金融機関が資金吸収のために発行する債券。金融債の発行は特別法により設立された金融機関に限られ、発行する金融機関の種類によって銀行債と特殊金融債に分けられる。また、金融債は形式上の利子の有無によって利付債と割引債に分けられ、利付債はほとんどが期間5年で、金融機関消化であり、商品名「リツ〇〇」(たとえば利付商工債券は「リッショー」)とされ、割引債は期間1年で、個人消化であり、商品名「ワリ〇〇」(たとえば割引商工債券は「ワリショー」)と称される。発行限度は発行主体の資本金・準備金合計の30倍(当初は20倍、1981年に拡張、後出の東京銀行のみ当初5倍を10倍に拡張)で、発行には担保を要しない。
まず、銀行債は次のような経過をたどる。第二次世界大戦前には日本勧業銀行、各府県の農工銀行、日本興業銀行によって勧業債券、農工債券、興業債券が発行された。戦後は1950年(昭和25)に制定された「銀行等の債券発行等に関する法律」によっていったんは一般銀行にも銀行債の発行が認められたが、1952年の長期信用銀行法、1954年の外国為替(かわせ)銀行法の制定によって、ふたたび長期信用銀行と東京銀行に限定された。すなわち、日本興業銀行、日本長期信用銀行、日本不動産銀行の3行は、長期信用銀行法に基づき長期金融を営む資金吸収手段として、それぞれ興業債券、長期信用債券、日本不動産債券(のちに日本信用債券)の発行が認められ、外国為替銀行法に基づく東京銀行も外国為替業務の資金源として東京銀行債券の発行が認められていた。
その後、発行銀行の合併、破綻(はたん)などのため発行債券は次のように変化した。興業債券は、発行主体の日本興業銀行が富士銀行、第一勧業銀行と合併して成立したみずほ銀行に継承され、長期信用債券は破綻した日本長期信用銀行の後身である新生銀行(現、SBI新生銀行)に継承され、日本信用債券は破綻した日本債券信用銀行(日本不動産銀行の改称)の後身であるあおぞら銀行に継承された。東京銀行債券(期間3年の利付債のみ)は、東京銀行と三菱(みつびし)銀行の合併により成立した東京三菱銀行(現、三菱UFJ銀行)に引き継がれ、東京三菱銀行債券となったが、すでに2002年(平成14)に発行を停止した。
みずほ銀行、新生銀行、あおぞら銀行の金融債発行は、1999年以降普通銀行に社債発行が認められ、資金調達手段が多様化するなかで、消化基盤を失い、縮小傾向にあった。2008年3月末の発行残高はみずほ銀行が3兆1710億円、新生銀行が6631億円、あおぞら銀行が2兆0696億円で、それぞれ当初発行額から著しく減少した。なお、みずほ銀行は2007年3月、新生銀行は2013年4月、あおぞら銀行は2011年9月に、新規発行を停止している。
他方、特殊金融債には、第二次世界大戦前から組合金融のための特殊法人である農林中央金庫、商工組合中央金庫が特別法に基づいて発行する農林債券、商工債券があるが、1988年から信金中央金庫の発行が加わった。2008年3月末の発行残高は、農林中央金庫が4兆8221億円、商工組合中央金庫が6兆8219億円、信金中央金庫が4兆4602億円で、銀行債よりも多かったが、農林中央金庫は2006年3月(募集債である利付農林債の発行は2019年4月)、商工組合中央金庫は2012年12月に新規発行を停止した。
かくして第二次世界大戦後、金融市場から長期資金獲得の手段として大いに機能した金融債の発行残高は、銀行債・特殊金融債をあわせ1994年の80兆円から2008年では22兆円へと縮小し、2022年(令和4)時点では信金中央金庫のみが発行を続けており、その発行残高は1兆5473億円となっている。
[麻島昭一]
金融債は,特定の金融機関が特別の法律に基づいて発行する債券である。現在,金融債を発行している金融機関は日本興業銀行,日本長期信用銀行,日本債券信用銀行(以上長期信用銀行法),商工組合中央金庫(商工組合中央金庫法),農林中央金庫(農林中央金庫法),東京銀行(外国為替銀行法)の6機関である。金融債には割引金融債と利付金融債の2種類がある。
(1)割引金融債 単に〈割引債〉または〈ワリサイ〉とも呼ばれ,個人投資家によって大半が消化されている。割引金融債は一定の期間を定めて,同じ条件で売り出すいわゆる売出方式により発行されているので,売出期間中にいつでも買うことができ,売出最終日より前に買うときは,定められた割引条件の割合で割り引いた価格で買うことができる。期間は1年で,利率は1970年1月発行分より従来の日歩建てから年利建てへの変更が行われた。また,額面金額と売出価額との差額(割引料)については源泉分離課税方式で課税されるが,その税率は一般の利付債(総合課税,分離課税のいずれかを選択)の分離課税のそれに比べて低率となっている。課税分を考慮しなければ1年ものでは銀行定期預金や郵便局定額貯金に比べ高利回りなので,非課税枠がいっぱいの人などに利用されることが多い。
(2)利付金融債 償還期限5年(ただし東京銀行債券は3年)で,おもに発券銀行が取引関係等をとおして直接,金融機関や事業会社,個人等に販売している。利付金融債は債券流通市場において,国債についで売買高の多い債券となっている。期限5年の利付金融債の応募者利回りは,長期プライム・レートに対し一定の利回り幅を保つ(低くなっている)慣行となっている。1969年7月発行分より売出発行方式も採用され,以後募集発行と売出発行の2本立てで行われている。売出発行の場合,売出日の翌日から売出最終日までの期間について定められた利率の割合で利息が前払いされる。
→割引債・利付債
執筆者:根本 有一
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…発行主体による分類のほか,担保の有無により,担保付社債と無担保社債,債券上の権利者の表示の有無により,記名債券と無記名債券(日本では,実際上すべて無記名債券である),募集地域の内外により,内債と外債(外貨表示の外債を外貨債という。ただし,円建外債は,外国,国際機関,外国企業が日本で発行する円建債をいう),利札の有無により,利付債と割引債(割引債・利付債),現実に債券が発行されているか否かにより,現物債(本券ともいう)と登録債,発行主体の性質により,金融債(金融機関が発行)と事業債(一般事業公社が発行),発行方法により,公募債(公募)と私募債(縁故債),償還期限の長短により,長期債,中期債,短期債,などに分類される。債券には,元本償還や利息支払の条件が記載されている(要式証券。…
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