会社の純資産額が資本額を超える額のうち,利益として配当することなく会社に留保する金額をいう。積立金または剰余金とも称されるが,準備金は利益の算出に当たり純資産額から控除されるべき計算上の数額にすぎないのであって,特別の具体的な財産をいうのではない。これには,法定準備金と任意準備金がある。以下,株式会社の場合を中心に説明する。
法定準備金は,資本の欠損塡補の目的をもって法律が積立てを命ずる準備金であり,商法が準備金というときは,法定準備金をさす。法定準備金は,その財源により資本準備金と利益準備金に分けられる。資本準備金は,株主の出資の一部または資本に準ずべき性質の剰余金であり,会計理論上の資本剰余金とは必ずしも一致するものではない。すなわち,株式の発行価額中の資本に組み入れない額(払込剰余金),資本減少により減少した資本額が株式の消却または払戻しに要した金額および欠損塡補にあてた金額を超える額(減資差益金),合併により消滅した会社から承継した純資産額がその会社の社員に支払った金額および存続会社の増加した資本額または新設会社の資本額を超える額(合併差益金)であり(商法288条ノ2-1項),法はこれらが利益の中にまぎれ込んで株主に分配されてしまうのを防ぐとともに,資本とも区別して資本構成に弾力性をもたせている。資本準備金は法律の規定する額が発生すれば当然に,また無制限に積み立てられる。
利益準備金は,毎決算期の利益の一部から積み立てる準備金である。利益は本来ならばその全部を配当にあててもよいはずであるが,会社の財政的基礎を強固にして企業の維持を図るためにその一部の留保を強制したものである。すなわち,会社はその資本の4分の1に達するまで,毎決算期に利益の処分として支出する金額の10分の1以上を,また中間配当をするごとにその10分の1以上を,利益準備金として積み立てなければならない(288条)。
法定準備金は,資本の欠損を塡補する場合のほかは,資本に組み入れる場合でなければ,取り崩すことはできない(289条1項)。欠損の塡補とは計算上の観念であって,貸借対照表の上で法定準備金の額を減少すると同時に,これに相当する欠損金の額を減少することを意味するにすぎない。資本の欠損の塡補に当たっては,まず利益準備金を使用し,なお不足があるのでなければ資本準備金を使用することはできない(289条2項)。資本への組入れは貸借対照表の上で法定準備金を資本に振り替えることであって,会社に多額の法定準備金があり,資本との均衡を失するような場合に用いられる。積立限度のない資本準備金についてとくに実益がある。資本組入れは取締役会の決議で行われるが(293条ノ3),それを対価として新株を発行すなわち株式分割するかどうかは任意である。
任意準備金は,定款の規定または総会の決議によって積み立てられ,または留保される準備金で,特定積立金と繰越剰余金に分けられる。特定積立金は,特定の使途が定められている準備金で,配当平均積立金,損失塡補準備金,社債償還積立金,株式償還積立金,設備拡張準備金,退職給与積立金などであるが,価格変動準備金,渇水準備金,特別償却引当金など税法上のいわゆる利益性引当金も任意準備金に属する。繰越剰余金は,使途が特定されていない単なる利益留保で,一般に未処分利益または繰越利益と呼ばれているが,いわゆる別途積立金もこれに属する。特定積立金は,定められた目的に使用するために取り崩すことができるが,とくに定款の変更または総会の決議を経れば,目的外に使用するために取り崩すことができ,他方,別途積立金などの繰越剰余金は,当然に総会の利益処分の対象であり,総会の決議で自由に取り崩すことができる。
なお,退職給与引当金などの条件付債務,減価償却引当金などの価格匡正項目,修繕引当金などの引当金は,準備金の実質を有するものではない(不真正準備金または擬似準備金とも呼ばれる)。また,貸借対照表に現れない含み資産相当額(いわゆる秘密準備金)も準備金ではない。
執筆者:青竹 正一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
準備金という用語はいろいろな意味に用いられるが、企業会計においては次の三つをさして用いられる。(1)資本準備金(会社法445条3項)、(2)利益準備金(会社法445条4項)、(3)租税特別措置法上の準備金(価格変動準備金、海外投資等損失準備金など)。資本準備金と利益準備金は、会社法でその積立てが義務づけられており、法定準備金とよばれる。資本準備金は、株式の発行価額の2分の1までを積み立てることができる。また、剰余金の配当をする場合には、配当の10分の1の金額を資本準備金または利益剰余金として資本金の4分の1に達するまで計上しなければならない(会社法445条4項、会社計算規則22条)。
これらの準備金の会計上の性質はそれぞれ異なっているが、複式簿記の構造から考えると、これらはいずれも貸方項目であり、当該金額だけ不特定の資産が留保されていることを意味する。ただしそれは、現金や預金が具体的に準備金として確保されているということではない。租税特別措置法上の準備金は、会計上は利益留保の性格をもつので利益処分による設定が適切な処理となるが、この場合、これらの準備金は任意積立金となる。ただし、租税特別措置法などの特別法上の準備金は、その計上が会社の任意ではなく、法令で定められたものであるので、負債の部の次に別の区分を設けて表示することも認められている(会社計算規則119条)。
[宮崎 徹・中村義人 2022年11月17日]
『EY新日本有限責任監査法人編『現場の疑問に答える会計シリーズ7 Q&A 純資産の会計実務』(2019・中央経済社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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