傀儡子(読み)かいらいし

精選版 日本国語大辞典 「傀儡子」の意味・読み・例文・類語

かいらい‐しクヮイライ‥【傀儡子】

  1. 〘 名詞 〙 人形。あやつり人形。転じて、他人にあやつられて、その考えのとおりに動く人。傀儡

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「傀儡子」の意味・わかりやすい解説

傀儡子
かいらいし

人形遣いの古称。傀儡師とも表記される。和訓で「くぐつ」「くぐつまわし」といい、この語源には、人形などの道具を入れて歩く久具(くぐ)という植物を編んだ籠(かご)とか、唐代語のkulutsなど外来語説などがある。古くは、曲芸や人形を操る芸などを生業とした古代日本の漂泊民をいった。すでに奈良時代にはこれらの人々がいたと推定されるが、10世紀中ごろの『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』に「久々豆(くぐつ)」の語がみえ、そのすこしあとの『散楽策問(さんがくさくもん)』には9世紀ごろに藤醜人(とうしゅうじん)が中国の傀儡を習って宮中で演じたと記されている。しかし、彼らについての詳細が明らかになるのは平安中期以降で、『本朝無題詩(むだいし)』『枕草子(まくらのそうし)』『傀儡子記』などの文献にみえ、男は弓馬を使って狩猟し、刀玉のような曲芸をし、幻術をし、人形を操り、女は唱歌淫楽(いんらく)の遊女を業とした漂泊の民であった。平安末期になって、『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』にみるように「てくぐつ」の語が出てくるが、手で直接人形を持って操る人形遣い、またはその人形戯をさし、傀儡子の語は狭義に使われるようになった。室町時代の文献には「てくぐつ」の用例が多い。中世末から近世初頭にかけて、摂津西宮(にしのみや)(兵庫県)の戎(えびす)神社を根拠とする集団が勢力をもち、「えびすかき」(夷舁)と称して各地を回ったが、これが浄瑠璃(じょうるり)と結び付いて人形浄瑠璃が発生していった。また一方において大道芸化し、首に人形箱をつるし、その箱の上で人形を操って門付(かどづけ)して歩く首かけ人形芝居が盛行した。江戸時代にはこれが傀儡子(師)芸と目され、幕末まで続いた。「首かけ芝居」「木偶(でく)まわし」「山猫まわし」などともいわれ、その特異な風体清元の歌舞伎(かぶき)舞踊にいまもみられる。

[西角井正大]


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旺文社日本史事典 三訂版 「傀儡子」の解説

傀儡子
くぐつ

平安時代に人形を使い刀剣芸なども行った旅芸人
のち神社にも所属。中世,摂津西宮えびす社の神輿舁 (しんよかつぎ) が栄え,阿波・淡路の操 (あやつり) 人形に影響を与え,浄瑠璃人形芝居の原型となった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「傀儡子」の意味・わかりやすい解説

傀儡子
くぐつ

傀儡師」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の傀儡子の言及

【傀儡子記】より

…成立年不詳だが,寛治年間(1087‐94)以降の成立であろう。傀儡子(傀儡)は,元来は人形を操って生計を立てる芸人を指していたようだが,日本では同時に歌舞,売媚などもする遊女のようなものであった。本書によれば,彼らは水草を追って移動する流浪の徒であり,男は弓馬を使って狩猟し,弄剣の伎を見せ人形を舞わせ手品めいたこともする。…

【細男】より

…古代・中世の祭礼芸能。声納,青農,精農などとも記し,〈さいのお〉〈くわしお〉などとも読む。大社寺の祭礼に巫(みこ),師子舞,田楽(でんがく),王の舞,十烈(とおつら),猿楽などとともに出た芸能で,《栄華物語》巻二十四に,〈御霊会の細男の手拭して顔隠したる心地するに〉とあるように,その芸態は,烏帽子姿の者が白布で顔を隠し,胸につけた鼓を打つ。平安時代末の姿を伝える《年中行事絵巻》の祇園御霊会の図中に,馬乗姿が描かれている。…

【人形浄瑠璃】より


【人形浄瑠璃の歴史】

[成立]
 浄瑠璃は,三河国矢矧(やはぎ)の長者の娘浄瑠璃姫と牛若丸の恋物語で,《十二段草子》とも呼ばれ,中世後期から近世初期に多くの絵巻や草子に書き留められたが,本来は三河の巫女たちによって語られた女主人公をめぐる鳳来寺峰の薬師の霊験譚であったといわれる。その成立については,少なくとも1474年(文明6)ころには,薬師如来の申し子である姫の誕生,牛若との悲恋,死と成仏を語る現在の《しゃうるり御前物語》(山崎美成旧蔵)のごとき長編が都で行われていたと考えられ,1世紀余りのちの〈文禄から慶長への交〉には,外来の三味線を伴奏楽器として,傀儡子(くぐつ)の人形戯と結んで,人形浄瑠璃が成立する(《絵巻`上瑠璃’》および《しゃうるり十六段本》所収の信多純一説)。そのころには,すでに浄瑠璃姫物語以外の新作や幸若(こうわか)の曲目が浄瑠璃の節で語られ,〈浄瑠璃〉は一作品名から一語り物ジャンルの名称に転じていた。…

※「傀儡子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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