通常の銀行が預金によって資金を調達するのに対して、債券(金融債)の発行によって資金を調達し、これを原資として貸出を行う銀行。
[土方 保・前田拓生 2016年3月18日]
預金は出し入れが自由だが、大勢の人・法人が決済資金として利用していることから、大数(たいすう)の法則(経験則的な確率と理論的な確率が一致する)が成り立ち、個別銀行レベルにおいても極端に預金残高が変動するといった事態になることは少ない。預金を原資とする資金運用の場合は、このように大数の法則をよりどころにしつつ、一定量の預金準備を保有することによって、預金で調達した資金を用いて貸出等を行うことになる。この場合、景気循環などの経済環境の変化については統計的な確度をもって預金準備等を計算していることから、短期的な経済変動であれば、銀行が資金不足をおこすおそれはきわめて少ない。しかし、設備投資資金等の長期的な貸出の場合には予測を超える変動がおこる可能性が高まる。他方、債券での資金調達の場合、発行時に決めた満期時点までは基本的に資金が流出する可能性が少ないので、計画的に運用することができる。そこで毎月一定量の債券を発行し続けることで、商業銀行(おもに預金で資金を調達するような銀行)では供給しえないような長期の信用を供給し得たのが債券発行銀行であるといえる。このような銀行が発行する債券をとくに「金融債」という。
[前田拓生 2016年3月18日]
日本における金融債の発行は、特別法によって設立された金融機関に限られ、第二次世界大戦前は、日本勧業銀行、日本興業銀行、北海道拓殖銀行、農工銀行などの特殊銀行が発行していた。戦後、特殊銀行制度は廃止され、1950年(昭和25)には「銀行等の債券発行等に関する法律」が制定されて、すべての銀行が一定の条件のもとに債券を発行することができるようになった。しかし、このような状態は長短金融市場の混乱を招くという意見が強く、1952年に「長期信用銀行法」、1954年に「外国為替(かわせ)銀行法」が制定されて、債券の発行はふたたび長期信用銀行と東京銀行に限定されることになり、資金の調達・運用を長期と短期に分けた長短金融分離政策が金融行政の根幹として定着した。債券の発行限度は、日本興業銀行(現、みずほ銀行)、日本長期信用銀行(新生銀行を経て、現、SBI新生銀行)、日本不動産銀行(後の日本債券信用銀行。現、あおぞら銀行)は資本金および準備金の30倍、東京銀行(後の東京三菱(みつびし)銀行。さらに三菱東京UFJ銀行となり、2018年三菱UFJ銀行と改称)は10倍とされ、債券発行銀行は、戦後復興期、高度成長期を通じて、設備資金、長期運転資金などの供給のうえで大きな役割を果たした。なお、金融債の発行が認められているのは、このほかに、組合金融である農林中央金庫、商工組合中央金庫、信金中央金庫となっている。
[土方 保・前田拓生 2016年3月18日]
しかし、1990年代から2000年代初めにかけて、合併や破綻(はたん)などで、金融債の発行が認められていない普通銀行への業態転換が相次いだことや金融商品の多様化等もあり、金融債の新規発行を停止する金融機関が相次いだ。みずほ銀行は2007年(平成19)3月に、新生銀行は2013年4月に、あおぞら銀行は2011年9月に、三菱東京UFJ銀行は2002年3月に、農林中央金庫は2006年3月に(募集債である利付農林債は2019年4月から)、商工組合中央金庫は2012年12月にそれぞれ金融債の新規発行を停止している。2022年(令和4)時点では、信金中央金庫が信金中金債(リツレン)を発行しており、発行残高は同年3月末時点で1兆5473億円となっている。
[前田拓生 2016年3月18日]
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