一般的には、1957年(昭和32)に租税特別措置法によって定められ、1986年に廃止された税制上の準備金のこと。価格変動準備金は、個人または法人の事業年度末に保有する価格変動の著しい資産(株式・棚卸資産)について、将来の価格の下落に備えるために法定の計算方法に従った金額を準備金として設定した場合には、限度額以下の金額を所得の計算上損金(会計上の費用もしくは損失)に算入することができるとしたものである。制定後、適用対象とする資産の範囲や金額は徐々に狭められ、現在、税制上では、一般的な企業への適用についてこの準備金は存在しない。企業会計では、将来の費用または損失に関するものではあるが、その発生が当期またはそれ以前の事象に起因しているもので、その金額を合理的に見積もることができるものとしての引当金がある。企業会計上の引当金は、その繰入額は費用または損失として処理されるとともに、負債の性格を有するものと解されている。これに対して、租税特別措置法という税制上の準備金は、将来の予想される損失に対する利益留保性のものとして、会計上は利益処分によって設定することが適切であると理解されており、これは廃止前の価格変動準備金についても同様であった。
なお、資産運用の安定的な成果を重視する保険業界では、保険業法において価格変動準備金の設定が義務づけられている。保険業法第115条では、その所有する株式その他の価格変動により損失が発生する可能性が高いものについては、一定の基準に従ってこの準備金を積み立てるべきことが規定されている。
[東海幹夫]
租税特別措置法(1957公布)53条の規定によって,青色申告法人としての企業が,棚卸資産と一時所有目的の有価証券について,その将来の値下がり損失に備えるために計上することができる準備金であって,優遇税制上の各種の準備金のなかでは最も普遍的なものの一つである。この準備金の計上基準は,当初,かなりゆるく定められていたので,企業が実際に計上した準備金は,特定の損失に備えるためのものとはいうものの,必ずしも引当金とはいえず,むしろ非課税の留保利益としての性格が濃厚であるとみなされてきた。それにもかかわらず,その計上方式として,当初は引当金計上方式しか認められていなかったために,企業は,この準備金をいわゆる〈特定引当金〉の一つとして掲げるのが常であった。その後,利益処分方式も認められはしたが,必ずしも普及しなかった。このため,その引当金計上方式は,企業会計上の引当金概念を混乱させるものであると批判されてきた。しかしながら,1981年改正商法の施行後は,留保利益としての性格の強い項目を引当金として計上することは自粛される傾向が強くなったし,また,優遇税制見直しの一環として租税特別措置法上の各種の準備金制度が整理されつつあるなかで,価格変動準備金もその例外ではなく,その計上基準は毎年ほぼ規則的に厳しくなっており,1982年度以降は,この準備金の対象となる資産が実際に値下がり損失を生じやすいものに限定されたため,価格変動準備金自体の性格もかなり変化しつつある。したがって,価格変動準備金制度をはじめとする租税特別措置法上の各種の準備金制度が企業会計上の引当金制度に影響する度合は,今日では,急速に縮小しつつあるとみてさしつかえなかろう。
→引当金
執筆者:杉本 典之
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