略的視点に立った総合的診断システムが進められるようになってきた。また産地,商店街など企業集積の中で事業を営む者の診断では,個々の単一企業の立場で問題の改善を図ることが困難なケースが多く,このような場合,問題の解決を集団の立場から集団構造の特性,立地,環境条件などの実態を明らかにし,問題解決のための改善対策を個別企業としての対応,集団としての対応として,その改善方向を導き出す集団診断システムが,1950年代ころから日本独特の診断手法として開発された。これはおもに都道府県など地方公共機関で実施する公共診断としての中小企業診断制度で行われている。今日,集団診断としては,産地産業を対象とした産地診断,地域商店街を対象とした商店街診断,下請中小企業者の受注面と発注方親企業の外注面との相対関係を系列関係の集団としてとらえ診断する系列診断等がある。また,このほか,工場集団化,店舗集団化など,地方公共団体等の資金助成を受けようとするもののプロジェクトに対する高度化診断がある。
経営コンサルタント
日本の経営コンサルタントは当初,生産管理,固有技術に関する指導から入ったため,第2次大戦後まで能率技師という名称が用いられていた。1948年中小企業庁の発足により中小企業診断が急速に発展し,これとともにいわゆる経営コンサルタントが脚光を浴びるようになった。さらに58年の経営学ブームによって経営コンサルタントの道をめざす人々が激増した。その資格・名称も多種多様で通産省の調査でも100種以上の称号が存在するという。現在,日本で企業診断の専門家として国がその能力を認定し資格称号を与えているのは〈中小企業診断士〉だけである。中小企業診断士制度は,63年公布の中小企業指導法に基づいて中小企業診断士として資格を有するものを通産大臣登録する制度で,大臣登録を受けようとするものは,(1)通産大臣が指定する法人(社団法人中小企業診断協会)が行う診断士試験に合格しているか,(2)中小企業事業団の中小企業大学校が行う1ヵ年の診断士養成の課程を修了したもの,となっている。中小企業大学校の診断士養成課程は地方公務員が中心になっているので,一般に診断士になろうとするものは,中小企業診断協会の行う診断士試験を受験することになる。
中小企業診断制度
〈中小企業者からの依頼に基づいて,経営の実態を総合的に調査分析し,問題点を指摘するとともに,具体的な改善方法を勧告する〉制度で,これらの診断業務は,各都道府県および十大市(政令指定都市)で専門の診断指導職員を配置し実施している。また必要に応じて,民間の中小企業診断士にも委嘱し実施している。
執筆者:中谷 道達
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報